異常なまでの敵視。学術会議を「違法状態」で放置する菅首相の魂胆

arata20201029
 

日本学術会議の会員候補任命拒否について、変更の考えがないことを衆院本会議で示した菅首相。拒否理由についても説明を拒みましたが、官邸はこのまま当問題の幕引きを図るつもりなのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、任命拒否を付け焼き刃の議論で正当化しようという首相の姿勢を批判するとともに、憲法の恣意的解釈まで行う官邸を強く非難しています。

菅首相は日本学術会議を違法状態のまま放置するつもりか

いま、日本学術会議について、菅首相が違法状態をつくり出している、と憲法学者、木村草太氏は言う。

同会議が推薦した105人の新会員のうち、6人の任命をしなかったことにより、会員数は204人となっている。これは日本学術会議法7条1項(下記)に違反する。

日本学術会議は二百十人の日本学術会議会員をもつて、これを組織する。

自らが引き起こしたこの違法状態を菅首相はどう解決するつもりなのだろうか。すみやかに、除外した6人を任命する以外、合法的解決策はないのではないか。

驚くべきことに、10月26日夜のNHK「ニュースウオッチ9」で、菅首相はこんなことを言い出した。

「会員が特定の出身大学に偏っている。民間や地方の大学や若い研究者とか、まんべんに選んでほしいと思っている。現職の会員が推薦できる仕組みが果たしていいのかどうか。選考委員会があっても、どうしても自分の近い人を選ぶようになってしまう」

もちろんこれでは、6人の学者を任命拒否した理由にはならないが、百歩譲ってこの発言を受け入れるとしたら、こんどは同法17条の下記条項に違反する。

日本学術会議は、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。

優れた研究又は業績がある科学者を選考。これは、国力のうえでも、外国のアカデミーとの交流の上でも必須である。ところが、菅首相は地方大学、若手、民間の研究者もまんべんなく入るようにせよ、という。

つまり、学術会議を、国や自治体の審議会と同じようにとらえている。表向きは多様な意見を行政に反映させるため、実態としては都合のいい結論に導くための思惑が、審議会メンバーの選定には働いている。

審議会と混同した考え方をあえてとり、学術会議の独立性を保つための法律に違反することもかまわず、それを「改革」「前例踏襲打破」と称しているのである。付け焼刃の議論で正当化しようとあがいても、蟻地獄に沈むばかりだ。

国民の納得する説明が必要では、という「ニュースウオッチ9」司会者の質問に、菅首相の目はつり上がり、声の出力は倍増した。学術会議に対するこの怒りのような熱感はどこから生まれたのだろうか。

今年9月末まで日本学術会議の会長だった山極寿一・京都大前総長は、政府から学術会議への風圧がいかに強かったかを明かしている。

「会長になってから私は度々『政府に協力的でない』と不満を表明されてきた」

これは山極氏が京都新聞に寄稿した文章の一部である。山極氏が会長に就任する半年前の2017年3月、日本学術会議は戦争、軍事を目的とする科学の研究を行わないという従来の声明を継承する意思を表明した。「政府はこれが気に入らなかったようで…」と山極氏は記し、次のように続けた。

「民主主義国家でアカデミアの人事に今回のような国家の露骨な介入を許している国はない」「今回の暴挙を許したら、次は国立大学の人事に手が伸びる」。

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