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人生における「クルマ」の効用。運転中の不便、実はメリット無限

時間に縛られず、他人との距離も気にする必要がないのはクルマ移動の長所です。一方で自分で運転する場合、移動中は運転以外のことがほとんど何もできないという短所もあります。そんな短所もひっくるめて「クルマ移動が好き」と語るのは、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さん。言われてみれば納得の現代社会ならではの理由に加え、クルマに限らずバイク、自転車、ジョギングなどを人が気持ちいいと感じる理由についても見解を綴っています。

クルマ移動のこと

移動をする時、1000kmくらいまでは車で行く。勿論、スケジュール的に無理がないというのが大前提だが、体力的には結構な無理でも押して行く。要は運転することが好きなのであろう。とは言え、道程1000kmともなると高速道路でも半日コースである。周囲の者からは呆れられるか、感心する風を装いながら呆れられるかのどちらかである。少なくとも褒められることはまずない。

最終的には、好き嫌いの問題になるのだろうが、一応利便性の観点からもそれなりの主張はできる。まず1つ目の利点は、比較的時間が自由になるところである。出発時間や休憩時間などは任意に決められる。2つ目は、搬送能力の高さである。車だと乗り換えの度に大荷物に悩まされるということはない。3つ目は、出先が公共交通機関の発達していない地方都市でも移動に困らないことである。4つ目は、深夜割引や土日休日割引を上手く利用すればガソリン代を計算に入れてもそこそこ安くなるというところである。さらに同乗者の頭数が増えればそれだけ1人当たりの料金は安くなる。

一方、欠点はというと、とにかく時間がかかることである。それは移動距離が長くなればなるほど他の交通手段、例えば飛行機や新幹線と比べて顕著に差として表れる。また移動時間に何かするということもできない。せいぜい音楽やラジオを聴くくらいであろう。行った先々で駐車場探しをしなければならないし、あらぬ時間に到着することもあるから先方との時間調整も必要となる。そして一番大きな不安要素は必ず目的地に着くとは限らないというところだ。言い換えれば、移動における全責任は自己にあるということである。

ここまで書き立てると、自分が余程物好きのような気がしてならないが、そもそも横着者の自分がわざわざめんどくさいことを自ら進んでやるなどあり得ないことなのでそこには相当の理由がないと自己同一性の観点からも困ることとなる。何がそんなにいいのだろうか。

前挙げた自動車移動の欠点の1つに、何もできないというのがあった。実はこのこと自体が自分にとっては好ましいものとして作用しているのではないかと思えるのである。振り返ってみれば、我々の生活の中から何もできない(故に何もしない)時間はどんどん無くなって行った。そしてスマホの普及でそれは今日決定的なものとなった。

しかし、自分にはどうやらその時間が必要みたいなのである。運転中であれば、電話やメール等に即応答できなくてもそれを責められることはない。自分にとって半日なりの運転時間は玄関先に避客牌をぶら下げているのと同様の精神的効果があるようで、故にこれを好むのであろう。

さらに精神的効果の面から言うと、自動車が自分で操れる道具の中で最速の存在であるという事実も大きいように思う。自分は良い意味でも悪い意味でも沈潜する性質である。そんな自分にとり時速100kmでひたすら前進するという現象そのものが心地よいのであろう。

遠くに見えていた街の灯がどんどん近くなり、知らぬ間に自分もその灯の一部となって明るい道路を走っていると、いつしかその灯もバックミラーの中で遠く小さくなって行く。当たり前の物理現象だが、たとえ物理的であっても前に進むということがそのまま精神的な前進感を幾許かは満足させるのであろう。

そう考えれば、クルマに限らず、バイク、自転車、ジョギング、いつもと違うスピードで前進するという行為は精神的に前進することの代替的行為と言えなくもない。やはり人間にとって前へ前へと走ることは必要なことなのかもしれない。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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