クルーグマン教授の「トランプ嫌い」が示す、酔っ払い大統領選挙と米国の終焉

 

「冷戦が終わった」とはどういうことか

89年に「冷戦が終わった」ことを宣言した時、それがどういうことなのかについてゴルバチョフは分かっていたが、ブッシュ父は全然分かっていなかった。そのことが、その後30余年に及ぶ米国のダッチロール的な迷走の起点となった。

国家と国家が利害を争い、いざとなれば戦争に訴えるのも当たり前という国民国家同士の熱戦の時代が16世紀に欧州で始まり、それが外延化して帝国主義戦争の時代、軍事力で優位に立ってそれに打ち勝った者が世界制覇を成し遂げるという覇権主義の時代が訪れた。

ところが20世紀になると、戦争はそれまでのある意味で牧歌的な性格を失い、科学技術の発達による航空機、潜水艦、爆弾の高性能化、毒ガス兵器等々の最新兵器が実用化されたことによって、敵国の市街地や工場地帯への直接攻撃を行ない、兵士だけでなく一般市民を無差別大量殺戮することで戦果を競うようになった。その行き着く先の極端が、広島・長崎への原爆投下だった。

で、「冷戦」とは何かと言えば、広島・長崎の究極の「熱戦」の惨状にさすがの米国も相手方のソ連も戦慄し、「これからも戦争はあるかもしれないが、核兵器だけは安易に使おうと思わないよう気を付けましょうね」という、核兵器使用抑制の暗黙合意だったのである。

だから、冷戦が終わったから元の熱戦に戻るのではなく、冷戦にせよ熱戦にせよ、国家と国家、あるいは同盟と同盟が生死を賭けて戦って勝ち負けを決するという数世紀に及ぶ野蛮な国家間戦争の時代を卒業して、「共同の利益の場合を除く外は武力を用いない」(国連憲章前文)、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(日本国憲法第9条1)方向へと歩み出すのでなければならなかった。

が、ブッシュ父はこの事態を、「冷戦という名の第3次世界大戦に米国は勝利した。ソ連は崩壊しワルシャワ条約機構は解体されて、今や米国は“唯一超大国”となった」と理解した。一人勝ちとなった米国を妨げる者はもはや誰もいない。そのことを試してみせたのが、91年1~2月の湾岸戦争であり、それを継承・拡大して「単独行動主義」として定式化し、2003年3月にイラク戦争に突入したのがブッシュ・ジュニアだった。このブッシュ親子の「唯一超大国」「単独行動主義」が今のトランプの「米国第一主義」にまで繋がっているのである。

高野孟さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

print
いま読まれてます

  • クルーグマン教授の「トランプ嫌い」が示す、酔っ払い大統領選挙と米国の終焉
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け