クルーグマン教授の「トランプ嫌い」が示す、酔っ払い大統領選挙と米国の終焉

 

米インテリジェンス界の懸念は的中した

こうした米国の有様に、最も早くから舌鋒鋭く批判を浴びせていたのはシラク仏大統領の政治顧問だったフランスの知識人エマニュエル・トッドである。彼は『帝国以後』(03年、藤原書店刊)でこう述べていた〔以下、詳しくは高野著『滅びゆくアメリカ帝国』(にんげん出版、06年刊)を参照〕。

アフガニスタンとイラクに対する派手な戦争は、米国の強さよりも弱さの表れである。

弱さとは、経済的に見て米国はモノもカネも全世界に依存して生きるほかなくなっていることであり、外交的・軍事的には、それを維持できなくなる不安からことさらに好戦的姿勢を採って、自国が世界にとって必要不可欠な存在であることを証明しようとするのだが、欧州、ロシア、日本、中国など本当のライバルを組み敷くことは出来ないので、イラク、イラン、北朝鮮、キューバなど二流の軍事国家を相手に「劇場型軍国主義」を演じるしかないこと、である。

こういう米国の酔っ払いのような情緒不安定は、要するに、冷戦の終わりに際して、「“唯一超大国”になった」という誇大妄想に陥り、ロシアがそうしたように、米国もまた「普通の(超のつかない)大国」に軟着陸しなければならない運命にあることを自覚しなかったことにある。

結局のところ、米国は暴走して破綻し、世界の中心は欧州、ロシア、中国、日本が緩やかに連携したユーラシアになって、米国が生き残るとすればそのような多極世界の1つの極をなすローカル大国として自らを定位出来た場合だけである……。

フランス人らしい手厳しさで、ブッシュ・ジュニアでさえ「酔っ払いのような情緒不安定」だったとすると今のトランプなど泥酔状態ということになりそうである。ところが驚いたことに、当時、米国政府内の全インテリジェンス機関の協議体である全米情報評議会(NIC)は、米国自身の行末についてトッドとほぼ同質の懸念を抱いていた。NICは4年に一度、米国の未来を予測する「グローバル・トレンド」という報告書を出してきたが、04年12月刊行の『2020年の世界』はこう述べていた。

20世紀が米国の世紀であったのに対し、21世紀は中国とインドが先導する世紀となるだろう。

拡大された欧州は、国際舞台で一層ウェイトを増し、新興勢力にとって世界外交と地域統治のモデルを提供することになろう。

日本は地域内でどのような地位と役割を得るかが大きな課題で、とりわけ台頭する中国と対抗的に「バランスを取ろう」とするのか、それとも中国の勢いに「乗り遅れまい」とするのかを選択しなければならないだろう。

ロシアは恐らく、既成勢力としての米国や欧州にとっても、新興勢力としての中国やインドにとっても、主要なパートナーとなるはずである。

中国とインド、そして恐らくブラジルやインドネシアなど「成り上がり」国家は、今までの西と東、北と南、同盟と非同盟、先進国と途上国といった旧式のカテゴリーを廃棄してしまうかもしれない。

米国の対テロ戦争は、アジア諸国にとっては見当違いなものと映っており、米国が同地域の安全保障について魅力的なビジョンを示さなければ、中国が地域安全保障秩序の対抗案を出して米国を排除することにもなりかねない……。

高野孟さんのメルマガご登録、詳細はコチラ

print
いま読まれてます

  • クルーグマン教授の「トランプ嫌い」が示す、酔っ払い大統領選挙と米国の終焉
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け