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中国の暴言に抗議せぬ茂木外相と外務省の無知、弱腰外交の病根とは?

11月24日、日中外相会談後の共同記者会見の場で中国の王毅外相が尖閣諸島の領有権を主張しました。この暴言に対し、日本の茂木外相がその場で抗議しなかったことで自民党内からも批判の声が上がっています。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、まず王毅外相の言動が日本の反応など歯牙にもかけない中国国内向けであることを解説。想像力の足りない事前のルール作りと、そのルールに縛られた外相、外務省の甘さを嘆いています。

中国要人の強硬発言は国内向け

28日付の読売新聞朝刊で、こんな記事が目につきました。

「茂木外相は27日夕の記者会見で、中国の王毅国務委員兼外相との24日の共同記者発表で尖閣諸島(沖縄県)への中国公船の派遣を正当化する王氏の発言に反論しなかったことについて、『外相会談で懸念を伝えた。記者発表はそれぞれ一度ずつ発言するルールで行っている』と釈明した。王氏の発言は『全く受け入れることはできない』とも強調し、火消しを図った。

 

茂木氏の対応には、自民党から不満の声が出ている。27日の参院本会議でも、同党の山田宏参院議員が『国民はビシッと反論してほしかったと強く感じている。なぜ反論しなかったのか』と異例の批判を行った。

 

複数の外務省幹部は、『一度ずつ発言するというやり方をうまく利用された』『王氏があそこまで言うとは思わなかった』などと、悔しさをにじませる。

 

川島真東大教授(東アジア国際関係史)は『記者発表が言いっ放しになるのはよくあることだが、ルールは形式的なもので、トランプ米大統領なら反論していただろう』と指摘した」(11月28日付読売新聞)

これを読んだ頭に浮かんだのは、外国で発言する場合でも常に国内を意識しなければならない中国要人の行動様式という問題です。中国では、特に日本に対する弱腰の姿勢は禁物です。中国国民は、普通では声をあげにくい共産党政権への様々な批判を、日本に対する弱腰批判の形でぶつけ、それを突破口に政権を揺さぶってくる傾向があるからです。

習近平国家主席の日本訪問が視野に入っている中で、それとは矛盾するような尖閣諸島周辺での中国公船の活動が活発化するのは、日本との関係を改善するための国内的な地ならしの面があるのです。

こんな書き方をすると、「そんな習近平の姿勢を信用するのか」といった声が出てきそうですが、中国側は自国の国益にとって必要な対日姿勢を決めている訳ですから、そんな幼稚なことは言わず、日本も国益をかけて対峙していけばよいだけです。

いまひとつ、王毅外相の個人的な立場もあります。王毅氏は駐日大使を務め、高度な日本語と英語を操る有数の知日派です。そうであればこそ、親日派のレッテルを貼られたり、日本に肩入れしていると見られたりすることは、政治生命を左右することになりかねません。だからこそ、必要なタイミングを捉えては厳しい対日姿勢を発信するのは当然のことなのです。

尖閣諸島問題については、今回の会談の主要テーマでなかったとはいえ、外務省が言うように双方が言及した訳です。中国側の主張に茂木外相が日本の立場を伝えたことは言うまでもありません。それに、習近平国家主席の来日や経済面での日中関係の深化がテーマですから、記者会見で先に発言するホストの茂木外相が尖閣問題に触れないのは、当たり前でもありました。しかし、そのあとに発言する王毅外相が中国国内を意識して強硬姿勢をのぞかせ、慣行を重視する日本側はその場では反論しませんでした。

それが自民党内からの茂木外相への弱腰批判となったわけで、今後は記者会見で言及するテーマを双方ですり合わせ、それから逸脱する発言があった場合には、その場で反論するようにしておけばよいだけです。それができないタイプの外相だったら、外務省はマスコミを通じて即座に反論を発信し、相手国にも抗議、あるいは遺憾の意を伝えなければなりません。

自民党から突き上げられ、やっと3日後に読売新聞に取り上げてもらうようでは、日本には外交を語る資格などありませんね。(小川和久)

image by:Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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