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だから潰れる。アパレル「在庫持つな」「原価率下げろ」の時代遅れ

7日に2度目の緊急事態宣言が発出され、百貨店の衰退が叫ばれていたコロナ以前にも増して大打撃が予測されているアパレル業界。しかし、多くのアパレル企業は旧態依然とした戦略を繰り返しているだけのようです。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、アパレル業界の辿ってきた道を振り返りながら、いまだに現状を受け入れられていない企業に対して厳しい口調で苦言を呈しています。

コロナ以前の「在庫は悪」という常識

「モノ不足時代」は、商品の調達が商売の基本だった。優秀な百貨店バイヤーは、アパレルの倉庫に出かけ、他の百貨店向けの商品を無理やり、自社に振り分けた。商品を確保できるだけ、売上が上がった。

当時は在庫は商売の源泉だった。在庫を備蓄することは、利益を備蓄することだった。

やがて、供給が需要を超えるようになり、「モノ余り時代」が到来した。工場よりも小売店が強くなり、売り場を確保することが利益のもとになった。

「大量生産した商品をいかに売るか」という「プロダクトアウトの発想」ではなく、「売れる商品を売れる時期に売れる量だけ供給するべきだ」という「マーケットインの発想」への転換が提唱された。そして「在庫は悪」という考え方が広まった。

「在庫を持たない」で商売するには、計画的に商品供給が行われ、予算通りに売上が上がることが条件となる。

コロナ禍で都市がシャットダウンして、長期間店舗が閉鎖された。同時に、世界中の工場も閉鎖した。つまり、売上予測も商品供給の予定も立たなくなったのだ。「在庫を持つな」と指示しても、店舗が閉鎖されれば在庫は残るし、工場が閉鎖されれば商品供給が間に合わない。コロナ以前の「在庫は悪」という発想は、コロナ禍と共に変えざるを得ないのである。

素材開発と計画生産

コロナ禍の中でも、ユニクロとワークマンは比較的好調である。ユニクロ、ワークマンと一般アパレルの何が違うのだろうか。

ユニクロ、ワークマンは独自の素材開発を行い、計画生産をしている。素材開発をするには、店頭展開の一年前からスタートしなければならない。適正なリードタイムを確保しないと開発はできないのだ。

一般アパレルは、できるだけリードタイムを短縮し、引きつけてから生産することを考える。そうなると、生地屋が在庫している「あり生地」から選ぶことになる。「あり生地」を使うと、競合他社からも同じ生地の製品が出てくる。差別化するには、トレンドに対応した製品デザインに依存するしかない。

ユニクロ、ワークマンは素材で差別化しているので、製品デザインはベーシックでも良い。そして、ロングセラーで販売するならば、セールで見切る必要もない。

コロナ禍で店や工場が閉まっても、ベーシックなアイテムの在庫があれば商売を継続できる。逆にいえば、半年で売り切るMD計画では必ず不良在庫が残るのだ。

店舗販売では視覚的な差別化が重要だし、ショップ全体のブランドの統一感が重要になる。従って、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)が重視される。

ネット販売は、ブランド表現よりも、単品販売に向いている。スペックや機能が重視され、素材の差別化が重要になる。製品デザインはシンプルな方が顧客の幅も広がるだろう。

私はコロナ禍を機に、ベーシックな素材をデザインで差別化するのではなく、素材や機能で差別化し、ベーシックなテザインで勝負すべきと考えている。そして、販売期間を長く設定し、ある程度の在庫は持って商売する方が有利だろう。コロナ禍で在庫の持ち方、MDの考え方、差別化ポイント等が全て変わるのである。

原価率を上げて、顧客満足を得る

国内生産がメインだった頃、婦人アパレルの原価率は35%前後だったと思う。そして、小売価格も現在の3~4倍の水準だった。

縫製工場の立場は現在より強く、面倒なデザインを持っていくと、嫌な顔をされたものだ。

中国生産が始まって、製品を安く作れるようになった。どんなに面倒なデザインでも嫌がらずに引き受けてくれた。

中国生産により、アパレル製品の小売価格は下がり、原価率も25%程度まで下がった。アパレル企業は儲かると思ったのだが、結果をみると、価格競争が激しくなり、小売価格の相場が下がったために、市場が収縮し、アパレル企業の売上、利益共に下がっていった。

「原価率を下げる」ことは、「自社の利益を上げる」ことである。「原価率を下げろ」という指示は、まず自社の利益を確保しろ、という意味だ。

しかし、顧客にとって原価率を下げた商品とは、割高な商品という意味だ。コスパが悪い商品である。

ユニクロやしまむらの原価率は、一般アパレルよりも高く、40%程度である。つまり、コスパが良い商品ということになる。

コスパの悪い商品とコスパの良い商品を比較すれば、コスパの良い商品が選ばれるのは当然である。

ブランド価値がある商品ならば割高でも満足できるかもしれないが、欧州のラグジュアリーブランドのようなステイタスを持つブランドは皆無に近い。

私は一般アパレルは原価率を上げ、質の良い商品を作るべきだと思う。では、どうすれば原価率を上げることができるのか。

たとえば、プロパー販売比率を上げれば、原価率を高く設定できる。

小売価格を上げても顧客が満足できる商品なら原価率を上げることができる。

社内の経費をカットすれば、原価率を上げることができる。トータルな流通コストを削減すれば、原価率を上げることができる。また、生産数量を増やせば、原価が下がるので、原価率を上げることができる。

単純に商品原価を下げようとすると、生地の質を落し、縫製レベルの低い工場に委託することになる。もちろん、商品の質が下がるのだ。

中国の人件費が上がるのに、日本のアパレル製品の価格は上がらなかった。その分、商品の質が落ちているのだ。だから、原価率の高い企業に負けているのである。

そんな現状を改善しようとせずに、「原価率を下げろ」という指示を出すことは、自分の首を締めているのに等しいのだ。

コロナ以前には戻らない

コロナ禍で、アパレルビジネスは激変した。その変化に対応するには、在庫の持ち方、商品の考え方、商品の訴求ボイント、セールのあり方、リードタイムの設定、店舗販売とネット販売の比率、業務フロー等々を見直し、会社の体質を変えなければならない。

本来ならばその準備を、百貨店が閉まっていた3カ月の間に済ませなければならなかった。

もちろん、不採算店の閉鎖、不採算ブランドの閉鎖等は不可欠だっただろう。とにかく、赤字をくい止めなければ、会社は倒産してしまうのだから。

しかし、同時にアフターコロナのアパレルのあり方を考えなければならない。

その前提は、コロナ以前には戻らないということだ。なぜ、戻らないかといえば、コロ

ナ禍の赤字はなくならない。そして、消費マインドが回復するにはかなりの期間が必要に

なるということだ。

たとえ、ワクチンができても、景気は更に悪化するに違いない。そして、多くの企業は倒産する。

従って、仕事のやり方を変えなければならない。にも関わらず、現在のアパレル企業は「在庫を持つな」「原価率を下げろ」という従来の指示を繰り返しているのである。

このままでは、確実に淘汰される。しかも、淘汰されても誰も困らないだろう。というより、会社やブランドがなくなったことさえ、顧客は気がつかないのではないか。

仕事とはマニュアルとルーチンでできているのではない。市場の変化を観察し、自分の頭で対策を考え、勇気を持って仕事のやり方を変えなければならない。

そういう意味では、コロナは変革する大きなチャンスでもあるのだ。

 

編集後記「締めの都々逸」

「どうにかしろと 命令されて どうすりゃいいか 分からない」

「まず、自社の利益を確保しろよ」という指示は何も言っていないのに等しいと思います。「売上を上げろ」「利益を上げろ」「原価率を下げろ」「消化率を上げろ」「在庫を減らせ」等の指示は同じことを言っているだけです。

どのように経営指標を改善するか、という戦略が問題なのです。そして、具体的なアクションを指示しなければなりません。

自分が分からないことを部下に丸投げするようでは、管理職の資格はありません。存在意義もありません。

多くのアパレル企業で、「在庫を持つな」「原価率を下げろ」という指示が出ていると聞いた時、本当にがっかりしました。何も考えていない。何も勉強していない。これでは生き残れません。そんな憤りで書き進めた次第です。悪しからず。(坂口昌章)

image by: Stock for you / Shutterstock.com

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