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「質の良い睡眠」は売れる。スリープテックに学ぶビジネスの本質

朝なかなか起きられない。この時季は寒さのせいにしがちですが、睡眠の質に問題があるのかもしれません。ITの発達により自宅でも自分の睡眠状態の計測が可能になり、そうしたデータを利用して快適な睡眠と目覚めを助けてくれる商品が多く発売され注目されています。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんが「スリープテック」関連の商品を紹介し、流行の背景とビジネスモデルを解説。「売り切り」の商いを「ストック」型へ転換するヒントを示しています。

スリープテックに学ぶ、ストック商材のビジネスモデルの作り方

スリープテック、というコンセプトの商品やサービスが、ここのところ注目されています。今号では、スリープテックの周辺と、その流行の背景を深掘りし、この事例を、あなたのマーケティング活動の「どこに、どう活かす」べきなのかを解説していきます。

スリープテックはなぜ伸びているのか?

スリープテックとは、スリープとテクノロジーの掛け合わせの言葉で、ITを使って、快適に睡眠できるようにしよう、といったグッズやサービスの総称です。寝具などの製品にITを取り込むことで、寝ているときの状態を測れたりしますよね。私も、フィットビットというスマートウオッチを、アプリと連動させて使っています。

朝起きてそのアプリを起動させると、浅い眠り、深い眠り、レム睡眠などが、それぞれどれくらいずつあって、昨晩は、合計で何時間眠れたのか、といったそれぞれに「睡眠スコア」という点数がつくのです。そして、そのスコアに、「良い、やや低い、低い」といった評価が出るので、毎朝楽しみにみています。よく眠れて、スッキリと目覚めた朝には、やはり睡眠スコアも高く出るため、その日1日が爽快に過ごせます。

コロナ禍の中、在宅時間も長くなり、家の中のことを見直すことも増えているため、その1つとして、寝ること、よりよい睡眠をとることについても関心が高まります。日経新聞によると、スリープテックの市場は2026年に、世界では3兆円、2019年の3倍になると試算されています。

日本人はもともと、睡眠の質があまり良くない、という研究結果も出ていることもあり、スリープテックは、日本でこれからさらに広がるでしょう。このようなニーズを捉え、各企業が様々な睡眠を快適にするための、スリープテック・グッズを出しています。

どんなスリープテック商品があるのか?

では、スリープテックというカテゴリーの中に、どのような商品があるのかをみていきましょう。

フィリップスの「光目覚まし時計」は、心地よい目覚めや入眠を促すために、起きる30分ほど前から、LEDライトで部屋を徐々に明るくすることで、太陽光を浴びて“自然に目覚めるような”空間をつくることができるそうです。

また、家電量販店のビックカメラでは、その通販サイトにスリープテック商品のコーナーを設けて、そこで睡眠の質が測れるヘッドセットや、メガネの形をした、目にかけることで、いびきをコントロールできる機器などを販売しています。

スリープテックの代表的な商品といえば、布団やマットレスなどの寝具にITを取り入れる、というグッズとサービスの組み合わせです。

名古屋にある、株式会社MTGという会社は、「NEWPEACE Light」という、リラックスして気持ちよく眠るための、マットレスを出しています。このマットレスは、寝ている間の独自のストレッチの動きで、凝り固まった身体をやさしく伸ばしてくれるので、毎日の体のストレッチが自然にできる、というものです。

寝具大手の西川は、パナソニックと組んで、マットレスで睡眠時のデータを収集する、快眠環境サポートサービスという、継続課金サービス(サブスクリプション)を手がけています。寝ている間のデータを計測して、最適な睡眠かどうかなどのアドバイスを提供します。

加えて、連動しているエアコンで空調や温度を調整したり、音楽プレイヤーでリラックスできる音楽をかけたりと、ゆっくりと眠ることができる環境を整える、ということができます。

スリープテックの本質は何か?

ではなぜ、スリープテックの商品をだすのでしょうか?まず、これらの商品の特性を考えてみましょう。今まで、単品で販売していた家電商品や、布団などの寝具が、売り切りの商品ではなくなり、継続の商品になります。売り切りの商品は、購買者との関係も1回で切れてしまい流れていってしまう“フロー”の商品です。

一方で、継続の商品は購入者の元に「とどまる」“ストック”の商品です。アマゾンのKindleは典型的なストック商材です。Kindleを購入したユーザーは、以降ずっと、アマゾンでのみ電子書籍を購入します。これは、ストック商材である、据え置き型のゲーム機を一度買ってもらえば、ゲームソフトを継続して購入してもらう、という組み合わせと同じですよね。

また、この商品では、アプリを追加したり、サービスを改善していくことで、ユーザー側の愛着も湧いてくるので、ブランドスイッチを防ぐこともできます。西川とパナソニックのスリープテック商材のケースでは、スリープテック布団とアプリの組み合わせ、継続的に、有益な情報を提供することで、ブランドからの離脱を防ぐことができます。さらに、エアコンなどの周辺需要がある家電製品を、購入してもらうことで、売り伸ばしにもつながります。このように、ストック商材があることで、安定的な収益が見込めるのです。

どうしたらこの発想ができるのか?

このスリープテック商品の事例から、もう1つ学べることがあります。それは「商品ではなく顧客価値を売る」ということです。

フィリップスの事例では、時計という商品ではなく「快適な朝」を、NEWPEACE Lightは、マットレスではなく、「快適な眠り」を、それぞれ売っています。顧客が買うのは、時計でありマットレスですが、顧客が欲しているのは、快適な朝の目覚めや、ぐっすりと眠ることができる夜なのです。

製品開発をする段階で、「うちの会社は技術力があるから、いい時計を作ろう」とだけ考えていたら、目覚まし音のバラエティーが豊富、とか、デザインが綺麗な外見などといった、究極の時計はできるかもしれません。しかし、快適な朝の目覚めを提供する、独自化、差別化された、スリープテックの時計はできません。時計、として勝負をしていると、他の時計と比較されて、最後は価格の安い方が選ばれてしまう、という価格競争に陥ります。

時計を作ろう、と考える前に、時計のユーザーは、何を求めているのか、目覚まし時計を使う普段の生活の中で、ユーザーは何をしているのか?といったことを想像し、これをユーザーが喜ぶであろう、という仮説を立てます。その仮説に基づいて、できることは何か?を考えるのです。

うちの会社は何ができるのか?よりも、ユーザーは何が欲しいのか?を先に考えることがあって初めて、このような商品に至るのです。

image by: Shutterstock.com

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