故に、待望のワクチンも過信は禁物である。ウイルスの系統樹の一番左端と右端に位置する変異種を比べれば「これが同じウイルスか」と思うくらいに性質上の違いが見られる筈だからである。しかも時間が経てば経つほどに系統樹の裾野は広がって行く訳だから、理屈の上ではこの違いはより大きくなって行くことになる。
もちろん理想は一発で全ての新型コロナウイルスに対抗できるようなワクチンであろう。しかし現行のインフルエンザワクチンでもやはりそうであるように、全ての新型コロナウイルスに対抗できるような万能ワクチンはどだい無理な話である。
となれば、先行ワクチンを基幹にして、より有効な、より守備範囲の広い新種ワクチンを開発し続けることが重要となって来る。その過程において、始めは背中すら見えなかったウイルスとの距離がどんどん縮まり、やがては追いつき、そしていつしか追い越し、ついには先手を打てるようになるのである。
こう考える時、日本が早々にワクチン開発から(事実上)手を引いたのはやはり間違いであった。今からでも遅くはない。日本もワクチン開発あるいは改良に力を注ぐべきである。
ウイルスとワクチンの競争は一見すると「いたちごっこ」である。が、その実「アキレスと亀」である。問題は、我々が神速のアキレスの如く速く走れるかであり、亀が我々が知る亀の如くに歩みの遅いものであるかどうかである。いずれにしろ、追いかけなければ決して追いつかないことだけは確かである。
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