日本政府は大丈夫か。2021年に世界を襲う5つのグローバルリスク

 

米中対立の激化

オバマ政権下でその種は撒かれ、トランプ政権下で一気に顕在化したのが米中対立です。次期大統領に来週就任するバイデン氏が副大統領を務めていたオバマ政権下でもすでに対中脅威論が米国内で増大していました。連邦議会上下院でも伸長する中国の領土的な野心と経済的な覇権への動き、そして続く人権侵害の動きを警戒し、超党派での中国への制裁が取り上げられていました。

トランプ政権になり、この対中脅威論は踏襲され、強化されたといえます。人権侵害については、目をつぶるという特徴はありましたが、経済・貿易の側面では、トランプ政権は中国への攻撃を強め、数次にわたる制裁関税措置の発動に踏み切りました。就任当時は習近平国家主席とも仲の良い姿を演出したトランプ大統領ですが、ちょうどシリアをトマホークミサイルで攻撃し、それを米中首脳会談の最中に行ったあたりから、トランプ大統領の中で「中国に対しては力による威嚇しかない」との確信が出来上がり、その後の制裁と対立のエスカレーションに繋がっていると思われます。もう1週間足らずで退任しますが、最後の最後まで対中制裁を乱発して、バイデン新大統領に引き継ぐ外交を一段と複雑かつ困難にしいます。

大統領選を通じて「トランプの全面拒否」を貫いたバイデン新大統領ですが、米中対立については方針が覆るどころか、対中制裁と圧力は強化されることとなるでしょう。

まず、トランプ大統領とは違い、中国の人権問題を真正面から取り上げ、香港問題や新疆ウイグルにおける人権蹂躙の問題などを対立軸に据え、貿易と投資の側面に加えて中国と対峙することになるでしょう。トランプ大統領ほど露骨か否かは別として、台湾問題も対中戦略ではクローズアップされ、台湾有事の際にアメリカはどうするのか?を明確に提示しなくてはならない時期は、比較的すぐにやってきます。特に今年には習近平国家主席が3期目の国家主席としての地位を得られるか否かが国内で焦点となることから、中国がいつもに増してアグレッシブに台湾への攻勢をかけてくることになると見ています。それにどこまで対応できるのかが、対中関係に関するアメリカのアジア外交およびアジア太平洋地域・インド太平洋地域の安全保障戦略に大きな影響を与えることになります。

特に「自由主義の同盟国との連携の下、中国の野心を封じ込める」としたバイデン新大統領の外交方針を効果的にするためには、日本をはじめとするアジア各国に対して“アメリカはアジア太平洋地域の安定のためにフルコミットする”という姿勢を早急に示さなくてはなりません。中国に弱腰では、大きな期待外れというイメージをアジア各国に植え付けかねません。

2021年はこれらに加えてコロナワクチン外交が米中対立のリストに挙がってきます。様々なデータがありますが、中国は2021年中に20億から30億回分のワクチンが供給される見通しで、すでにコロナ感染拡大を封じ込めた(とされる)中国では、余剰分をどんどん輸出・対外供給に回すことが出来ることになります。すでにインドネシアでは、ジョコ大統領自らが中国製のワクチン接種をするパフォーマンスを見せて中国製ワクチンの国内接種をスタートしていますし、他のアジア各国、コロナにあえぐアフリカ(最近、王毅外相が歴訪したナイジェリアなど)にも広く供給され、ブラジルにも中国がワクチン供与を行うなど、次々とアメリカの裏庭も襲っています。

アメリカについては、毎日のニュースからも明らかですが、まだ感染者数がうなぎ上りに増加し、ファイザー製薬やモデルナ社のコロナワクチンについては、一応、日本などへの供給の約束はあるものの、実際にはワクチンの準備数は、国内対応に限ったとしても不足しており、輸出に回す余裕がないとのことです。これはアメリカ製のワクチンを緊急輸入して国内でのワクチン接種をスタートさせたい日本政府の意向にも影響を及ぼすことになるでしょう。もちろん「契約は契約」ですのでワクチンの供給は行われるでしょうが、日本が必要とする数を確保するのはどうも難しいと言わざるを得ない状況です。

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