日本政府は大丈夫か。2021年に世界を襲う5つのグローバルリスク

 

グローバルリスクとしてのアメリカ

ユーラシアグループを率いるイアン・ブレマー氏は2021年に世界が直面するリスクTOP10の筆頭に「第46代アメリカ合衆国大統領」を挙げました。つまり来週就任するジョー・バイデン新大統領を指します。

私もその見解に賛成ですが、彼が最大のリスクになり得る理由は、バイデン氏だけに責任があるわけではありません。オバマ政権以降、トランプ政権の4年を経て、ジワジワと累積してきた米国の国際社会での地位の低下と役割の変化、そしてそこにコロナ感染が加わった未曽有の危機に迅速かつ的確に対処しなくてはならないという重責まで含めて、バイデン政権が2021年の最大のリスクになり得ると見ています。

トランプ政権の4年間、そして1月6日の前代未聞の議会へのデモ隊の突入と流血事件は、アメリカに癒しきれない深い傷と分断を生みました。

コロナはまた、既存の差別や格差を表出させ、アメリカ社会はかつてない分裂の危機に晒されています。

まず、バイデン政権は迅速にこの分断の危機に対応し、真にunitedなアメリカ社会を取り戻すという非常に難解な問題に直面します。

コロナの感染拡大がなければ、いろいろなイベントや対話を通じた融和の追及もできたかもしれませんが、日々広がり続けるCOVID-19の感染は、アメリカを歴史上最大ともいえる試練に直面させています。

そして、オバマ政権時からその兆しはありましたがトランプ政権で顕在化し、激化した米中対立にどう対応するのかも、先述の通り、バイデン大統領の大きな課題です。

退任前にトランプ大統領は、公約通りに、対中制裁を乱発していますが、その制裁をどのように扱うのかについては、バイデン大統領はまだ明らかにできておらず、それがまた中国の対米態度の硬化に繋がっています。そしてそれは、すでに高まっている米国内の超党派での中国脅威論を増殖させている上に、米民主党政権の特徴でもある『人権尊重と自由主義の保護』という原理原則を盾にした外交が取られるものと思われることから、かなりの試練を経験するだろうと見ています。

そしてトランプ氏は戦後続いていた国際関係の安定の現状を根本から覆し、欧米関係を悪化させ、中東・アフリカ地域のstatus quoのバランスを崩し、アジアにおいても強権政治の隠れ蓑を用意してしまいました。この変わり果てたアメリカの外交姿勢を、バイデン政権はどうやって取り戻すのか?または、どのように軌道修正するのか?その仕事は簡単ではないでしょう。

就任前からバイデン氏の外交に多くの期待が寄せられていますが、恐らく国際社会からの高まる期待には応えることが出来ず、そのあとに大きな失望を世界に与えることになるだろうと思います。例えば、先述の通り、米中関係は改善するというよりは、もしかしたら悪化する可能性のほうが高いかもしれません。また拗れに拗れたイランとの関係も、バイデン大統領は核合意への復帰を提言していますが、そのために課せられる条件は到底イランが実施するとは思われず、難航が予想されるため、米イラン関係もトランプ時代とはさほど変化はないものと考えます。

では、トランプ氏が常識を覆してしまった中東のパワーバランスはどうでしょうか?

例えば、イスラエルの米大使館をテルアビブからエルサレムに移動した件については、民主党政権のバイデン政権も、ユダヤ系の支持を得るためには、その変更をリバースすることはできないでしょうし、しないでしょう。そして、イスラエルと中東諸国の融和と和解という“歴史的な”変化をトランプ大統領は、自らの支持回復のためとは言え、もたらしましたが、この結果についても、今後の対中東戦略を考えると、バイデン大統領はリバースすることはできず、すでに存在する流れに沿う外交となると考えるため、ここも変化があまり見られないと予測します。

そして、出方が未知数であり、すでに瀬戸際外交の一環として、核戦力の強化などを明言している北朝鮮に、バイデン大統領とその政権はどのように対処するのかについては、正直、プランがあるようには思えません。確実に、オバマ時代と同じく、金正恩氏の手玉に取られる可能性があるような気がしてなりません。

ゆえに、バイデン大統領が選挙期間中にばら撒いた気前のいい外交的なリップサービスは結局反故にされ、各国は大きな失望に見舞われることになり、場合によっては、対米バックラッシュが起きる可能性があります。パリ協定絡みの気候変動対策やWHO絡みの国際保健などの分野では国際協調の先頭に立てるかもしれませんが…。

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