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森会長の失言だけにあらず。東京五輪の開催が「絶望的」なワケ

東京五輪組織委の森会長の女性蔑視発言が波紋を広げていますが、五輪開催を巡ってはさらなる大きな障壁が存在しているようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者で日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、我が国における新型コロナワクチン接種開始の遅れが五輪開催を危うくしているという事実を紹介。その原因に初動段階の厚労省官僚の失敗を挙げるとともに、感染症対策を官僚機構の底辺で扱ってきた政府首脳たちに猛省を促しています。

東京五輪は開催できるのか?

東京五輪組織委員会の森会長の失言で、東京五輪の開催が危ぶまれているが、それ以上の問題が出ている。それを検討しよう。

コロナ感染者数が徐々に減り、菅首相の支持率も上がり、菅首相の記者会見も見違えるほどよくなってきて、東京五輪の開催が見えてきたと思っていたら、次の難題が起こっている。

まずは、森氏組織委員会会長の失言である。「女性を理事にすると、会議時間が長くなる」という失言というか、本人の本音であるが、これに日本だけでなく、世界的な反発が出た。世界的なポリティカル・コレクトの概念が森会長には欠如しているので、仕方がないが、森会長は謝罪し、自らの辞任を言い出したが、武藤敏郎事務局長以下五輪組織委が慰留したようだ。

そして、森会長の失言で、ボランティアや聖火ランナーの辞退が広がり、組織運営にも、より資金が必要になったはず。この上に、世界の女性選手のボイコットが起こると、森会長の辞任が必要になる。カナダのIOC委員は追及すると述べている。東京にある外国の大使館も抗議を継続するという。

これに、森会長の辞任を安倍さんが言えばよいだけで、会長の適任者がないというが、次の会長に、世界的にも有名な安倍前首相がなればよいだけである。

安倍前首相は、秋の自民党総裁選挙には出られないので反対するかもしれないが、2024年のトランプ再選の時まで我慢するべきである。そして、ここは、日本のために、ひと肌脱ぐべきだ。世界的なポリティカル・コレクトに配慮できる安倍さんなら、世界は認める。

これだけなら良いが、もう1つの問題が発生している。ワクチンの納入遅れが起きている。ファイザーの日本向けワクチンはベルギーで製造されているが、EU委員会は、コロナワクチン輸出の承認制度を作り、EU域内のワクチンを確保する方向である。

EUはワクチンが足りないのでロシア製ワクチンも手に入れる方向であり、日本など構っていられない状態である。

ファイザーの米国製造分は全量米国が抑えているので、手に入らない。ということで、2月中旬に始まるはずのワクチン接種開始も遅れる可能性が出てきた。

ワクチンの争奪戦が起きているのである。EUは日本への輸出を承認したが、数量を明示していない。ほんの少しだけ提供して非難を抑えるようである。

このため、すでに4月開始するとした65歳以上の高齢者への接種も、首相はできないことを仄めかしている。

このため、アストラゼネカのワクチンに期待がかかる状態になっている。アストラゼネカのワクチンは、日本で製造するので、納入が確かであり、運搬温度が2度から5度であり、普通の冷蔵庫で良いので運搬が簡単である。このワクチンの出荷がいつになるかが重要になっている。

もう1つ、J&Jのワクチンも治験が終わり、緊急認可の状態になっている。有効性が若干低く、75%程度であり、ファイザーやモデルナ、アストラゼネカのワクチンの有効性95%以上より低いが、接種1回で済むので早く接種が完了する。常温で良いので、運搬がより容易になる。しかし、まだ、日本での治験が開始されていないので、当分先になる。

このように、ワクチン接種が遅れて、7月までに65歳以上へのワクチン接種も十分ではなく、多くの人がワクチン接種をしていない状態で、どうやって、日本の環境を安全というのか、疑問視されている。

これを受けて、WHOもとうとう、東京五輪の開催には客観的な事実で判断することが必要であると、開催を辞退するべきであると、言わんばかりの見解も出てきた。

IOCのバッパ会長は、日本政府が開催するという東京五輪を自らが止めることはしないが、他のIOC委員に、中止を言わせている。

もう1つ、ワクチン接種が行きわたらないと、次のコロナ4波がくることになる。その時期が7月になる可能性が高い。そして、その時期には、変異種のコロナになり、10歳未満の子供にもかかることになる。

というように、東京五輪の開催に向けた準備をしても、開催できない可能性が徐々に増しているように感じる。

菅首相の指導力があっても、河野コロナ担当相の頑張りがあっても欧米とのコロナ・ワクチン争奪戦で勝てるとは思えない。

最初に、値段を叩いた厚労省官僚の失敗が大きな痛手になっている。

日本は感染症が安全保障上の問題であり、首相が率先して対応するべき問題だと認識していなかったことが、日本の対策の遅れを招いている。

世界60ケ国以上がすでにワクチン接種をしているのに、日本は1人も接種できない現実を、政府首脳たちは、大きく反省するべきである。

今後、感染症流行に対して、安全保障会議の項目として、その内閣直属の責任者と組織を整備するべきである。感染症対策は官僚機構の底辺で扱う問題ではない。

さあ、どうなりますか?

image by: Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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