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長崎海星高いじめ自殺事件で伏せられた第三者委「報告書」の仰天中身

以前掲載の「長崎海星高、いじめ自殺を『突然死』に。学校・県ぐるみで事実隠蔽か」でもお伝えしたとおり、「在校生の自殺はいじめが主原因」とする第三者委員会が取りまとめた報告書の受け入れを拒否するなど、信じがたい対応を見せた長崎市の私立海星高校。なぜ同校はその報告を頑なに認めようとしないのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では著者で現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、現在は伏せられているその報告書を独自に入手し内容を紹介。そこには学校側が表沙汰にしたくない調査結果が記されていました。

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長崎海星高校いじめ自死問題で署名活動がはじまった

2021年2月6日、各報道は大まかに下記のように伝えた。

2017年4月に長崎市の私立海星高校2年の男子生徒が自殺し、第三者委員会が「いじめが主たる要因」とした報告書をまとめたが、これを学校が受け入れない問題で、在校生ら有志のグループが、自殺の原因などに関する見解を対外的に説明するように学校側に求める署名活動を近くオンラインで始めた。

 

発起人は地元の学習塾経営者の男性で、有志には保護者や卒業生らも加わっている。署名は3月中に学校側に提出する予定。

そもそもどんないじめであったのか?

いじめは中等部(中学校)からあった。軽微だと思われるかもしれないが、当初はお腹の音が鳴ったとからかわれることから始まり、椅子を動かす音やその他の音がなれば、それをお腹の音だと決めつけられてからかわれるということが続いた。次第に被害者であるA君は、おにぎりや軽食を時間の合間などに食べるようになるなど、行動に現れるようになった。

A君は極めて音に敏感になっていき、何か音がするたびに自分のせいにされるという事態に怒りを覚えていた。こうしたことは高等部(高校)に上がっても続き、何かの音がすればいじめをする生徒が「のどをならす」という行動をとるようになった。これは「定番の喉鳴らし」などと言われており、A君はノイローゼといえる状態に陥っていた。

何かの音がなれば自分のせいだと勘違いされ、うるさいなどと言われたり、音がしないように緊張することで、唾をのむ音すら苦痛になっていった。

これらは、A君自殺後の第三者委員会の調査でも、いじめであると認定されており、継続的ないじめ行為によって心身の苦痛を常に感じている状態であったのだ。

しかし、これだけではなかった。あくまで推測でしかないが、学校が違う部分があるとして報告書の説明も提言すら受け入れなかった理由は、次の事実であろう。

遺書には、先生に頻繁に注意されたという記載があった。

複数の生徒たちによれば、「数名の生徒が私語をしていてもA君だけが怒られる」などA君だけがなぜか怒られるという事態が起きていたことがわかる。

また、動画を見る授業でA君がメモを取っていると、「メモを取るより動画を見ろ!」と言われ、その次の回はメモよりも動画に集中していれば、「なんでメモを取らないんだ!」と強く怒られていたという。こうした様子から周囲の生徒は理不尽に先生から怒られていたと見られており、自分がA君のようだったら辛いなと考えていたのだ。

こうしたことが報告書の中には記載があり、生徒間のいじめのみならず、先生による理不尽な指導やいじめられている生徒への対処が全くなかったという指摘があった。

一方、学校においてはA君自殺後、とんでもない対応が明るみに出ている。

学校や県職員の対応の異常性

A君の自殺後、警察の調べがあるがその対応は、当時学校には校長がいたにもかかわらず、教頭を筆頭に教職員が当たっている。

それのみならず、2020年11月の報道によれば、学校側がご遺族に対し、「突然死ということにしないか?」と提案したというのだ。長崎県の私立校を監督する課の責任者もその場には同席したが、「突然死までは許せる」とこれを追認する発言をしたという。

また、この前提には、学校側は当初「転校したことにしないか?」という提案をしたと言われている。これは事実に反するから駄目だとしたうえで、では、「死」は同じだから、いじめを苦に自殺したのではなく「突然死」であったと公表しようという会話の流れであったという。

これは完全なる隠ぺいの提案であり、ましてや遺族に発するなど言語道断と言えよう。極めて信じがたい提案であるが、これは報道されており、これを知った人は言葉がなかっただろう。

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現在伏せられている第三者委員会の報告書には

関係者によれば、当初は第三者委員会の報告書は公開状態であったというが、現在は第三者委員会の報告書は伏せられている。

私は関係者からそれらを教えてもらい、添付されるメッセージなどを含めればおよそ70ページに及ぶ結果に目を通したが、重要な指摘はいくつもあった。

第三者委員会の報告書表紙

まずは、いじめ予防教育の欠如と言える状態である。例えば、「いじり」という言葉があるが、原則「いじり」は「いじめ」そのものなのだ。

いじめ防止対策推進法にある「いじめの定義」では、一定の関係性があって何らかの行為があって、それによって被害者が心身の苦痛を感じたときにいじめとなる。

つまりは、その行為を行為者や傍観者が、いじめかどうか判断するのではなく、行為を受けた側がどう感じるかがいじめの認否のキーなのである。

例えば、お笑い芸人さんの「いじり」は高度な技術(間のとり方や話の流れの作り方)によって成り立つ、真摯に笑い向けた計算があると同時に互いの了解があるものだが、一般生徒がこれの真似をしても、互いの了解もなければ、高度な技術もない上に観客もいないのである。

つまり、こうしたシーンで言う「いじり」とは行為そのものは「いじめ」であって、その区別はないのであり、被害者ではない立場の勝手な思い込みに他ならない。

また、生徒の誰もが知っていたA君の行動(お腹が鳴らないようにおにぎりを食べるとか、暗号のような文字を書くなど)やA君に向けて「喉をならす」などの行為を教員らは誰も知らなかったなど生徒への観察が著しく不足していたことや、生徒が自殺したにもかかわらず、学校長や理事長がほとんど対応していない様子などが指摘されていた。

学校にとってはあらゆる面で不足し、起こるべくして起きた事態の可能性が高いから、あらゆる面での改善や襟を正す姿勢が求められていたのだが、学校にとっては不名誉で不都合であるということからか、これらは報告書ごと伏せられてしまったのである。

別件とはなるが、同校では2019年5月30日付報道で、学校の敷地内で男子生徒が首をつっている状態で見つかり、その後死亡が確認されたという件が報道されているのだ。

つまり、少なからずほぼ連続して自殺者が出ているということを意味する。

私学にまつわる諸問題

現場にいると、公立校よりも手のつけようもない私学の酷さが目立つと感じる。隠ぺいが横行し、事実いじめがあるのに、内々に転校や不登校で処理されてデータでは見えないものが出てくるのである。

例えば、いじめの被害者が被害を訴えることを私学側に疎まれて、被害をいうことがいじめをしたという不名誉な事実を周知しようとして加害者の名誉を傷つけているから、これも「いじめ」だとして、被害者を加害者にしてしまうことすらあるのだ。

中には自前で関係者ばかりの第三者委員会を勝手に形成し、この弁護委員会とも言える自称第三者委員会に、いじめを否定させることすら珍しくもないのである。

保護者世代と話をしていると、公立よりも私学の方がいじめの対応などしっかりしているような根拠なき印象を持っている方に多く出会うが、それはまさに、「うちは大丈夫シンドローム」に近い、根拠なきステレオタイプに他ならない。

今回、長崎海星高校のいじめの対応などはそれこそ異常だが、私が思うにこれは表面化したに過ぎないように思えるところがある(突然死の件などは、何が起きているのか理解ができなかったほど酷いが)。

私学には私学の教育の自由があろう、それが特色になり、それが良いところになることは理解できる。しかし、生徒の安心や安全はどんな理由があろうが、全ての学校が守らなければならぬことだ。

教育行政については、地方分権や様々な法律などがあって一律に何かが決められない事情があるが、真に子どもの命や子どもの可能性、強いては日本の将来を守る気が為政者にあるのであれば、横断して変えなければならぬ方があるのであればこれを変え、生徒の命を害することがあるならばこれを調べ、何としてでも子どもを守るように動くべきだ ろう。

最後に、冒頭の発起人は私に送ってくれたメールで「学校は誰のためにあるの?」ということを考えてほしいと言っていた。

学校は間違いなく児童生徒が育つためにある。学校が、嘘の練習の場、保身の場ではあってはならない。

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編集後記 署名活動発起人の思い

冒頭の署名活動のテーマは「長崎海星高校は3月中に記者会見を開き、いじめ自殺問題に対する説明責任を果たしてください『海星でよかった!』。高校3年生が胸を張って卒業できる姿勢を示してください」ということになっている。

署名の発起人は、私に「他人事ではなく自分事で考えてほしい」と話してくれました。彼は塾の先生で、長崎では3本の指に入る海星中学や高校を目指す子たちを見ています。目指す子、在校生、卒業生、保護者との交流もある存在です。

報道の内容の真偽がどのようであれ、その学校にいることによる在校生に対する不当な差別が巷で発生していることは事実です。しかし、在校生には反論できる後ろ盾、言い返せる言葉がないわけです。

一方、同校の教職員の中には、生徒達の前で「悪いのは校長だ」と批判するなど、まるで自分たちも被害者のような勘違いをしている様子も見聞きしています。学校に対して善処を求める声を、学校の中から上げることは難しい状況にあり、誰かが声を上げなければならないという想いから、署名活動を始めたそうです。

私はこの署名の話が別の方からきたとき、正直なところ、リスクしか感じませんでした。なぜなら、署名には強制力はなく、第三者委員会の報告や提言すら受け入れない学校が、強制力のない署名がいくら集まろうが、首を縦に振ることはないだろうと思ったからです。

この署名活動は小さな記事で報道されていましたが、その中には、在校生のグループもあると書いてありました。仮にこれが事実であれば、自らの立場が不利になるかもしれないリスクを冒しつつも、「いじめに向き合ってください」「生徒の命や人権に真摯に向き合い、改善してください」という信念を持たなければできないことであると思ったのです。

確かに署名をしたところで結果は変わらないかもしれませんが、この署名には別の意味で大きな意味があります。

それは、大人社会が子どもらに見せる覚悟の受け入れです。覚悟をもって行動する、それを私たちがどう受け入れるか、それはいじめ対応のみならず、あらゆる社会問題における基本である、「他人事から自分事」にあると私は思います。

下記に署名のリンクを貼りつけますので、お時間があるときにぜひ読んで頂きたいと思います(署名ページにはご遺族の手記もあります)。

長崎海星高校は3月中に記者会見を開き、いじめ自殺問題に対する説明責任を果たしてください 「海星でよかった!」。高校3年生が胸を張って卒業できる姿勢を示してください。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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