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足利の山火事で蘇る阪神淡路大震災の記憶。「残り火」探知の方法は?

2月21日に発生した栃木県足利市の山林火災は、9日目の3月1日にようやく鎮圧が発表され、周辺住民への避難勧告も解除されました。最後の数日は人海戦術でくすぶる火種を潰していったようです。消防の苦労を慮り、効率的に残り火を探す方法を提案するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで防災の専門家でもある小川和久さんです。小川さんは、阪神・淡路大震災で発生した火災の鎮圧に陸自ヘリの赤外線暗視装置が活用された例を紹介。現在はさらに進化した装置があり、創意工夫による制圧能力向上に期待を示しています。

上空から残り火を探す方法

栃木県足利市の山火事、どうなることかと気を揉ませられましたが、1日に鎮圧宣言が出てホッとした方も少なくないでしょう。山火事の制圧がどんなに大変なことか、カリフォルニアなどで年中行事のように発生する大火の映像を見ていても、現場に投入される消防など関係者の危険と苦労は想像にあまりあるものです。

そんな山火事の消火について、こんなこともやっているのかという新聞記事がありましたので、ご紹介いたします。消防関係者には常識かも知れませんが、ちょっと話のタネに。

「栃木県足利市の両崖山の火災現場では、ヘリからの散水だけでなく、消防隊員が背負う消火水嚢(すいのう)『ジェットシューター』が活躍している。

 

ジェットシューターは、水嚢(約20キロ・グラム)を背負い、ポンプで消火する機材。人が歩きながら、消火活動をできる利点がある。両崖山の現場では、先月27日から始まった残り火の消火作業で使われている。足利市消防本部には、300個のジェットシューターが配備されており、28日は約150人の地上部隊全員がジェットシューターを背負って山に入った。隊員たちは、ヘリからは見つけられない小さな火種をしらみつぶしに探すローラー作戦を展開している。

 

28日は、同市西宮町の『市さいこうふれあいセンター』前で、報道陣向けに残火処理活動のデモンストレーションが行われた。同消防本部の隊員は『20キロの水があれば、長い時で半日ほど消火活動ができる。くすぶる火種を探しながら、一つ一つ消火している』と説明した」(3月1日付 読売新聞)

ジェットシューターの機材と20キロの水、それに消防の防火服にヘルメットなどの基準装備を加えた重さは、少なくとも30キロを軽く超えるでしょう。それを身につけて山の斜面を上り下りしながら、しらみつぶしに火種を探していく。本当に大変で頭の下がる思いです。

もう少し効率的にできると、消防関係者の負担は軽くなるのではないかと思わずにはいられません。そこで頭に浮かんだのは、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の時のことです。

長田区、兵庫区を中心とした神戸市の市街地火災が鎮火に向かう中、残り火からの出火や通電火災の心配が出てきました。夜間は消防の部隊が休憩に入ったり、手薄になったりする時間帯です。夜間に発生すると、またまた大火事になりかねません。

そこで、大阪府八尾市に駐屯する陸上自衛隊中部方面航空隊では夜中に第5対戦車ヘリコプター飛行隊のAH1コブラを飛行させ、搭載している赤外線暗視装置で残り火や新たな出火に目を光らせたのです。肉眼では近くに行かなければわからない残り火でも、対戦車ヘリの赤外線暗視装置は反応します。

それを教訓にするのです。上空から山火事の残り火を発見し、火のあるところにだけ消防隊員を誘導するようにすれば、効率は上がりますし、現場の負担は軽減されると思います。

阪神・淡路大震災から26年が経ち、暗視装置の性能も飛躍的に上がっています。こちらから赤外線を出さないパッシブタイプが主流になりつつありますが、昼間や悪天候の中でも数キロ離れた人間の体温を感知するほどです。このサーマルイメージャーは、携帯型や車両搭載型もあり、色々な使い方が可能な装備品です。消防と自衛隊が一緒に創意工夫すれば、空中消火での協力の前例が示すように、山火事の制圧能力が高まるでしょう。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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