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嘘つきは東北新社か総務省か。国会質疑証言が炙り出す不都合な真実

正直こそが美徳とされてきたはずの我が国ですが、今や「隠ぺい」がお家芸となりつつあるようです。その象徴とも言えるのが、東北新社の外資規制違反を巡る政権サイドの姿勢ではないでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、当案件のこれまでの推移を丁寧に辿り政権と総務省の異常性を明らかにするとともに、不都合な事実は徹頭徹尾かくし通すという安倍政権以来の伝統を厳しく批判しています。

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東北新社の外資規制違反をめぐる総務省の不都合な真実

菅首相の長男、正剛氏が勤める東北新社と総務省上層部の怪しい関係はなにもゴージャスな接待だけではなかった。

放送法で定められた外資比率の上限をこえていたのを知りながら、総務省が同社を違法状態のまま衛星基幹放送事業者に認定していた疑いが濃い。しかも、ここへきて武田良太総務大臣が不都合な事実の隠ぺいにからんできているようなのだ。

この疑惑が持ち上がったきっかけは、3月5日の参院予算委員会における小西洋之議員(立憲)の質問だった。

小西議員はかつて、放送事業者の監督にあたる総務省の衛星・地域放送課で課長補佐をしていた経験から、東北新社の外資比率の高さに目をつけた。衛星放送事業者は放送法で外国資本の割合を20%未満とすることが定められている。外国勢力に放送の中身を支配されないようにするためだ。同社は2017年1月24日に総務省からBS・4K放送事業者の認定を受けたが、同年3月31日の有価証券報告書を見ると、案の定、外資比率が21.23%だった。

これについて、小西議員が「外資規制違反ですね。なぜ認定の取り消しをしてないのですか」とただすと、武田総務大臣は「申請した時点は19.96%で、認定を受けたのちに20%をこえた」と答えた。

それが事実に反することは3月12日の参院予算委で、以下のような総務省の訂正によって明らかになった。

「2017年1月に申請した時点の外資比率は20.75%で、当時の外資比率を20%未満として申請したことはミスだったとの報告が今週に入って東北新社からあった。このため総務省としては東北新社が2017年1月の認定において重大な瑕疵があったと判断し認定取り消しにむけて必要な手続きを進めていくものとした」(吉田博史情報流通行政局長)

ここで吉田局長が言いたかったのは、総務省は何も知らなかったということだ。2017年1月24日、東北新社のBS・4K放送「ザ・シネマ4K」を認定したさい、同社の外資比率はすでに20%をこえ、放送法違反の状態だったが、総務省は20%以下とする申請内容をうのみにしていて、気づかなかったという。

東北新社は認定後に外資規制違反に気づき、子会社「東北新社メディアサービス」を設立して、基幹放送事業者の地位を承継する手続きをとり、2017年10月14日付けで総務省から承継の認定を受けた。

ここで、疑問点を整理しておこう。そもそも総務省は、そんなに審査が甘かったのだろうか。東北新社が子会社に基幹放送事業者の地位を移したいと言ってきたとき、理由を突き詰めなかったのだろうか。認可した2017年1月時点で東北新社の外資比率が20%を超えていたのを、小西議員から指摘されるまで本当に知らなかったのだろうか。

それら当然の疑問への、一つの回答と思われるのが、東北新社現社長、中島信也氏の証言だ。

3月15日の参院予算委員会。福山哲郎議員(立憲)の質問に答えて、中島社長はこう語った。

「2017年8月4日に当社関連3チャンネルを1社に承継しようと申請書を作成している過程で担当者が外資規制に違反していると気づいた。これはまずいということで8月9日ごろ総務省の担当部署に面談し報告した。当社の木田由紀夫が総務省の鈴木課長に相談に行ったと報告を受けている」

東北新社の執行役員で東北新社メディアサービス社長でもある木田由紀夫氏が、情報流通行政局総務課長だった鈴木信也氏に面会して、外資比率が20%をこえていたことを説明し、善後策を相談したというのである。

証言した中島氏は、カンヌ広告映画祭でグランプリを受賞した日清カップヌードルの「hungry?」や、サントリーの「燃焼系アミノ式」などユニークなCM制作で知られるクリエーターだ。副社長として制作部門を統括していたが、今回の接待問題で辞任した前社長の後釜にすわり、国会に呼ばれる羽目になった。

中島社長の証言は、外資規制違反を知らなかったという総務省の主張と真っ向から対立する。下手をすると、違反に総務省も加担していたと見られかねない。

東北新社が相談したという鈴木氏は現在の電波部長である。その人が、実は知っていましたとでも言おうものなら、接待疑惑で揺れる総務省はさらなる窮地に追い込まれる。

不都合な事実は徹頭徹尾かくし通すのが安倍政権以来の伝統である。注目の人、鈴木電波部長に出席を求めて開かれた3月16日の衆院予算委員会で、象徴的なシーンがあった。

野党の質問は当然、2017年8月9日ごろ木田氏が相談に来たかどうかに集中したが、鈴木部長は「会ったかどうか記憶がない」「そのような事案なら覚えているはずだが、覚えていない」と繰り返すばかり。ハイライトは、逢坂誠二議員(立憲)の質疑中だ。

「8月9日ごろに木田氏と会った記憶がないというのは、報告を受けた可能性はゼロではないということか」と逢坂議員が質問し、鈴木氏が答弁席に向かうため武田大臣の席に近づいた時。「記憶がない…」と低音ながらはっきりしたつぶやきが聞こえた。

鈴木氏は答えた。「そのような報告を受けた事実に関する記憶はございません」。

武田大臣は18日の衆院総務委員会で「その言葉が私の口から出たのかもしれないが、答弁を指示する意図は全くない」と釈明した。つまり「記憶がない…」の発言者は自分であると認めたわけである。

なんら意図もなく、マイクに拾われるほどの音量で、「記憶がない」などと声を出すものだろうか。逢坂議員に誘導され、記憶はないが報告を受けた可能性はゼロではないと鈴木部長が言うのを恐れ、クギを刺したとしか思えない。

鈴木電波部長は、木田氏や菅正剛氏らと親しい間柄だった。「記憶がない」が、事実を隠すための逃げ口上であることは言うまでもない。どうやら、武田大臣は鈴木部長が木田氏の相談に乗ったのではないかと思っているようだ。

国会の質疑をもとに想像を巡らせてみた。ジャスダック上場会社であり、いつの間にか外資比率が高くなっていたにもかかわらず、東北新社の担当者は外資規制について精緻な検証を怠り、外資比率は20%未満として認可を申請した。「計算を誤った単純ミス」という中島社長の説明は本当だろう。

申請を受けた総務省が外資比率をチェックし、違反を指摘するべきなのだが、なぜかそうはならず、そのまま認可されてしまった。このとき総務省側に「わずか0.75%の外資超過なら目をつぶろう」という判断が働いたのかどうか、それはわからない。そうだとしたら、菅首相(当時は官房長官)への忖度があったとしか考えられない。

外資比率がオーバーしているのに気づかず認定してしまったのなら、総務省の審査が、いかにいい加減かということになる。

いずれにせよ、認定を受けてしまい、後に外資規制違反に気づいて困ったのが東北新社だ。

さてどう対処したものか。木田氏らは親しくしてきた情報流通行政局の鈴木総務課長に相談してみることにした。それが中島社長の言う「8月9日ごろ」のことだ。説明を受け、放送法違反の状態にあることを確認した以上、鈴木氏も放ってはおけない。

たぶん、子会社をつくって事業を承継するというアイデアは鈴木氏が授けたものではないだろうか。その場合の親切心にも、やはり菅首相に関わりの深い会社だという忖度が働いていたにちがいない。

3月16日の衆院予算委員会で、後藤祐一議員(立憲)は「なぜ大臣はほんとのこと言えと言わないのか。それをさせないのは大臣の責任。どんどん大臣の首がしまってきている」となじった。

武田大臣をして、「記憶がない」ことにしろ、といわんばかりの態度に駆り立てたものは、総務省がからんだ脱法行為とのそしりを恐れたということだけではないだろう。

相手が菅首相と全く無関係な会社であれば、自分が総務相に就任する前の出来事として、淡々とふるまうこともできる。「本当のことを言え」で済んだかもしれない。しかし、現実は違う。菅首相が全てを明らかにせよと言わない限り、武田大臣は菅首相を守るポーズをとり続けるのだろう。

もはや2017年の問題ではない。今の問題だ。大臣以下、総務省ぐるみの隠ぺい工作が、現在進行形で繰り広げられている。

image by: 首相官邸

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