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京大・藤井聡教授が憂慮。頭の良い言論人さえ気づかぬコロナ自粛の不条理さ

1月から延長期間を含めて3ヶ月近くに渡って続いた政府の「緊急事態宣言」ですが、今月22日にすべての都道府県で解除されました。この期間中に、緊急事態宣言の無意味さやコロナ自粛の不条理さを説き続けてきたという京都大学大学院教授の藤井聡さんは自身のメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』の中で、どんなに偉い言論人であっても「正論」に耳を傾けない現状を憂慮。過去の偉人の逸話などをひきながら、宣言解除のいまこそ理性を取り戻すべきだと訴えています。

(この記事はメルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』2021年3月20日配信分の一部抜粋です。続きはご購読の上、お楽しみください)

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緊急事態宣言が解除された今こそ、「コロナ自粛の不条理さ」の徹底検証・徹底周知が絶対必要

この度、ようやく緊急事態宣言が解除されました。

私はこの緊急事態宣言は、本来なら出す必要なんて何も無かったし、自粛要請も時短も何も要らないと思っていましたから、これでようやく無駄な緊急事態宣言が無くなるということで(緊急事態宣言をここまで引っ張っていることは最悪の政治判断だったとは思いますが、それを一旦さておきますと)、ひとまず「安堵」いたしております。

私が緊急事態宣言なんて要らないだろうと当初から思っていた理由は次の様なものです。

まず第一に、時短や自粛は社会経済被害が大きい割に感染抑止効果は限定的(あるいは、ほぼ無い)なことは既に統計的に明らかになっているからです。

そして第二に、仮に感染がある程度広がっても、公衆衛生被害はトータルで深刻なものではないからです。コロナよりもさらに恐ろしいリスクが山のようにあり、したがって、コロナばかりに着目して行動制限をかけていると、トータルで見た公衆衛生被害はさらに拡大してしまうリスクが拡大するのです(これらについての客観的証拠は、当方主催で開催したこちらの行動関係の研究発表会等をご参照下さい)。

もちろん、緊急事態宣言を出すことが必要なタイミングというものがそのうち訪れる可能性は決して皆無だとまでは思いませんが、それとて今から振り返れば、今回に限っては、そんなことも無かったことが今や明らかになっています。何と言っても緊急事態発出のはるか2週間前に、感染は収束に向かい初めていたからです。

それは例えば戦争の時に、「最終兵器を使うタイミングが来たら使ってやろうと思ってずっとタイミングを伺っていたが、別にそれを出さなくても収まりそうになったから使わずに済んだ」という様な話だったわけです。

いわば、緊急事態宣言というものは軽々に出すものではなく、最後の最後の手段として、致し方無く出すのが本来の姿なわけですが、それを今年の年明けの時点で出すなんて早すぎるだろうし、もっと冷静に状況を見ていたらずっと出さずに済んだ筈だったのに、という次第です。

しかし、当方がいくらそういう事を今年の1月や2月に話をしても、驚く程、世間の反応が鈍く、むしろ当方をバッシングする人が様々に出てくるのが実情でした。

それはなぜそうなるのかというと、逆説的にも「緊急事態」の宣言が出されてしまっていたからです。

菅総理がどれほどの人物なのかはさておき、一応は我が国のトップの総理大臣なわけで、その人が国家権力を使って「緊急事態であります」と宣言したのですから、その心理的圧力たるや強烈なものとなったわけです。

これこそ「言葉の魔力」「言霊の力」であって、緊急事態だから平常時じゃないなんだか異常な気分に皆がなるわけです。

その結果人々は、「緊急事態の今、コロナは怖くないとか自粛が要らないとか言うこと自体が不適切で不道徳。兎に角『何も考えず』に自粛しろ!」という気分に支配されてしまったのです。

結果、「国家による緊急事態宣言」は、その「言葉の魔力」と「国家権力」の両者によって人々の「思考停止」を強烈に導くものなわけです。

だから、どれだけ分かり易く、本来ならば耳に入りやすい形で緊急事態宣言や自粛や時短の「無用さ」、あるいは、その「弊害の深刻さ」と説明しようとも、思考が停止してしまっているので、人々はそれに耳を傾けようとはしないのです。

例えば、当方が昨年から始めた「東京ホンマもん教室」(TOKYO MX)というTV番組は、Youtube配信も行っているのですが、その中でダントツでアクセス数が少なかったのが、コロナ自粛の弊害を解説した動画でした(※「コロナが導く社会崩壊」は「25万閲覧」しか行かなかったのですが、それ以外のタイトルが明記された回は全て30万~50万閲覧に到達しています)。

これは要するに大衆世論は、「緊急事態宣言で自粛・時短して、恐ろしいコロナを乗り越えよう!」という「ノリ」とは異なったものに対しては、どうしても「違和感」(あるいは、認知的不協和)を感じてしまい、その話を聞こうとはしなくなっているわけです。

しかし……22日に緊急事態宣言が解除されました。これはつまり、「緊急事態宣言」という言葉のマジック、魔法が無くなり、思考停止に陥っていた人々が正気を取り戻し、コロナについて冷静に考え始めることを意味しています。

当方は、このタイミングをずっと待っていました。

人を説得する時に大切なのは実は、その説得の内容もさることながら、説得の「タイミング」なのです。

例えば、「論語」の有名な一節に「君、十五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。」というものが有りますが、これは、君子中の君子(つまり、チョーーー立派な人)である孔子の人生を表現したものですが、その次の60歳の時に孔子がたどり着いた境地というものが、「六十にして耳順(したが)う」というものなのです。

つまり50代の孔子は「惑わず」「天命を知っていた」にも関わらず「耳が順(したが)っていなかった」、つまり「人の話を素直に聞けなかった」のです。ところが、ようやく60歳まで年齢を重ねた時点で初めて、人の話を聞くことが出来るようになったわけです。

もうこの話だけでも、人の話を素直に聞く事がどれだけ難しいか、ということが分かりますよね(ちなみに、孔子は、「七十にして心の欲する所に従えども、のりをこえず」とさらに続け、その数年後に永眠。つまり、あの孔子ですら70才になるまでは気を抜くと「失礼」な事をしたり「不埒」な事をしてしまうことがあり得た訳ですから、正しく生きるとはかくも難しいことなのだなぁと思わざるをえませんねw)。

閑話休題……だから、人に分かって貰う事は簡単なことじゃないのであって、どれだけそれが「正論」であっても、「説得力のある話」であっても、ダメなものはダメなのです。というかむしろ「正論」でかつ「説得力」があれば有るほど、時に人はより強く反発し、全く話を聞いてくれなくなる、ということが起こり得るのです。

ましてやコロナ問題においては、コロナ脳に陥った人々は、本気でコロナのことを怖がっているのであり、政府の緊急事態や某教授のようなコロナがヤバイという話を「信じたい」という欲求すら持っているような心理状態に陥っています。

そんなコロナコワイなコロナ脳な人達に、「コロナは怖くない」とか「コロナ自粛は効果無い」なんていう「正論」をどれだけ「説得力」ある形で「科学的」に言って聞かせたところで、彼等は納得するどころかますます反発し、反感をもち、挙げ句に「憎悪」すらしてしまう異常な心理状況にすら陥ってしまいます。

ですから、そういう時には、正当であったり科学的であったりしながら「説得」を試み続けることはかえって逆効果になるわけです。

そういう時にどうすれば良いか───この点について、例えば、「武士道」の神髄を語ったと言われる山本常朝の「葉隠れ」の中に、次の様な事が説明されています。

「武士にとって何よりも大切なのは、主君が過ちを犯したときに、それを諫め、ただすことである。

しかしその「忠告」にあたって何よりも大切なのは、中身の正当性もさることながら、むしろその「タイミング」である。

タイミングを間違えば、その忠告・諫言がどれだけ正当なものであったとしても、何ら役に立たない。

しかし、タイミングが合えば、さながら綿が水をひとりでに吸い上げるように、その諫言が染みこむように主君の心の中に入っていく。

武士は主君の事を真に慮るのなら、「正論」をいたずらにそれが「正しいから」というだけの理由でガミガミとがなりたててはいけない。

その主君がどんな状況で、どんな心持ちにあるのかをしっかりと慮り、その主君が聞く耳を持つとしたら、一体どういう言い方なのか、そして、どうなれば、もっとしっかりと聞き届けていただけるのかを考えた上で、諫言・忠告をしなければならない。

そうした態度こそ、実際にその主君に『役に立つ』武士なのである」

(詳しくは、「葉隠れ」あるいは、三島由紀夫の「葉隠れ入門」をご参照下さい)

いわば、人を説得しようとするならば、その人が一体どういう言葉なら聞く耳を持つのかを常時考えておかねばならない、という次第です(ちなみに当方、内閣官房参与の時、この言葉をいつも思い出し、キツく説教したくなってしまう自分を一生懸命抑えていたものでした 苦笑)。

そしてこれは、次の様な「子育て」の話とも共通しています。

すなわちそれは、聞き分けの無い子供にどれだけ分かり易く説明しても、その子供に人の話を聞こうとする気持ちが何もなければ絶対に何にも聞いてくれないが、タイミングを見計らって人の話を聞いてみたいという気持ちが僅かなりともある状況で話をすると、驚くほど素直に話を聞いてくれる、という話です。

つまり繰り返しますが、人を説得するには、「正しさ」だけでは不十分なのであり、「人の話が耳に自然と入ってくるタイミングを見計らう」ということが絶対的に必要なのです。

それを考えると、「コロナについての理性的、合理的に適正な世論」の形成を資する場合、緊急事態宣言下「ほど」最悪なタイミングはないわけです。

だから、そんな時にどれだけ正論を言おうが(正気を失っておられない、例えば本メルマガ読者等のような方を除くと)、何を言っても「ムダ」なのです。

 

日本を代表する立派な言論人ですら馬鹿みたいな状況に陥るわけですから、一般の方々において、それと同様の事が起こることは容易に想像ができるわけです。

だから人々が怯えている時には、人々の恐怖が少し落ち着くまで「待つ」のが、一番の得策なのです。

もちろんそれまでの間においては、その恐怖に基づく人々の様々な「理不尽」が蔓延し、多くの人々が不幸になり、命をすら失っていくことにもなるのであり、それを指をくわえて見ている他無くなるわけですが───無駄な事をどれだけやっても無駄に終わるしかないわけですから、忸怩たる思いを抱きながら時を過ごし、ひたすら「待てば海路の日和あり」とばかりに良きタイミングが訪れることを待つことが求められるのです(それはマジで相当辛い日々ですが…)。

したがって、この度の緊急事態宣言が解除される「まで」の間は、コロナは大して怖くないとか、コロナは普通の風邪と同じように自粛なんてしなくても収まるんだとかいう話はあまり声高に叫ぶことは避けねばならなかったわけですが、「緊急事態宣言マジック」の「魔法」が解除された「後」においては、徹底的に、そうしたコロナの真実を大声で叫び続けることが必要となるのです。

(メルマガ『藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~』2021年3月20日配信分より一部抜粋。続きはご登録の上、お楽しみください)

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京都大学大学院・工学研究科・都市社会工学専攻教授、京都大学レジリエンス実践ユニット長。1968年生。京都大学卒業後、スウェーデンイエテボリ大学心理学科客員研究員,東京工業大学教授等を経て現職。2012年から2018年まで内閣官房参与。専門は、国土計画・経済政策等の公共政策論.文部科学大臣表彰、日本学術振興会賞等、受賞多数。著書「プライマリーバランス亡国論」「国土学」「凡庸という悪魔」「大衆社会の処方箋」等多数。テレビ、新聞、雑誌等で言論・執筆活動を展開。MXテレビ「東京ホンマもん教室」、朝日放送「正義のミカタ」、関西テレビ「報道ランナー」、KBS京都「藤井聡のあるがままラジオ」等のレギュラー解説者。2018年より表現者クライテリオン編集長。

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【著者】 藤井聡 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 土曜日

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