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5月には餓死者発生か。外交官も逃げ出す北朝鮮“物資不足”の深刻度

コロナ防疫で国境を封鎖している北朝鮮では物資不足が深刻で、外交官すら国外に脱出し、外国人はほとんど残っていないようです。前回その様子を「ロシア外交官家族が北朝鮮からトロッコで脱出の真相」として伝えたメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』著者の宮塚利雄さんは、北朝鮮人民の命を心配しています。金正恩総書記が人民の命綱とも言われるチャンマダン(私的市場)の完全閉鎖を命じたからです。彼の国の「偉大な首領様」はいったい何を考えているのでしょうか?

北朝鮮から外国人がいなくなる?

前号で、「国境閉鎖の北朝鮮からロシア外交官一家が手押しトロッコで脱出(越境)」の記事を書いたが、長年にわたり北朝鮮問題に取り組んでいる私にとって、このニュースほどほのぼのとした「ホッとする(ホットではない)」名ニュースはなかった。

後日談である。在北朝鮮のロシア大使館1日、平壌駐在の各国外交官が大量に北朝鮮から脱出したとフェイスブックページで明らかにした。英国、ベネズエラ、ブラジル、ドイツ、イタリア、ナイジェリア、パキスタン、ポーランド、チェコ、スウエーデン、スイス、フランスなど12か国の代表部の建物に鍵がかけられ、国際人道組織の外国人職員も全員が離れたという。

現在、平壌にはロシアや中国、キューバなど9か国の大使が残って業務を続けているとのこと。北朝鮮全体で290人くらいの外国人が残っているとも伝えられているが、これは中国系の「華僑」の数を入れた数字なのか。

私はかつて中朝国境踏査のおり、丹東で知り合った両親が平壌に住んでいるという中国人に会ったことがあり、この事実を確かめようと中朝国境に住む朝鮮族に連絡を取ったが、彼との電話は通じなかった。
※北朝鮮に住む華僑については下記をご参考ください。
中朝貿易の謎のラストワンマイル 北朝鮮産品が鴨緑江を越える方法 – 北朝鮮ニュース | KWT

今回の大量の外国人の脱出の原因は一言で「医薬品や食糧、生活必需品などの深刻な物資不足」に尽きるが、北朝鮮の国民のみならず、比較的優雅な生活を甘受できるはずの外交官や国連職員までもが、「前例のない厳しい全面的な制限措置」によって、「健康問題を解決する可能性がない」と言わしめるほどに物資不足は、どん底状況にあるのだろう。

韓国の国家情報院は、昨年夏季の相次ぐ台風による水害などの影響で、北朝鮮の穀物需要に対して100万トン不足していると見積もっているが、韓国大統領直属の諮問機関副議長を務める丁世ヒョン(金玄)元統一相が「食糧が尽きかけており、5月には餓死者の発生が報じられるかもしれない」と指摘した。

まさに、朝鮮半島の宿痾(しゅくあ)である「ポリコゲ(麦の峠)」の再来である。ポリコゲとは「春麦が出るまでに生き延びることができるかどうか、によってその人の運命(寿命)は決まる」と言うことであるが、現実には5月まで延命できる人はどれだけいるのか。と言うのは、金正恩が今年1月の党大会でチャンマダン(私的市場)の完全閉鎖を命令した、と伝えられており、これが実施されれば北朝鮮の国民の大半は糊口を求め奔走するようになると危惧していたからである。

「人民中心」を強調した金正恩がチャンマダンの完全閉鎖を命じたのは、「国営商業を発展させ、給養(食堂)、便宜奉仕(美容、サウナ、各種理容店、手工業など)の社会主義の性格を復旧するのが今の時期は非常に切実であると想定した」と、非社会主義との闘争を宣言したもので、個人の食糧取引を禁止し、国家食糧販売所を別途に設けるというものである。

これは北朝鮮の権力者が長年の命題であった「食べる問題の解決(北朝鮮では衣食住ではなく、食衣住である)」を、国民の犠牲のうえに実現しようとするものである。

チャンマダンは、金正日政権下で2002年の「7.1経済管理改善措置」で公式化したもので、以後、北朝鮮経済はチャンマダンと中朝貿易で回ってきたとも言われる。北朝鮮の公式の職場での給料は生活費の1%にも満たず、事実上「全住民が商人」で、北朝鮮のGDPの50%占めると言われる所以(ゆえん)でもある。

このチャンマダンの閉鎖は、住民間の情報の流入を遮断する意図もある。「独裁者が恐れるのは人民」と言われるが、食料の取引だけではなく、個人の理髪店、美容院、家庭教師なども禁じるとのことだが、チャンマダンの完全閉鎖は、住民の「命綱を断つ」措置とも言われているが、今のところ、どの程度までに実施されているのか。「モノ言えば唇寒し」の北朝鮮とは言うが、チャンマダンが閉鎖されたら北朝鮮の住民も黙ってはいないだろう。

「物資不足(もの不足)」は自国民ばかりでなく、自国に友好的な外国大使館や国連援助機関の職員と家族までも巻き込んでいる。もっとも、ロシア下院国際問題委員会のノビコフ第1副委員長は「難しい条件下でも耐え抜く北朝鮮の能力を過小評価すべきではない」と指摘し、金正恩体制の動揺につながるとの見方は否定したとのことだ。しかし、北朝鮮から遠く離れたモスクワに住むこの専門家は、北朝鮮の現状をどれだけ目の当たりして、このような発言を行ったのだろうか。

4月15日は、北朝鮮では最大の慶祝日である故金日成主席の誕生日を祝う「太陽節」である。2月16日の故金正日総書記の誕生日には国民に下賜された「贈り物」は微々たるものであったが、この4月から中朝貿易が再開されたとも伝えられており、今度の「偉大な首領様の誕生日の贈り物」に多くの北朝鮮国民は期待しているだろう。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

image by:Torsten Pursche / Shutterstock.com

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元山梨学院大学教授の宮塚利雄が、甲府に立ち上げた宮塚コリア研究所から送るメールマガジンです。北朝鮮情勢を中心にアジア全般を含めた情勢分析を独特の切り口で披露します。また朝鮮半島と日本の関わりや話題についてもゼミ、そして雑感もふくめ展開していきます。テレビなどのメディアでは決して話せないマル秘情報もお届けします。長年の研究対象である焼肉やパチンコだけではなく、ディープな在日朝鮮・韓国社会についての見識や朝鮮総連と民団のイロハなどについても語ります。

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