3月下旬の全面解除からたった一月あまり、4月25日から4都府県にまたも発出されることとなった緊急事態宣言。政府は短期間での感染抑え込みを目指すとしていますが、その効果を疑う声も少なくありません。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では軍事アナリストの小川和久さんが、菅政権に対して今この時がラストチャンスだとの覚悟のもと、ロックダウンに踏み込む以外コロナ禍から抜け出す道はないと強く提言。さらに、このままでは日本経済の弱体化は避けられないとの現実的な見方を記しています。
国民が死んで経済が生き残ることはない
大阪に続き、東京も緊急事態宣言を要請する事態になり、国民の間で政府に対する失望感が高まっています。1年前、世界が直面していた事態を、日本は再び、自分たちの失態から引き起こしてしまった面があるからです。ワクチン接種率で経済協力開発機構(OECD)37カ国中最下位と低迷しているのは、むべなるかなと言う気がします。
なかでも、ロックダウンなどによって人の流れを遮断することについて、「それをやると経済が死ぬから、都道府県知事は決断できないだろう」と、他人事のような匿名の政府関係者のコメントがニュースで流れたのには、開いた口がふさがりませんでした。無責任です。国民の生命を無視した暴言と言わざるを得ません。
国民が死ねば経済も死にます。国民が死んで経済だけが生き残るということはないのです。この政府関係者の認識は日本政府全体に共通するものですが、物事の順序というものをまったく理解していません。
昨年から申し上げているように、日本流でよいからロックダウンで人の流れを遮断して感染拡大を抑制し、それによって医療崩壊を防ぎ、同時に、その間は手厚い休業補償をすることが基本です。人の流れは、許可証や証明書を持つエッセンシャルワーカーだけに限定するのです。短期間で感染を抑え込むことができれば、医療崩壊だけでなく、度重なる休業補償による財政圧迫も避けられるのです。もちろん、日本経済は死なないですみます。
なぜ、こんな道理が理解できないのでしょうか。
ここで参考になるのは、イスラエル・ヘブライ大学のシャシュア教授らが出した提言『医療崩壊を防ぎ、経済を殺さない方法』(邦訳は静岡県立大学グローバル地域センターの西恭之准教授)にある次のような視点です。
- 新型コロナウイルスは未知の部分が多い
- 疫学的な解析だけでは困難に直面する
- 感染のピークはいつで、発症していない感染者数が何人なのか、把握できない
- ロックダウンや緊急事態宣言を解除し、経済活動の自粛を解いた結果を疫学的な計算では見通すことはできない
だから、シャシュア教授らはコンピュータ科学の知見によってモデルを描き、昨年の春、イスラエル政府に提言しました。
菅義偉首相はじめ政府関係者は「専門家の意見を聞いて」と繰り返しますが、この専門家には危機管理の見取り図を描く力が備わっていないのです。そうした専門家丸投げの姿勢では感染症の専門家の見方や見解に引きずられることになりやすい。また、政府側にも専門家の見解を判断する能力が備わっていません。シャシュア教授らは、そうした問題を克服するために提言したことは言うまでもありません。
シャシュア教授らの提言がそのまま採用されることはありませんでしたが、イスラエルは同様の認識のもとに戦略的取り組みを進め、いまやワクチン接種率では世界一、屋外ではマスクを着用しなくてもよいようになりました。混乱を極めた世界各国の対応も、試行錯誤の中で独自の戦略的な取り組みを描いてワクチン接種を進め、コロナ克服の日を射程圏内に収め始めています。
先進国の中で戦略的取り組みが欠けているのは日本だけです。このままでは、死なないまでも、日本経済が弱ることは避けられないでしょう。
政府には、いまがラストチャンスだというくらいの覚悟のもと、思い切ってロックダウンに踏み切ってもらいたい。都道府県知事任せなどという無責任な特措法などを後生大事に守ろうとせず、生煮えの法律も同時進行で改正してもらいたい。
菅さん、やらなければ歴史に汚名を残すことになりますよ。ポスト菅に名前が挙がっている政治家の皆さんも、本物の政治家かどうかが試されていることを忘れないでください。(小川和久)
image by: 首相官邸