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コロナと命の不公平。「この程度の“さざ波”」発言で判る菅政権の無責任

日本という「命に公平な国」は今、大きな岐路に立たされているようです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では著者で健康社会学者の河合薫さんが、我が国のコロナの感染状況を「この程度の『さざ波』」と表現した内閣官房参与による発言を取り上げ、そのあまりの人命軽視的姿勢を強く批判。さらに彼の発言に同意する人が少なくないという現状に対しても、危機感を持って「腑に落ちない」と記しています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

この程度の「さざ波」と数字のまやかし

6,041人――。これは2020年の1年間で、新型コロナウィルス感染が原因で死亡したり4日以上休業したりした死傷者の数です。医療関係者や介護施設などでの発生が8割を占め、医療従事者たちの感染リスクが高いことが改めて浮き彫りになりました。

10,981人――。5月10日現在、全国で10,000人を超える人たちがコロナ感染により亡くなっています。5,000人を超えるまで1年弱だったのに、年明けに感染者が急増し、約3カ月で死者数は倍増しました。

25人――。神戸市の介護老人保健施設で、入所者97人、職員36人の計133人が新型コロナウイルスに感染。うち70代以上の入所者25人が死亡していたことがわかりました。

また、大阪では入院待機中のコロナ感染した人が、自宅などで亡くなるケースが相次いでいます。

さらに、大阪府が府内の全18保健所に対し、「府の方針として、高齢者は入院の優先順位を下げざるを得ない」とするメールを4月19日付で送信していたこともわかりました。

これだけの人たちが亡くなり、今、この時間も「入院が必要なのに入れない人たち」がいる。密かに「命の選別」が行われている。

そんな中、“公人”のトンデモツイートに、世界中からバッシングが起こり、ツイートした本人が、“謝罪”ではなく“釈明”するいう意味不明の事態に発展しています。

日本はこの程度の「さざ波」。これで五輪中止とかいうと笑笑――。

菅首相の側近中の側近の高橋洋一内閣官房参与が、9日にツイッターで新型コロナウイルスの感染者数のグラフと共に、こう投稿したのです。海の向こうからも批判が殺到したことで、「何かしなきゃ!」と思ったのでしょう。

11日になって高橋氏は、「世界の中で日本の状況を客観的に分析するのがモットーなので、それに支障が出るような価値観を含む用語は使わないようにします」というコメントを発表。

んったく、支障が出るような価値観を含む用語??いったいこの人は何を言っているのでしょうか。意味がわかりません。

もし、高橋氏が指摘するとおり「この程度の『さざ波』」ならば、医療崩壊など起こらないはず。というか、「この程度の『さざ波』」でなんで医療が逼迫しているのか?

なぜ、6,000人もの人たちが、コロナで働けなくなったり命を奪われてしまうのか?

なぜ、10,000人以上の人たちが、コロナで亡くなっているのか?

日本より多くの感染者が出ている欧米で医療崩壊が起こらない理由を、多くのメディア、多くの人たちが、「命の選別を行ってるからだ」としてきました。日本は「命に公平な国」。だから医療が逼迫するのだ、と。

では、今は?命は公平なのでしょうか。

「数字」というのは実に厄介な代物です。連日、コロナ感染者数、死亡者数、などに加え、コロナによる失業者数が伝えられます。

しかし、そこで示された「数字」だけでは決して知り得ないストーリーがある。だって、そこにいるのは「人」。人なのです。

私は大学院のときに「量的な調査(アンケートなどを実施し統計的に分析する手法)だけに頼ると実態に合わないことがある」と何度も教育されまました。臨床でドクターを経験したのち大学院に戻った先生は、「質的調査(インタビューなどから分析する手法)は、個人的な意見で汎用性がないと非難する人が多いけれど、現場でホントに生かされるのは、生の個人の声だ」と教えてくれた。

その真意は「それぞれの人生があり、それぞれの事情がある」という、実にシンプルで当たり前のことだと改めて思うのです。

数字だけを見て「この程度の『さざ波』」という人が、「国民の命を守る」と豪語する首相に、アドバイスを送る立場にいるとは、お粗末というか、しょーもない、というか、怒りしかわいてきません。

しかも、この「さざ波」発言に同意する人も、決して少なくないのです。

どうにもこうにも腑に落ちないことばかりです。

ちなみに、加藤勝信官房長官は記者会見で「参与は非常勤。コメントは差し控えたい」と述べました。…内閣官房参与の給与は、日当3万円前後。内閣府や官邸では、執務室が与えられるとのことです。

…1日3万。これも税金です。

みなさんのご意見、お聞かせください。

image by: 首相官邸

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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