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マンション住人が認知症で施設へ。滞納したお金を回収する方法は?

快適な住環境の維持に欠かせない、マンションの管理費。しかしその延滞もしばしば発生し、管理組合の頭を悩ませているのが現状です。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』で著者の廣田信子さんが取り上げているのは、認知症で施設に入所したマンション所有者が滞納を続けているというケース。管理組合から相談を受けた廣田さんは、どのような対処法を提案するのでしょうか。

認知症で施設入居、成年後見人なしの組合員の滞納をどうする

こんにちは!廣田信子です。

認知症で施設に入所している組合員Aさんの管理費等の滞納が2年近くになる。このまま放置できないが、どのように対処したらいいか…という質問を受けました。

少し詳しく聞くと、滞納が始まったのは2年前だが、施設に入居したのは1年半前。それも、管理組合には届け出がなく、郵便受けが溢れている状況で、孤独死しているのではないかと民生委員に連絡して、初めて知った。かなり認知症が進んでいて、すでに判断能力はないと言います。

Aさんは一人暮らしでしたが、子供であるBさんがいて、施設入所等の手続きは、その方がしているとのこと。しかし、そのBさんのことは緊急連絡先として管理組合に届け出がありません。民生委員も、入所施設を斡旋した地域包括支援センターもAさんの入所先の施設名もBさんの連絡先もなかなか教えてくれず、たいへん困ったと言います。

Aさんは成年後見人を立てていません。民生委員に、管理規約上、組合員は住所や連絡先を届け出る義務があることを説明して、Bさんに手紙を届けてもらい、Bさんからの届け出で、ようやく入所施設がわかりました。その住所に総会通知や滞納の督促状は送っていて、Bさんも見ているはずなんですが、滞納が続いている…と言います。

管理組合は、何もしないBさんに腹を立てていますが、Bさんには法的な義務はありません。施設入所の費用負担だけでもたいへんで、放置しているのではないか…と(これは、あくまで想像です)。

Aさんが、もう自宅に戻ってくることがないのであれば、自宅マンションを任意売却して、施設入所費用や管理費等の滞納の支払いに充てることが一番なのですが、Bさんも法定後見人になっていないのであれば、親のAさんの不動産を売却する権利はありません。成年後見人の選任を申し立てていないのには、親族内の事情があるのかも知れません。

じゃあどうするか…です。

訴訟提起を考えても、意思能力がない者に対する訴訟行為は無効です。したがって、まず、配偶者(Aさんの場合はすでに死亡)かお子さんに成年後見人の選任を裁判所に申し立てもらわなければなりません。

Aさんのケースの場合、Bさんに成年後見人の選任を裁判所に申し立てもらうのが何らの事情で難しいのかもしれませんが、管理組合が申し立てを行うことはできません。その場合は、市町村長に申し立てをしてもらうよう求めます。半年ぐらいは時間がかかるようですが、成年後見人が選任されなければ前に進みません。

成年後見人が選任されたら、確実に決着がつくように、区分所有法59条による競売請求訴訟を提起し、Aさんの成年後見人に対し弁解の機会を与え、結審する方法をとる…という選択肢があります。

それを聞いて、相談者は、時間や手間や弁護士費用がかかりそう…。Aさんが亡くなって、Bさん等が相続するのを待った方がいいだろうか…と。

これに対しては何も言えませんが、Bさんの対応を見ていると、親族間の事情があるように感じます。相続がスムーズいって、管理費等の滞納分がすぐ清算され、その後の未納がなくなるかどうかは微妙な気がします。Aさんが亡くなられた後も、管理組合が、この問題を長く引きずらざるを得ない可能性もあります。

さて、どうしたものか…です。

確か、認知症で老人ホームに入居している組合員(成年後見人が選任されていない)に対する訴訟に関する判例があったはず…と調べました。札幌地裁平成31年1月22日判決です。

判決では、通知の内容も理解できない状況で形式的に弁明の機会を付与する通知を届けても、それでは、弁明の機会を与えたことにはならない…とした上で、この場合、訴え提起後に特別代理人が選任され、特別代理人に対して弁明の機会が与えられたことから、管理組合の請求を認めています。

特別代理人とは…本来の代理人が代理権を行使することができない(代理人の破産など)又は、不適切な場合(利益相反行為など(民法第826条、民法第860条))や不存在な場合(民事訴訟法第35条)に、法律に基づき定められた裁判所に申し立てを行い選任し、本来の代理人が行う職務を行う特別な代理人のことをいいます。親族でなくても利害関係人が選任の申し立てができます。

この判例では、弁明の通知を本人宛に送った上で総会決議を行い、訴訟を提起した上で、訴訟を円滑に進めるために、特別代理人の選任を求め、その特別代理人に対して、再度弁明の機会を与えるという形をとっています。成年後見人の選任がされない場合は、このような方法もあるわけです。

そこまでするかどうか…は管理組合の判断ですが、まず、事情があれば聞きます。成年後見人の選任を請求して、任意売却されるのが一番の得策だと思います…と、責める気持ちを排して、Bさんとの対話を試みてはどうでしょうか。Bさんはいろいろ追い詰められて、現実から逃避しているのかもしれません。それでもだめな場合は…長引かせていいことは何もなく、粛々と法的手続きをとる方がいい気がします(あくまで、個人の感想ですが…)。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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