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根拠示さず数字を並べる読売「五輪選手ワクチン優先」の胡散臭さ

国民のほとんどが開催に疑問を持っていると伝えられる東京五輪。それでも政治家やIOC、JOC、大会組織委員会に東京都などは「安心安全な大会を実現」の一点張りで、国民の不安や不満など歯牙にもかけません。そして伝えられ始めた五輪出場選手へのワクチン優先接種の方針。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、ジャーナリストの内田誠さんがこの問題を伝えた読売新聞の記事について、根拠も数字の内訳も示さずバッハ会長の発言をなぞるだけの記事には注意が必要と解説。JOC山下会長が語った前提条件も疑問と論じています。

五輪選手へのワクチン優先接種について新聞はどう報じてきたか?

きょうは《読売》から。五輪選手へのワクチン優先接種が進んでいるようです。既に選手村に滞在する選手の75%が接種済みだとIOCのバッハ会長が発言したようです。

そこで、「五輪選手」「ワクチン」「優先」で《読売》のサイト内を検索すると、27件にヒットしました。そのうち、選手へのワクチンの「優先接種」に触れているのは10件。まずは、《読売》1面記事の見出しから。

「五輪選手ら75%接種」
予定含め 医療者派遣案も

以下、記事概要。IOCのバッハ会長は、東京五輪・パラリンピックで選手村に滞在する選手らのうち、75%が新型コロナウイルスのワクチンを接種済みか接種予定であることを明らかにしたと。同時に、IOCとして、各国・地域の五輪委員会担当の医療スタッフを提供する意向も。日本の医療体制に配慮してのことか。さらに、「大会開催時には選手村のワクチン接種者は80%を超えると確信している」とも。

●uttiiの眼

実にあやふやな話。75%の根拠はどこにあり、「接種済み」と「接種予定」の比率はどれほどか。また「接種済み」にしろ「接種予定」にしろ、どうやって調べたのか。こういう腰だめの数字には何の根拠もないことが多いから要注意だ。80%の話も同様。

さらに、記事は末尾で触れているだけだが、外国の医療従事者が日本国内で医療行為を行うことは簡単ではない。東日本大震災の場合が例示されているが、4年に一度のスポーツ大会と1000年に一度あるかないかの巨大災害のケースを同列に論じるのは無茶だ。

【サーチ&リサーチ】

2021年1月27日付
タイトル「五輪選手らは訪日前にワクチン接種を…IOC「日本の人々を守るためにも」」の記事中、次の記述。「IOCは発表で、医療従事者や高齢者、基礎疾患がある人々などのワクチン接種が最優先だと強調した上で、社会のより広い層への接種が可能になった場合に、選手らに接種を呼びかけるとした」

*この段階では、選手を優先するという考えは見当たらない。《読売》のベテラン記者も以下の記事のように批判的だった。

2021年2月9日付コラム「鳥の目 虫の目」
コラム子(川島健司記者)は、「五輪が開催されるとして、出場が予定されている選手はワクチンを優先して接種してもらうべきだろうか」と問題提起。ハンガリーやセルビアが選手への優先接種を始めたとし、また古参のIOC委員ディック・パウンド氏の「何百万本というワクチンのうち、300~400本程度をアスリートに優先したからといって、社会からは非難されないだろう」との物議を醸す発言を紹介した後、バッハ会長が選手らによる「割り込み」を否定していることを指摘。コラム子自身も「「ずる」はオリンピアンに最も似つかわしくない言葉だと思う」と批判的なコメント。

2021年2月13日付
米バイデン政権の医療顧問、ファウチ氏が「東京五輪・パラリンピックの開催に向け、日本政府が新型コロナウイルス感染対策のガイドライン(指針)を作成することが望ましいとの考えを示した」とのニュースの中で、以下の記述。
「出場選手へのワクチン接種を優先すべきかとの問いに対しては、「ワクチンの供給状況による」としつつ、「選手村で集団行動をする選手の間で感染が広がる事態を防ぎたいということであれば理解できる」と述べた」という。

*ファウチ氏は、五輪開催の可否については、世界と日本の流行状況によるとして、「決断を下すのは日本だ」とした上での上記発言。日本が基準を示さなければ、こちらは選手団を送ることができないぞと警告を発しているようにも思える。

*4月に入り、自民党政調会長が観測気球を上げる。

2021年4月14日付
タイトル「自民、五輪・パラ代表選手へのワクチン優先接種を議論の方針」の記事中、次の記述。
「東京五輪・パラリンピックに出場する日本人選手への優先的なワクチン接種について、「党においても検討課題になる」と述べ、党内で議論する考えを示した」と。飽くまで検討課題としただけで、下村氏自身は「(優先接種を)すべきだと判断しているわけではない」とも。

*韓国が、選手団にワクチンを優先接種すると発表など。

2021年5月2日付
「【独自】五輪海外選手1万人の6割、接種受けて訪日へ…日本選手への接種方針は未定」との記事の中、IOCがワクチンの選手への接種を強く支持しているとした上で…次の記述。
「組織委などはコロナ対策指針「プレーブック」(第2版)で、「IOCは接種を受けることを推奨するが、大会参加の義務ではない」と明記している。政府は現時点で、日本選手にワクチンを優先的に接種するかの方針は決めていない」と。

2021年5月7日付
ファイザー製ワクチンが各国・地域の選手団に無償提供されることが決まったことを受け、山下JOC会長のコメントを紹介。「山下会長は「(高齢者など)ワクチン接種の優先対象者、医療従事者の活動に影響を生じさせないことが前提」と強調し、「その上で可能なら、日本選手団への接種も検討してほしいと丸川五輪相に伝えた」と語った。接種するかどうかは各自の希望に委ねる方針で、時期については「今後詰める」と述べるにとどめた」と。

*以下に紹介するきょう付の記事はサイトのみ。

2021年5月20日付
タイトル「ワクチン「優先」選手葛藤[海外は今 Tokyo2020+]<上>」の記事。累計感染者世界で3番目のブラジルは選手に優先接種。フランスでは希望する選手に対して優先接種していることがメディアに暴露されるまで、公表していなかった。イランでは中国製を選手らに優先接種。

●uttiiの眼

やはり、後ろめたいのだろう。優先接種の事実を隠蔽していたフランスの例は象徴的だ。ブラジル、ハンガリー、セルビア、イランは、独裁的な傾向の強い政権下だからこそ可能だったのではないかとの推測が成り立つ。

日本については、ファイザーからIOCがワクチンの「寄付」を受け、日本側は「ワクチン接種の優先対象者、医療従事者の活動に影響を生じさせないことが前提」という回りくどい理屈を付けて、事実上の「優先接種」を実現しようという手の込んだやり口。言葉の上で「前提」と言いながら、そんな前提が可能である保証はどこにあるのか。疑問に思う。

日本政府が選手への優先接種を「決断」したとなれば批判が一層強まり、大会中止論に拍車が掛かることを恐れ、こうした回りくどい手順を踏んだのではないだろうか。

image by:f11photo / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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