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医学博士が断言。「ワクチンで血栓」の死亡率は飛行機事故より50倍も低い事実

日本でも新型コロナのワクチン接種が始まり、連日のようにテレビや新聞で最新情報が報道されています。しかし、中には「ワクチン接種後に血栓症で死者が出た」というニュースを見て、ワクチン接種に二の足を踏んでいる方も多いのではないでしょうか。米ボストン在住の医学博士でメルマガ『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』の著者であるしんコロさんは、ワクチンによる血栓症で死亡する確率は限りなく低いとする根拠を挙げながら、その確率は飛行機事故で死亡するより50倍も低いことを丁寧に解説。そして、ワクチンを接種することが人類を守ることにつながるとしています。

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医学博士が徹底解説。「ワクチンで血栓ができる」は本当か?

英アストラゼネカと米J&Jのワクチンを接種した後に、血栓症により死者が出たというニュースは皆さんも目にされたかと思います。この件に関して、事実を盛るわけでも隠すわけでもなく、現在わかっていることと進められている対応について記してみたいと思います。

ちなみに、4月時点では日本で承認されているのはファイザーのもので、英アストラゼネカと米モデルナのワクチンは今月5月に承認されるという流れになっています。

さて、先月の23日に米疾病予防管理センター(CDC)で、恒例のワクチンに関する諮問委員会のミーティングが行われました。ミーティングのプレゼンは実はYouTubeにもアップされており、誰でも見ることができます。

CDCミーティングサイト
諮問委員会のミーティング(コロナワクチン全般)
諮問委員会のミーティング(J&J製のワクチンに関して)

このプレゼンの中の一つ、Dr. Tom Shimabukuroの発表にいくつか血栓に関して興味深い数字がありましたので紹介しておきます。

そもそも血栓とは何かですが、文字通り血が固まって栓となり、血管を塞いでしまうことです。動脈でも静脈でも起こりうるもので、心筋梗塞や脳梗塞を起こすことに繋がります。また、血栓症には血小板減少性を伴うものがあります。血小板は血液を凝固させるのに必要な血液細胞の一種ですが、これが減少することで血が固まらなくなる、つまり出血が止まらなくなるのです。稀ではありますが、重篤な血小板減少性によって脳出血を引き起こすこともあり、非常に危険です。

問題は、ワクチンによってそういった血小板減少性を伴う血栓症が起きるのか? ということです。まずは数字を見てみましょう。

2021年4月12時点では、J&Jのワクチンでは686万接種のうち、6件脳内での血栓症が報告されました。これは、100万回接種のうち0.87の割合で血栓が報告された形になります。

ファイザーのワクチンでは9790万接種のうち、脳内の血栓症の報告はゼロでした。モデルナのワクチンでは8470万接種のうち、3件の脳内の血栓症の報告がありましたが、3件とも血小板減少性はみられませんでした。

この時点でCDCは、J&Jのワクチンと血栓には関連があるかもしれないと判断しました。というのも、ワクチンをしていない人たちよりも発症率が高いからです。ただし、まだデータが少ないので確実なことは言えない状況です。同時に、J&Jのワクチンは「アデノウイルスベクター」を用いる方式で、アストラゼネカのワクチンと構造が似ており、そしてアストラゼネカのワクチンも似た血栓が報告されているので注視が必要とCDCは判断しました。

一方、mRNAワクチンであるファイザーとモデルナ場合、合わせて1億8200万の接種が行われましたが血小板減少性を伴った血栓は1件も報告がありませんでした。

また、J&Jワクチンを接種して血栓ができた患者は30~40代の女性に比較的多く分布しています。4月21日時点では、798万人の接種者のうち、15人の血栓の報告があり全て女性でした。18~49歳に13人、50歳以上に2人報告されたことから、比較的若い女性に発症が偏っているようです。発症した人の年齢の中間値は37歳、発症日の中間値は8日、12件は脳内での血栓がありました。

ただし、発症した人たちに既知の血栓を招きやすい既往症や薬物の使用があったのも事実でした。2人が経口避妊薬を使用しており、7人は肥満、2人は甲状腺亢進性、2人は高血圧がありました。そして、発症をした15人のうち、3人が亡くなりましたが、この3人は血液の凝固を防ぐヘパリンの治療を受けなかった方々でした。残りの12人のうち、7人は入院を続け、5人は退院しました。

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血栓の報告を受けたCDCの対応

以上から、CDCのDr.Shimabukuroは以下のように要約しています。

  1. 血小板減少性を伴う血栓は非常に稀ではありますが、生命に関わる重篤な症状を引き起こす可能性があり、J&Jのワクチン接種者にそういった症状が観察された。
  2. 症状は接種後1~2週間で出てくる傾向がみられた。
  3. J&Jのワクチン接種後に生じた血栓の事例は、アストラゼネカのワクチンによって生じた血栓の例と似通った特徴がある。
  4. 血栓が生じた場合はすぐに処置をする必要がある。
  5. 米国はワクチンの安全性モニターシステムを構築し、副反応の報告に迅速に対処する体勢をつくっている。
  6. CDCはワクチンの安全性の報告に透明性を持って対処する。

以上、皆さんどう感じますか?

100万回接種のうち0.87の割合で、比較的若い女性に生じた血栓で、しかもその方達は血栓ができやすい既往症や薬物使用がありました。そう考えると、もしそういった既往症や薬物使用がなければ確率はさらに低くなると考えられます。また、50歳以上の男性であっても確率は低くなると判断できます。実際、アイルランドではJ&Jとアストラゼネカのワクチンは高齢者に勧められているそうです。

これだけ血栓の怖いデータがあると、「う~ん」と困惑しますね。でも、もう少し客観的にこの数字を見てみましょう。

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血栓での死亡率は飛行機死亡事故より50倍低い

血栓の話だけを聞くと、確かに怖いと思うのは当然です。しかも重篤な症状に陥ることもあるだけに、躊躇してしまう気持ちもわかります。もしファイザーやモデルナを選べるのであれば、そちらを選びたいという気持ちにもなるかもしれません。そこで、この100万回接種のうち0.87の割合というのが、実際に他のリスクと比べていかがなものか、もう少し考えてみましょう。

ちなみに、J&Jのワクチンは一旦停止しましたが、また接種が再開されています。その理由は、血栓ができるリスクよりも、コロナウイルス感染によるリスクの方がはるかに高く、コロナ感染のリスクがワクチンによるリスクを大きく上回るという判断がされたからです。これって、なかなか理解しにくいかもしれませんので、ある例えをします。

コロナワクチンを打たない場合を例えてみましょう。あなたは船に乗っています。船に乗って、大海原を遠い国まで旅をしています。目的地に到着するのは、あなたが一生涯を終える時です。もしあなたが今40歳で、90歳まで生きるとしたら、今後50年船に乗って目的地に向かい続けるのです。その間、何度も嵐の危機がやってきます。そして、時には転覆してしまいます。救命ボートで一命を取り留めるかもしれないし、まるごと転覆して溺死するかもしれません。これが、ワクチンを打っていないことのリスクです。ワクチンを打っていないと、一生免疫がありません。つまり一生涯感染(転覆)のリスクにさらされるわけです。ちなみに「自分以外の皆がワクチンを打ってウイルスがいなくなれば、自分は打っていなくても大丈夫」というパラドックスがありますが、そういう考えを持っている人は残念ながら沢山いるので、ウイルスがいなくなるのには時間がかかります。そうこうしているうちに、感染するリスクがあります。

一方、コロナワクチンを打っている場合を例えると、あなたはジェット飛行機に乗って目的地に向かうことに決めたような感じです。目的地に到着するには、2週間かかります(ワクチン接種後2週間で免疫がかなり立ち上がるからです)。目的地に到着したら、もう船に乗る必要もないので、嵐や沈没の心配はありません。安心して地上での生活を続けることができます。ただし、ごく稀に飛行機は墜落するのも事実です。

ちなみに、航空機が死亡事故を起こす確率は0.0009%と言われていますが、J&Jのワクチンで血栓ができるのは現状では0.000087%です。つまり、飛行機事故で死ぬ確率の方が、J&Jのワクチンで血栓ができる確率よりも10倍高いのです。しかも、J&Jのワクチンで血栓ができた15人のうち死亡した方は3人なので、死亡率は飛行機事故による死亡よりさらに低く(50倍)なります。そう考えると、かなり稀な事象だという認識になります。

これに関して、先月4月23日に行われたCDCのミーティングで発表されたスライドを元に、日本語でわかりやすく作り直してみました。元のスライドのデータの時期と上記のデータの時期が少し違うので、数字が少し違いますが、コンセプトはわかっていただけると思います。

スライド:J&Jワクチン承認後の血栓の報告と、コロナウイルス感染の確率

このスライドから見ておわかりいただけるように、確かに自然に生じる血栓の確率よりも、J&Jのワクチンを接種した後の方が血栓の発症率は上がっているようです(「ようです」と書くのは、まだデータが少ないからです)。一方で、コロナウイルスに感染する確率は遥かに高いです。住んでいる国、環境、変異種の分布、生活様式などによって、感染率は大きく変わってきます。しかし、ある研究では「電車の中で感染する確率」を計算した結果、0.32~1.5%だとしています(引用してあります)。当然のことながら、さらに感染しやすい環境も含めたら、これ以上の数字である場合も当然です。

以上から、非常に稀な血栓のリスクとコロナウイルス感染によるリスクを天秤にかけたら、圧倒的にワクチンの利点がリスクを上回るという結論に今のところCDCは至っているわけです。加えて、接種対象を高齢の男性にすることで、全体の血栓のリスクを下げることも可能だという視点もあります。少なくとも、テキトーに無責任にOKを出しているわけではないのはお分かりいただけるかと思います。

最後に、ここまで読んで混乱された方もいらっしゃるかもしれませんが、現時点で日本で認可されているファイザーのワクチンは血栓の例は現時点では報告されていません。ファイザーのワクチンを接種予定の方は、血栓の心配は現時点では限りなくゼロに近いかと思います。

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皆さんの協力が人類を守る

ということで、いかがだったでしょうか。血栓は怖いですが、数字や患者の状況などを加味すると、血栓が生じたのは色々な条件が整った上にかなり稀だということが客観的に理解できるかと思います。逆に言えば、女性で血栓ができやすい条件が揃っている場合は、その点を医師に相談するなどの対応も今後必要だと思います。

皆さんには客観的なデータと冷静な判断で、ワクチン接種に望んでいただきたいです。どんなに有名な人であれ、ジャーナリストであれ、医者であっても、根拠やデータがなくワクチンの恐怖を煽っていたら、すぐに鵜呑みにはせず、まずは疑って立ち止まるべきです。今後ワクチンの供給が広がって、このパンデミックを終わらせられるかどうかは、個人レベルではなくて皆の協力が必要です。ワクチンを接種することは、自分や家族だけの身を守るだけでなく、人類全体を守ることにつながっていると意識していただきたいです。インドの惨状を見て、ファイザーのワクチンを昨年すぐに受け入れていればこんなことにはならなかったのにと思うと、非常に心が痛みます。

最後に、僕がワクチンを打った時に感じたことは、ワクチン開発と配布に関わった皆さんありがとう! そしてサイエンスありがとう! でした。自分も免疫学の研究をしているだけに、非常に感慨深い瞬間でした。コロナウイルスの蔓延には何のプラスもありませんが、この危機をきっかけにワクチン開発にイノベーションが起こったことは事実であり、大きなプラスです。科学と医学がここで飛躍したように、我々ワクチンを受ける側の意識も一歩前進する必要があると感じています。そういった意味で、お伝えする情報が皆さんの判断基準の役に立ったら幸いです。

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image by: Shutterstock.com

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ねこブロガー/ダンスインストラクター/起業家/医学博士。免疫学の博士号(Ph.D.)をワシントン大学にて取得。言葉をしゃべる超有名ねこ「しおちゃん」の飼い主の『しんコロメールマガジン「しゃべるねこを飼う男」』ではブログには書かないしおちゃんのエピソードやペットの健康を守るための最新情報を配信。

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