まるで『プロジェクトX』。電球生産会社が成功した「きのこ栽培」秘話

 

どうでもいいキノコの豆知識

ちょっと脱線しますが、説明するために少し豆知識を披露すると、ちなみにシイタケ(キノコ類)は大きく分けて「原木栽培」と「菌床栽培」という方法があります(なんのこっちゃと思ってるかもですが、だんだん解ります)。

原木栽培はざっくり言うと「天然の原木に種(みたいなもの)を埋め込んで自然に生やす」という方法で、いわゆる天然のキノコが生えますがむっちゃ時間がかかり、基本自然任せです。

一方菌床栽培というのは、チップと栄養素(米ぬかとか)を機械で混ぜ混ぜして、ぎゅーっと四角に整形してレゴブロックみたいなのを作ってそれをビニールの四角い袋に入れて、そこに種みたいなのを植えて温度管理して育てる方法です。これはきのこにとって最適環境なので早く育って、月に何回も収穫できるわけですね。

で、大井川さんの生産過程をみてたら、やはりこの菌床栽培をやっていて、つまり農業といってもそのプロセスは比較的工業に近いというか「工場っぽい」栽培方法になっていたわけです。

もちろん、基本は農業なので栽培は菌の力まかせではあるんですが、畑などと比べるとぐっと自然環境に左右される率は低くなるので、どちらかというと「どのように温度を管理するのか」「どうやって殺菌するのか」「どうやって菌床を作るのか」みたいな製品品質管理に近い感じのコントロールが必要で、それに電球のような繊細なものを作る管理手法が役に立った、というか「肌にあった」んじゃないかなと予想してます。

「意外性」というブランド

ええ、まあ、わかってますよ。実際問題として大規模農家とか大規模酪農家とかはほとんど「工場化」してて、特に大井川さんのやっていることが珍しいわけではないことは。

ただ「下町ロケット」じゃないけど、そういう電機部品を作っている会社が、あえて農作物を作るという「意外性」がブランドには大事なんじゃないかな。正直「これはきのこ農家が丹精込めて作った希少きのこです」と言われても「ふーん、まあ美味しいだろうな」という感じしかしないけど、これが「電球を作っていた会社が作った希少きのこです」と言われると、「おお、それはすごい」と一種の物語性があって「どれ、一つ食べてみたいなあ」という気持ちになるんだと思うんですよね。

ヘッドライト・テールライト

これはただのゲスの勘ぐりですが大井川さんもそれは意識してやっているんじゃないかな。だって担当部署が「きのこ部」って可愛すぎますもんね(笑)。

でも、それが単なるコンセプトだけで、美味しくなかったら年商1億円を目指すことはできないかも。そういう話題性と「品質」を両立するのは、逆に「新規参入者の強み」なんじゃないかなと思うのですよね。

つまり何が言いたいかというと、その「失敗の歴史」もすでに物語だよね、『プロジェクトX』というか判官贔屓な日本人が大好きなお話しだもんね。ということです。

最初は上手くいかなくてカビが生えちゃって、それを電球の殺菌に使う機械で殺菌したり、変な方向に生えちゃって、それが車で運ぶ振動で起きていることに気がつくまで悩んだり、みんな素人すぎてどこで売ったらいいかわからなかったりとか、もう聞いているだけで「頑張って!私も1パック買ってみる」って言いたくなるわけです。そしてその結果、美しい希少きのこができました。って、はあ、なんてカタルシス、もはやドラマだよ、あなたたち。と思わず頬に涙がつたうわけです。

ああ、すみません、ちょっと取り乱しましたが、つまりこれはランチェスター戦略の第一法則の「局所優勢」というか、「“はなびらたけ”というマニアックで美味しいキノコを作っている電球メーカー」というむちゃむちゃニッチな世界で、ゲリラ的に戦っているいい例じゃないかなと思うわけで、きっとこういう余地は農業や漁業などの第一次産業にはまだまだ残っているんじゃないかなあと最近は考えてます。

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