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日本は独裁国家か。メディアを犯罪者扱いした防衛大臣の逆ギレ発言

防衛省・自衛隊が運営する東京と大阪の大規模接種センターの予約システムに重大な欠陥があることを複数のメディアに指摘され、岸信夫防衛大臣は怒りを露わにしてメディアの手法を批判しました。その言動そのものが、日本のITレベルの低さを世界に発信してしまっていると嘆くのは軍事アナリストの小川和久さんです。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、メディアによるチェックを違法行為扱いする国は独裁国家か発展途上国で、国家としての後進性を示していると厳しく指摘するとともに、逆上する将軍が率いる軍隊は罠にハマりやすいと危機感を示しています。

日本の弱点をさらす防衛大臣の抗議

ここ数日、発言するのを我慢していたのですが、黙っていられなくなりました。日本の国家システムを健全に機能させていく方向で、ひと言述べておきたいと思います。

毎日新聞や朝日新聞出版の「AERA dot.(アエラドット)」、「日経クロステック」など複数のメディアが、政府が設置し、自衛隊が運営する大規模接種センターの予約システムに重大な欠陥があると報じたことについて、岸信夫防衛大臣は18日、「65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為」とする抗議文を郵送しました。

同時に、指摘された問題点については、欠陥を認めたうえで「今回ご指摘の点は真摯に受け止め、市区町村コードが真正な情報である事が確認できるようにする等、対応可能な範囲で改修を検討してまいります」と付け足しのようにツイートしています。

岸さんとは長い付き合いですが、これはいただけません。その理由の第1は、国の防衛に置き換えると、これは外国から日本の脆弱な部分に対して奇襲攻撃を受け、対処できなかったことを認めているに等しいからです。これについては怒りを露わにするのではなく、指摘を真摯に受け止め、円滑に接種が進むよう問題点の解決に取り組むと、冷静にコメントすべきです。激高するほどに、日本のITシステムのレベルの低さとともに、防衛省が慌てふためいている様子を自ら世界に喧伝してしまいます。

理由の第2はマスコミのチェックを「違法行為」という角度からのみ語っていることです。確かに、厳格に法律を適用すると違法行為に認定され、罪に問われる場合もあるかも知れません。しかし、ジャーナリズムの使命などと大上段に振りかぶるつもりはありませんが、納税者である国民の立場から常に政府が打ち出す政策に目を光らせ、チェックするだけでなく、場合によっては政府を助ける立場にあるのが、国会であり、ジャーナリズムなのです。

今回の予約システムの欠陥も、本来は政府が問題点に気づいて補正しておかなければならないケースです。防衛省は、業者に丸投げし、自らチェックをしなかった結果の問題だと反省しなければなりません。

あまりにも使いにくいシステムだとの市民の声を受け、架空の市町村コードや接種券番号でも予約できるというシステムの脆弱性を発見したのです。これはどのメディアであろうと、ジャーナリズムである限り、見過ごすことのできない事柄で、当然ながら罪に問われることまで覚悟して検証している訳です。米国のメディアなどは、刃物を持って空港の検査場を通り抜けてみせるなど、かなりの頻度で政府をチェックしていますが、罪に問われたとは聞かない話です。

まして、今回のケースではマスコミはシステムの脆弱性を検証した後、すぐに予約をキャンセルし、その過程を報道していますし、架空予約をしないようとの防衛省のコメントも掲載しています。よほどの独裁国家か発展途上国でない限り、マスコミが罪に問われることはないケースです。

関連して、自衛隊OBなどからマスコミへの非難が噴出することになりましたが、これも問題ありです。非難の声は日頃からのマスコミ嫌いに発しているのですが、それまでのマスコミ報道がどうあれ、国家システムを健全に機能させる上でのジャーナリズムの位置づけという角度から、とらえてもらいたいと思いました。産経新聞だって、気がつけばチェックしていたかも知れないのです。

今回のケースでは、自衛隊の将官OBが非難を口にするほどに、日本の国家の後進性だけでなく、自衛隊の脆弱性を世界にさらしている面があることは、相手の立場から見れば明らかです。挑発すれば逆上する将軍提督が多い軍隊は、罠にはまりやすく、御しやすいとみられるのです。防衛省・自衛隊と関わりの深い立場としては、OB諸氏が深呼吸をして、冷静な思考を取り戻すことを期待せずにはいられません。(小川和久)

image by: 本屋, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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