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馬脚を露わした朝日新聞。「普天間基地企画」から見えた“官尊民卑”

朝日新聞は6月初めに全6回にわたって、合意から25年が過ぎても返還が実現しない普天間問題を取り上げました。その企画で返還合意の当事者のように紹介された6人のうち2人しか当事者ではないと呆れるのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さん。小川さんは自身がまさに返還交渉に臨んだ一人であり、その詳細な顛末を記した『フテンマ戦記 基地返還が迷走し続ける本当の理由』を昨年3月に上梓しています。企画に際し、少しでも自著に目を通していれば、今回のような誤報にはならないと、朝日新聞の「官尊民卑」を嘆いています。

今度も「小川は朝日の敵だ」と言うのかな(笑)?

ジャーナリズムの在り方とはほど遠い日本のマスコミの劣化を危惧している立場ですが、これは社内的にも説明しにくいだろうという例を朝日新聞で発見しました。これについて、私は次のようにツイートしました。6月9日のことです。

「朝日新聞の普天間企画が終了。さすが自由な社風(皮肉)。てんでバラバラの人選。当事者は2人の稲嶺さんと秋山さんだけ。返還合意時の江田秘書官、田中均さん、守屋さん、それに小川和久がいない(笑)。優秀な記者が辞めて、後続部隊は本も読んでいないらしい。これは反省会ものだな。読者が減るよ」

この企画は6月2日から始まり、9日までの6回、次の顔ぶれが登場しました。稲嶺惠一(元沖縄県知事)、秋山昌広(元防衛事務次官)、東門美津子(元沖縄市長)、黒江哲郎(元防衛事務次官)、稲嶺進(元名護市長)、マイク・モチヅキ(ジョージ・ワシントン大学准教授)。

多くの方がご存じのように、私は普天間基地返還合意を実現する場所に当事者として立ち会い、その後、小渕、小泉、鳩山の各政権で首相から直接、命じられて普天間返還合意に取り組んできました。それに対して、事務次官級の指定職11号(小渕政権)、首相補佐官(小泉、鳩山政権)に就任するよう求められました。その経過を含めて、24年間の関わりを回想録としてまとめ、昨年3月、『フテンマ戦記 基地返還が迷走し続ける本当の理由』(文藝春秋)を出版しました。

だから申し上げることができるのですが、朝日新聞の企画が「普天間はなぜ動かないのか。返還合意や移設計画にかかわってきた元首長や元官僚らに聞きました。朝日新聞デジタルでは、紙面に登場しない方を含めた詳しいインタビューの特集ページを作っています」と謳うような当事者、あるいは当事者に近い人は紙面に登場した6人のうち稲嶺惠一、秋山昌広、稲嶺進の3氏にすぎないのです。「紙面に登場しない方を含めた詳しいインタビューの特集ページを作っています」という部分は、読者にすぐにわかるようにはなっていないようです。私がツイートするまで、「移設計画にかかわってきた」という記述はなかったような、あとから手を加えたような印象すらあります。

さらに、普天間基地はまだ返還が実現していませんから、普天間返還合意に関わった人、あるいは、普天間返還のために努力してきた人、と定義を明らかにしなければなりません。後者であれば、ちょっと接点があれば構わないのかも知れませんが、前者ということになると限られてきます。

橋本龍太郎首相、江田憲司秘書官、山崎拓自民党政調会長、田中均外務省北米局審議官、そして小川和久。首相主導で返還合意が決まった直後、知らされたのが梶山静六官房長官、折田正樹外務省北米局長、秋山昌広防衛庁防衛局長、そして沖縄県の大田昌秀知事です。わずか9人!そこまで厳密に絞ると朝日新聞の企画で当事者と言えるのは、かろうじて秋山さんだけなのです。秋山局長の下にいた守屋武昌元防衛次官も、当事者に含めてよいかも知れません。もちろん、軍事問題についての基礎知識を備え、米国政府と対等に渡り合えるのは、『フテンマ戦記』に書いたとおり、私だけだったのです。自分から言いたくはありませんが、それが実態なのです。

朝日新聞の記者の皆さんが、普天間基地問題を扱うに当たって『フテンマ戦記』に目を通していれば、5分間で上記の9人を把握することができたはずです。日本のマスコミは官尊民卑ですから、政府の高位高官や政治家でない私の本など馬鹿にして見向きもしないのかも知れませんが、私の本を読むまでもなく、朝日新聞の縮刷版で当時の動きを追えば、1日もあれば現在までの当事者を洗い出すことができたでしょう。

今回の普天間の企画に当たって、どういう対象に、どのような角度で取材するか厳密に議論していないことは人選を見れば明らかです。ジャーナリズムとしてのガバナンスは存在していません。その挙げ句、日本新聞協会の新聞倫理綱領にある「新聞は歴史の記録者」にもとるような記事の羅列となっています。

朝日新聞には友人知己も多く、私の義理の兄とその兄も50年近く前は朝日の記者でした。商業的に左翼路線をとっている色彩は否めませんが、最もジャーナリズムを意識してきた新聞でもあります。現に『Journalism』という月刊誌も出しています。

それがこのていたらく。朝日の内部で、ジャーナリストの誇りにかけて今回の問題を取り上げ、紙面再生への教訓としてもらいたいと期待しています。以前、誤報を指摘したら、「朝日を批判したから小川は朝日の敵だ」という声が聞こえたので、朝日も落ちたものだと思いました。これではチンピラやくざです。昔から言われてきたように、せめて「えせ紳士」のふりくらいをしてもらいたい(笑)。(小川和久)

image by:Osugi / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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