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夫を亡くした妻の貰う遺族年金が大幅アップ?その条件と計算方法は

夫が亡くなった際に妻へ支払われる「遺族年金」ですが、妻が貰うとき、条件によっては大幅に年金額がアップすることがあるようです。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』は、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、その理由を明かすとともに、詳しい年金計算についても解説しています。

なぜ妻が遺族年金を貰う場合は、大幅に年金額がアップしたりするのか?

夫が亡くなった時に、多くの妻が遺族年金を受給する事になります。もちろん夫が亡くなれば必ず遺族年金が発生するわけではありませんが、いくつか条件を満たす必要があります。

例えば遺族厚生年金が貰いたい場合は、ザックリ言うと原則として厚生年金加入中の死亡もしくは、亡くなった夫に老齢厚生年金の受給資格がある場合の死亡である事が必要です。この時に発生する遺族厚生年金において、585,700円アップする時があります。

585,700円(令和3年度価額)を中高齢寡婦加算といいますが、原則として夫死亡時に妻の年齢が40歳以上である時に支給されます。最大、40歳から65歳になるまでの25年間支給される事になります。65歳になるまでというのは、65歳からは妻自身が国民年金からの老齢基礎年金を受給し始める年齢だからです。

ところで、なぜ夫死亡時に40歳以上の妻にはそんなに遺族厚生年金額がアップする制度があるのか。夫に生計維持されていた妻が中高齢であると、夫が死亡してから妻が働く事になっても十分な所得を得るのが困難になる事が多いからです。

女性の就労は、昭和末期の時代からは男女平等になっていきましたが、依然として女性にとって不利な事が多いです。月の給与に関しては男性の平均は35万円くらいですが、女性の平均は23万円となっています。

なぜそんなにまだ男女差があるのかというと、女性で管理職に就いてる人が少ないからです。管理職の割合の中で女子が占める割合は15%ほどと非常に小さいです。女性の管理職というのはとても少なくて、先進7ヵ国の中でも最下位。別に男女で能力に差があるわけでもないけれど、未だに日本の職場における女性の立場は厳しいものがあります。この格差は今後も解消していく必要があります。

よって、女性は夫が死亡した時に所得の面で不利になる事が多いため、遺族年金においてはやや有利にされている面があります。もちろん遺族年金は妻が死亡して夫が貰うという場合もあるけども、遺族厚生年金においては妻死亡時に原則として夫は55歳以上であるという年齢要件があります。しかも実際の支給は60歳からとなっていて、妻が受給する際はそのような年齢要件はありません。

また、18歳年度末未満の子が居る場合のみに支給される、国民年金からの遺族基礎年金は男性は平成26年4月からやっと認められる事になりました。妻が死亡して夫が遺族年金を貰う時は何かと厳しかったけども、男性であっても非正規雇用が増えてきて、必ずしも十分な所得を得ている男性が多数ではなくなってきたので、男性に対する条件が緩和されてきています。

さて、話を戻しますが冒頭で申し上げましたように、女性が遺族厚生年金を貰う時は585,700円を追加される事がありますが、一体どのような場合にそんなに高額な加算がされるのかを見ていきましょう。ちなみに厚生年金加入中に死亡した場合は、中高齢寡婦加算が支給されるケースが大半です。

しかし、既に老齢厚生年金を貰ってる夫が亡くなった場合は、厚生年金加入月数が240ヶ月あるかないかが重要になります。なので今回は老齢厚生年金受給者で考えていきましょう。

 

1.昭和30年6月10日生まれの男性(今は66歳)

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20歳になる昭和50年6月から昭和53年3月までの34ヶ月間は大学生だったため、国民年金には強制加入ではなく任意加入だった。任意加入しなかったのでこの34ヶ月間はカラ期間となる。

昭和53年4月から平成10年3月までの240ヶ月間は厚生年金に加入する。なお、この間の平均給与(平均標準報酬月額)は40万円とする。平成10年4月から平成19年5月までの110ヶ月間は国民年金保険料を納める。

平成19年6月から60歳前月である平成27年5月までの96ヶ月間は国民年金保険料全額免除(平成19年6月から平成21年3月までの22ヶ月間は老齢基礎年金の3分の1に反映し、平成21年4月から平成27年5月までの74ヶ月は老齢基礎年金の2分の1に反映する)。

平成21年3月以前と4月以降では税金の割合(国庫負担の割合)が3分の1から2分の1に引き上がったため。この分岐点は年金計算の上でとても重要なので覚えておく必要があります。

さて次に、この男性の生年月日から見ると厚生年金を62歳から貰えてる人ですが、そこは割愛して65歳から貰ってる年金額を算出しましょう。

まず国民年金からの老齢基礎年金を計算しますが、国民年金強制加入期間の20歳から60歳までの期間で考えます。

・国民年金保険料納付済み→110ヶ月
・全額免除→22ヶ月間は国庫負担3分の1で、74ヶ月間は国庫負担2分の1となる
・厚年期間→240ヶ月
・カラ期間→34ヶ月(これは年金額に含まない)

・老齢基礎年金→780,900円÷480ヶ月×(110ヶ月+240ヶ月+22ヵ月÷3+74ヶ月÷2)=780,900円÷480ヶ月×394.333ヶ月=641,530円

・老齢厚生年金(報酬比例部分)→40万円×7.125÷1000×240ヶ月=684,000円
(経過的加算は微額なので今回は計算を省略します)

あと、65歳未満である61歳(昭和35年生まれ)の妻が居たので、配偶者加給年金390,500円が夫が65歳の時から加算。なぜなら厚生年金期間が240ヶ月以上(20年以上)あったから。

65歳からの年金総額は老齢基礎年金641,530円+老齢厚生年金684,000円+配偶者加給年金390,500円=1,716,030円(月額143,002円)

 

その後、夫は令和3年7月15日に私傷病にて死亡。夫死亡時に生計維持してた遺族は61歳の妻、26歳の子、母(89歳)だった。配偶者である妻が最も最優先順位者なので、妻が遺族年金を受給する遺族となる(子は18歳年度末超えてるのでそもそも遺族厚年や遺族基礎の対象とならない)。また、夫が貰えなかった老齢の年金である未支給年金(143,002円×2ヶ月=286,004円)も同時に請求して、妻が受給。

※ 参考

未支給年金はなぜ143,002円×2ヶ月分なのか。

年金というのは死亡月分まで貰う事が出来ますが、7月に死亡してるので7月分まで貰う事が出来ます。ところが7月分というのは、6月分と合わせて8月15日に支給されるので、実際はまだ7月分は6月分と合わせてもらう事が出来ていません。

よって6月分と7月分を夫が貰えなかったので、その年金は未支給年金として一定の遺族が請求により受給する。

次に、遺族厚生年金は受給できるのか。この夫の死亡の場合は、老齢厚生年金受給者の死亡なので遺族厚生年金を妻は貰う事が出来る。全体の年金記録としては、110ヶ月+240ヶ月+96ヶ月+34ヶ月=480ヶ月ある。25年以上の記録が有る人の死亡の場合は遺族厚生年金が発生する(ただし、年金計算の際は実際の厚生年金加入期間で計算)。

ところで老齢厚生年金は平成29年8月から10年(120ヶ月)の年金記録でも貰えるようになりましたが、全体で25年に足りない人が死亡しても遺族厚生年金は発生しないので注意。例えば全体で24年の年金記録の人が死亡しても遺族厚生年金は支給されない(25年以上無いから)。

・遺族厚生年金額→夫の老齢厚生年金684,000円÷4×3=513,000円

あと、夫死亡時に妻は61歳ですので、40歳以上65歳未満という条件を満たすため、中高齢寡婦加算585,700円(令和3年度価額)も支給される。

遺族年金総額は、遺族厚生年金513,000円+中高齢寡婦加算585,700円=1,098,700円(月額91,558円)

なお、老齢厚生年金受給者の死亡の場合は、240ヶ月以上の厚生年金期間があったから中高齢寡婦加算が加算された。もしこの夫の厚生年金期間が240ヶ月未満だった場合は、中高齢寡婦加算は加算されていなかった。

 

その後に妻が65歳を迎えるとします。妻の65歳からの老齢の年金総額は老齢基礎年金70万円+老齢厚生年金20万円とします。

65歳になると中高齢寡婦加算585,700円は消滅しますが、65歳になると新たに老齢基礎年金が支給開始となります。老齢基礎年金までの繋ぎともいえる。

よって、65歳からの妻の年金総額は老齢基礎年金70万円+老齢厚生年金20万円+(遺族厚生年金513,000円-老齢厚生年金20万円)=1,213,000円(月額101,083円)

(遺族厚生年金513,000円-老齢厚生年金20万円)というのは、遺族厚生年金から妻自身の老齢厚生年金を差し引いています。これはまず自分自身の老齢厚生年金を貰い、その老齢厚生年金額を超える金額を遺族厚生年金として受給するという形になっています。65歳以上になるとみんなこのようになる。

これを先充て支給というのでこれは必ず覚えておきたい。

※ 追記

既に老齢厚生年金を貰ってる夫が死亡した時に、中高齢寡婦加算が妻に加算されるかどうかは夫の厚生年金期間による。夫の厚生年金期間が240ヶ月以上あるかどうかは重要な分岐点なので、確認しておくといいですね^^

image by: Shutterstock.com

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佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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