経済的な覇権を拡大し超大国になろうという戦略
先週号の内容へのコメントの中でもご指摘いただいており、私もお話ししておりましたが、総合的な軍事力(装備や性能というハードコアなものと、作戦立案と執行力というソフトな力)という観点では、中国はまだまだアメリカには及びません。
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何よりも、中国は、現時点では世界的な軍事プレセンスは目指しておらず、あくまでも中国の軍事的な関心はアジア太平洋地域とインド太平洋地域に焦点が当てられています。
言い換えると、香港・マカオ、南シナ海、尖閣諸島などの東シナ海海域、そして台湾が、フォーカス地域に含められ、中国はその地域での対米優位性の確立に動いているに“すぎない”と分析できます。
極超音速長距離弾道ミサイル(核弾頭付き)の開発と配備というように、確かにアメリカ本土や欧州各国を射程に含む装備もありますが、対米・対欧州先制攻撃は、今のところ想定されておらず、抑止力としての位置づけに留まっています。
戦略的な関心はアジアに限定されており、アジアにおける中国の権益(ただし、一方的に強引に主張されているもの)を脅かす対象に対しては、戦術的な優位性を確保し、徹底抗戦するという性格を持っています。
ゆえに、台湾などを舞台にした武力紛争に発展した際には、アメリカと雖(いえど)も容易に近づけない体制を確立しようとしています。
例えば、最近、イスラエルとパレスチナ(ハマス)との武力紛争がありましたが、その際に有名になったアイアンドームへの関心が中国政府内で急速に高まり、イスラエルとの戦略対話の際にその購入や導入指南を懇願しているという情報もあります。イスラエルが、アメリカにとって特別な関心対象国であることも重々承知の上で、そのような動きを取るのが、あまり語られることのない、中国の戦略と言えるかもしれません。
アジアにおける自己の権益を守るためには手段は選ばないと言えますが、アジア外の地域に対しては、主に経済的な力で覇権拡大(影響力拡大)を目指すという戦略的な切り分けが行われています。
目的は、影響力拡大ですが、軍事的なプレゼンスによる支配・影響力拡大という“従来型”よりは、経済的な覇権を拡大し、対象国と地域の経済の首根っこをつかんでしまうことで、国際社会・情勢における外交的な支持基盤を確保して、“中国シンパ”の国と地域を拡大することで、超大国になろうという戦略であると考えます。
アフリカにある55か国、中東各国、一帯一路の対象国である南アジア諸国、中南米における“全体主義的な国々”が、国連や国際社会における対中批判をことごとく否決し、新疆ウイグル自治区における重大な人権蹂躙の案件や香港での民主派勢力の排除といった案件でも、中国政府の対応を評価する動きに出ています。ゆえに人権委員会でも、対中制裁案は出ませんし、WHO総会への台湾の参加がブロックされることになっています。
つまり、軍事的には押さえ込んでおらず、またその意図もないが、圧倒的な経済力と“サポーターはとことん守る”という姿勢により、国際社会におけるゆるぎない支持基盤を得ていることになります。
もちろん、China wayで行われる様々なプロジェクトや開発案件は、アフリカの国々では不評も買っていますが、中国は政府の支持を握っています。もちろん、孔子学院などを通じて、文化的・思想的な影響力拡大にも勤しんではいますが。
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