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ジリ貧からの脱却。日本のアパレル業界には今「エンジニア」が必要だ

先日掲載の「だから潰れる。アパレル『在庫持つな』『原価率下げろ』の時代遅れ」等の記事で、日本のアパレル業界の問題点を指摘しその解決を模索し続けてきた、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。そんな坂口さんは今回、自身のメルマガ『j-fashion journal』で、DXの時代に対応できる自立した「アパレルエンジニア」養成の必要性を強く訴えるとともに、その育成構想を惜しげなく披露しています。

【関連】だから潰れる。アパレル「在庫持つな」「原価率下げろ」の時代遅れ

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淘汰が進んでいる国内アパレル企業には「エンジニア」の育成が必要だ

1.ファッションが好きな若者

ファッション企業が儲かっていた時代は、お金を稼ぎたいからアパレル業界で働きたいとか、モテたいからアパレル業界に就職するという人もいた。しかし、アパレル産業が斜陽になった現在、実利的な意味でファッション業界を目指す人は減っている。

それでも、ファッションが好きな若者は多い。多くはお洒落をするのが好きだったり、少し奇抜な服を着たり、デザイナーズブランドの服を買うのが好きな人達である。ファッションを消費するのが好きなのだ。

一方で、ファッションをつくる仕事をしたいと考える人もいる。服をつくるのが好きで、その技術を身につけ、職業にしたいと考える。

あるいは、ショップで服を売りたいと思う人もいる。好きなファッション商品を販売することで、顧客に喜んでもらいたいと考えたり、ファッションの接客そのものが好きだという人もいる。

また、手を動かして何かをつくるのが好き、美しいものをつくるのが好きという人達もいる。

ビジネスとして、あるいは自己表現として、あるいは、創作活動として、ファッションは魅力的な世界なのだ。

ファッションを楽しみたい人がいて、ファッションを作りたい人もいる。そして、ファッションを通じて人とつながりたい人もいる。

70年代、80年代のようなアパレル業界の急成長と市場拡大は困難かもしれないが、小さな市場に対応し、持続可能な成長を目指すことはできるのではないか。

そのためには、ファッションビジネスのDXを前提にした人材育成とビジネス支援、コミュニティが必要になると思う。

2.サンプル生産の重要性

これまでのアパレル生産技術は、大量生産を基本にしていた。いかに効率良く作業を進めるか。そのための技術が追求された。

例えば、繊維機械の技術革新は、高速化と効率化が主要なテーマである。いかに短時間で大量の商品を生産するかを競い合ってきたのだ。

しかし、効率の良い大量生産は、資源の枯渇を早め、商品単価を下落させ、市場収縮を招く。効率の良い機械を導入するにしても、人件費の高い日本ではなく、人件費の低い新興国で設備投資を行うのが一般的だ。

こうして、人件費の低い国への生産移転が進む。生産拠点が流出した国は空洞化し、製造業が衰退する。

大量生産、効率追求という考え方には持続性が欠如しているのだ。

これからの技術革新は、効率追求ではなく、品質追求、付加価値追求ではないか。つまり、低速にすることで、より高度で付加価値を生み出す機械や技術。大量生産ではなく、一点生産により付加価値を生み出す機械や技術が求められるだろう。こうした機械ができれば、先進国型製造業の概念が明確になるはずだ。

今後の日本の製造業は、高付加価値商品と、量産品のプロトタイプ設計が重要になるのではないか。

どちらにも共通してるのは、新興国の大量生産品との差別化である。差別化のための技術。大量生産、効率追求という方向とは正反対の技術が求められている。

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3.CADを基本とした外注パターン検定

高付加価値商品と量産品のプロトタイプをつくる技術はパターンメーキングと縫製に集約できるだろう。

パターンメーキングはパターンCADの登場で劇的に変わった。パターンデータをコピー、共有することで、チーフがマスターパターンを作成し、そのデータを元にアシスタントが展開パターンを作成できるようになったのだ。

もし、この手法を業界全体に応用するなら、基本となるパターンをクラウドに上げておいて、そこから展開することも可能だし、パターンナーが独自のパターンを販売することも可能になる。

また、パターンメーキングの教育も変わるだろう。これまでは、原型から各自の体型やサイズに合わせた製品パターンを作成することが中心だった。クセのある体型に合わせれば、クセのあるパターンになる。それは既製服にはならない。

既製服は、サイズ展開を前提にしている。標準サイズのバランスの良いパターンを作成し、グレーディングにより、一定のカバー率を確保するという考え方である。

標準サイズと言っても、国や民族、年齢、職業等により異なっている。それらの標準パターンをクラウドに上げておいて、そこからパターンを展開することができれば、より完成度の高いパターンを作れるのである。

企業からの外注パターンを作成する場合には、それぞれの企業のマスターパターンや標準パターンを基本に展開すべきである。しかし、大多数のアパレル企業は標準パターンを持っていない。企業内パターンナー個人のノウハウに依存しているからである。

外注パターンナーとは、独立したフリーランスのパターンナーである。外注パターンナーとして独立するために、必要なことは何だろう。

私は以下のものが必要だと考えている。パターンメーキングの基本的な技術、パターンCADの操作、アイテム毎に標準的なパターンを持っていることである。

標準的なパターンを持っていて、そこからCADでパターン展開することができれば、企業内でもアパレル市場でも通用するだろう。標準パターンがしっかりしていれば、着られない服、バランスの悪い服はできないはずだ。

標準パターンを配布し、展開操作を教えるための検定を整備したいと思う。そして、その運営主体となる法人を設立する。設立には、パターンCADメーカー、パターンメーキンク企業、ファッション専門学校、大学等と連携したい。

4.サンプル縫製の検定

次に各アイテムの標準パターンを元にした、サンプル縫製の検定を整備する。検定はアイテムごとに設定されるので、初級ブラウスとか、初級スカートというように、縫製の難易度とアイテムが組み合わされるので、実際に仕事を発注する側にとっても、目安になるはずである。

通常、量産の縫製工場は分業なので、一人の縫製工が一枚の服を最初から最後まで手がけることはない。一枚の服を全て縫製する「丸縫い」ができるのは、工場長やライン長など、高度な技術を持つ縫製工だけだ。

したがって、丸縫いができるサンプル縫製工は立派な技術者である。海外生産が増えても、国内でサンプルを縫製する仕事はなくならない。

また、サンプル縫製ができれば、自立してオーダーメイドの服を売ったり、一点ものを販売することも可能だ。

サンプル縫製の検定では、パターン、縫製仕様書、生地、付属等を提供し、実際に縫製し、最終検品まで行う。支給された、パターン、縫製仕様書、生地、付属等は、その後の資料としても活用できるはずだ。

こちらの検定は、自分で着用できる方が良いので、グレーディングパターンを用意して、選んでもらえるようにしたい。

縫製実習は多くのファッション専門学校で行っているので、学校に教材を支給して、審査を学校に委託することも可能だろう。

あるいは、縫製工場やミシンメーカーと連携したワークショップも可能だろう。

外注パターンナー、サンプル縫製という仕事は個人事業主として営業することが多いだろう。自分で伝票を切り、入出金管理も行わなければならない。こうしたことも検定として整備できればと思う。

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編集後記「締めの都々逸」

「服が好きだと 言う子を集め それで暮らして 幸せに」

アパレルDXの時代に対応する自立したアパレルエンジニアを育成するための教育プログラムや検定制度を整備し、仕事のマッチングを行い、アパレルエンジニア同士のコミュニティを運営するための団体を作りたいと考えてします。業界の団体ではなく、個人の団体です。そして、もちろん、ビジョンを事業として実現したいと思います。

安くて良いものを追求した結果、皆が貧しくなりました。やっぱり、良いものは高く買う、という態度が重要だと思います。そうすれば、良いものを丁寧に作るという職人も育つのです。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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