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中等症も自宅療養という“棄民政策”を平気で使う菅首相に国民が殺される日

先日掲載の「血迷った日本政府。政治家の“人災”で感染爆発も『命の選別』表明の何サマ」でもお伝えしたとおり、新型コロナの中等症患者については基本的に自宅療養とする方針を打ち出した菅首相。医療崩壊回避のため入院制限をかける運用となるわけですが、そもそもなぜここまで感染者が急増する事態となってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、その要因として五輪開催のため安全安心ムードを醸成しようとした政府の姿勢を挙げるとともに、責任回避に終止する首相を強く批判。その上で、現在の爆発的感染を収束させるため菅首相がすべきことについて提言しています。

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菅首相が問答無用の方針転換。中等症でも自宅待機の理不尽

東京を中心に、かつてない猛烈なスピードで感染が拡大している新型コロナウイルス。医療崩壊が迫り、策に窮した菅首相は、ついに“禁じ手”を打ってきた。

中等症でも、リスクが低いと判断すれば、入院させない。そんな方針を都道府県に伝えるというのだ。たとえ肺炎とおぼしき症状でも、担当医が重症化しないと判断したら、自宅療養を余儀なくされる。

こうでもせねば、病院が対応できないほどの危機が近づいている、ということなのだろう。

それなら、楽観と危機感が混在する今の中途半端な施策を根本的に転換すべきである。本格的な危機対応をとらねばならない。

例えば、ロックダウン。法整備の検討を求める意見が専門家や全国知事会から出ているというが、肝心の菅首相は「日本には馴染まない」と、姿勢がはっきりしない。そればかりか「人流は減っている」などと、現実に反するようなことを言う。

人々の気を引き締めるには「危機」を強調せねばならず、「安全安心の五輪」のお題目に合わせるには「人流は減っている」「切り札のワクチン接種が進んでいる」と気の緩むようなことを言わなくてはならない。菅首相はそんなジレンマに陥っているようだ。

埼玉、千葉、神奈川県と大阪府に緊急事態宣言を出し、東京都、沖縄県の宣言を延長すると表明した7月30日の記者会見で、菅首相は、感染拡大の要因を問われ、「デルタ株の急速な広がり」と答えた。

従来株よりはるかに感染力の強いデルタ株(インド型変異株)のせいに違いはないが、それで説明が尽くせるだろうか。デルタ株が蔓延する恐れを専門家が指摘していたにもかかわらず、適切な対策を打ってこなかったからではないか。

感染者数の減少が続いているとして東京都、北海道、大阪府など9都道府県の緊急事態宣言が解除された6月20日の時点では、すでにデルタ株が国内で流行し始めていた。大手メディアも以下のような記事を載せていたのだ。

新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言は20日を期限に、9都道府県で解除される。しかし、「第4波」を招いた前回の宣言解除時と状況がよく似ており、感染の再拡大が不安視される。英国型の変異ウイルスより感染力が強いとされるインド型(デルタ型)の拡大などが懸念されるためだ。専門家には「7月下旬から8月にかけて『第5波』が来る恐れがある」との見方が多く、最大限の警戒を呼びかけている。

(6月20日読売新聞オンライン)

案の定、宣言の解除後、感染者数が再び増え始め、菅首相は仕方なく7月12日に東京の緊急事態を再宣言。その時の記者会見では「先手先手で予防的措置を講ずる」と大見得を切っていたにもかかわらず、予防どころか、7月下旬には急カーブを描いて感染者数が跳ね上がった。

これについて、首相自身の責任を問われたため、先述したように「デルタ株の急速な広がり」のせいであるという発言が出てきたわけだ。つまりこれは「予防的措置」が何ら功を奏さなかったことについての自らの責任を棚上げし、もっぱらデルタ株による不可抗力だと言いたいわけである。

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もちろん、誰しもそれで納得できるわけはない。複数の記者から再度、責任について問われると、「この波をできるだけ早く収めることが一番の私の責任だ」とごまかした。

どうして「対策が不十分だった」と認め、そのうえで、今後の具体的方針を示さないのだろうか。波を早く収めるためには、これまでのやり方がなぜ効果をもたらさなかったのかについての反省と改善が必要だろう。

以下のように激しく噛みついた記者がいる。

「甘い見通しの上で、デルタ株を見くびっていたことが、今回の感染爆発の背景にあるのではないか。根拠なき楽観主義が感染をまた引き起こしているのではないか」

菅首相の答えはこうだ。

「インドであのような状況になったときに、水際対策はきちんとやっている。オリンピックは、海外の選手と入ってくる方たちと完全にレーンを分けている。そうしたことでしっかりと対応させていただいている」

インド由来のデルタ株が日本国内に流入しないよう、空港などでの水際対策をきちんとやったというのだが、それならなぜ今の感染爆発が起きたかについての説明がつかない。水際対策の着手が遅れ、気づいた時には国内でデルタ株感染が静かに広がっていたというのが実態ではないか。

菅首相の言う「デルタ株の急速な広がり」は、想定外ではなく、専門家の間ではいわば常識的な予測に過ぎなかった。それを無視して、東京五輪の開幕を前に体裁を整えようと、緊急事態を解除し、むりやり安全安心ムードをつくろうとしたのではなかったか。そのあげく、デルタ株がジワジワ蔓延し、取り返しのつかないほどになったのだ。

最近の菅首相は「ワクチン接種が進み、人流は減少、ゆえに東京五輪は大丈夫」という論法を駆使している。しかしどのデータをもって、人流が減少したといえるのか明確ではない。むしろ昨今の報道によると、東京の中心部は混雑が目立っているようである。

この現状に、政府コロナ対策分科会の尾身会長は「最大の危機は社会で危機感が共有されてないことだ。このまま共有されなければ、感染はさらに拡大し、早晩、医療のひっ迫がさらに深刻になる」と強調する。

ワクチン接種も、高齢者こそ75%以上進んだものの、2回接種を終えた人は全体ではまだ30%ていどだ。集団免疫にはほど遠く、高齢者の重症患者が減った半面、40~50代を中心に中等症患者が急増している。

中等症といっても、侮ってはならない。海外では重症としてカウントする国もあるのだ。

中等症は二つに分類される。息切れや肺炎が見られるのが中等症1の段階。中等症2になると、肺炎が広がり、呼吸不全となって、酸素マスクが必要になる。

これほどの病状にある患者でも、重症化しないと担当医が判断すれば、入院はできない旨の御沙汰を出すというのである。できるだけ病院のベッド数を確保したい意図はわかるが、まさか医療の専門家がそんな助言をするとは思えない。中等症1でも、息切れや肺炎が見られるレベルであり、いつ容体が急変するかもわからない。

そういう患者を自宅に待機させて、人工呼吸器が必要なほどに重症化する可能性があるかどうかを、誰がどうやって判断するというのだろうか。医療上の棄民政策ではないのか。

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この政策転換と関わりがあると思われるのは、英国の状況だ。

ワクチン接種が進んだ英国では、今春にはいったん新規感染者数が激減し、コロナ対策の行動規制が緩和されはじめた。ところがその後、デルタ株が流行して感染者数が急増、7月17日には5万4,000人を超えるほどになった。

しかしそれでも、死者数は4月以降、1桁~2桁台と低い水準を保っていて、ワクチン接種の効果とみられるため、英政府は「インフルエンザのようにコロナを受け入れて対処すべき」として、ロンドンを含むイングランド全域で新型コロナウイルス対策の行動規制をほぼすべて撤廃した。

この政策の意味するところは、新型コロナで死ぬ人が少なくなったのなら、国民に不自由を強いることをせず、ウイルスとの共生をめざそうではないか、ということだろう。

菅首相が遅ればせながらワクチン接種に目をつけ、それ一本やりでコロナ対策を進める一方、ロックダウンの法整備に慎重なのは、英国の経験を参考にしているからに違いない。ただし、民間病院の多い日本は、公的医療機関が充実している英国のようにコロナ患者を受け入れるゆとりが少ない。その点を埋める方策として、ひねりだしたのが、今回の入院制限なのではないだろうか。

こんな推測を巡らすのも、菅首相からきちんとした説明がないからだ。いきなり、「方針を変えました」で済ませるのでは、不安、不信が募るだけである。

そういえば、7月30日の会見で、一人の記者が「総理のメッセージはワクチンが効果を上げていると言うばかりで乏しく、それが国民の危機感のなさに繋がっているのでは」と詰め寄ったときの、菅首相の答えはこうだった。

「ワクチン接種こそが、まさに決め手であり、総力を挙げて接種を進めていく必要がある」

ワクチン接種を進めるべきかどうかは、この記者の論点ではない。菅首相のメッセージの出し方を問題にしているのだが、その問いかけには、いっさい答えない。要するに問答無用。それが、菅流「官邸主導」の実体だ。

記者会見は、国民との対話の場でもある。目の前にいる記者だけを、限られた時間設定のなかで、いかに都合よくコントロールしようとしても、テレビで視聴している人々の耳目はごまかせない。国民に真摯に訴えるためには、切々と言葉を尽くすしかないのだ。

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image by: 首相官邸

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