年金からもしっかりと徴収される税金ですが、その額や収めすぎた税金を取り戻す方法についての正しい知識はお持ちでしょうか。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』では著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、年金にかかる税額の計算法と支払いすぎた税金の還付法をレクチャー。さらに、非課税年金のみを受給しているという方が注意すべき点についても解説しています。
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年金にかかる源泉徴収税額の計算と、確定申告(還付申告)時の税金の計算
年金アドバイザーのhirokiです。
年金というと最終的な生活保障の砦というイメージであり、老後の生活においては今もなお欠かす事の出来ない大切な資金となっています。65歳以上の高齢者世帯の総収入のうちの60%は公的年金が占め、公的年金を受給してる世帯の内の50%弱の世帯がすべての収入は年金であるという状況です。この年金が無ければ約4,000万人もの人の生活が出来なくなってしまいます。
もちろん生活保護という、生きる上での最後の砦がありますが、こちらはすべて税金で賄われているために受給するハードルが高いです。生活保護は基本的に資産になるようなものを持ってると、受給できません。それにどこかに、自分を助けてくれそうな親族がいるならまずそのような人を頼ってくださいという事になります。生活保護受給はそう簡単ではないんですね。
あと問題なのは4,000万人もいる高齢者の人に全部を税金で養おうと思ったら、莫大な税金が必要になるので、消費税のさらなる引き上げやその他の税の引き上げは不可避となると思われます。消費税はみんな平等な税率で、同じものを買えば同じ負担をする。景気にも左右されにくいので社会保障の安定財源として重要な役割を持ちます。
平等な負担ではありますが、低所得の人ほどその負担感は大きく感じます。同じ車を買う時に消費税が20万円で、所得が100万円の人が負担する20万円と、所得1,000万円の人が負担する感覚は全く違いますよね。
じゃあ所得税を引き上げるべきだという人も多いですが、所得税は所得が高い人ほど多くの税金を支払っています。最高が45%くらいだから、住民税10%と合わせると55%もの負担をしています。所得が低い人ほど所得税の負担は軽くなるので、所得が高い人と低い人との差が小さくなります。
しかしながら、所得が高いからといってひたすら税率を引き上げて徴収するというのは、なんだか本人のやる気をなくさせてしまう危険があります。そんなに所得税取るなら海外に住居移そうと考える人も増えるかもしれません^^;
ところで社会主義の考え方に、どんなに頑張って稼いでも、サボってる人と結局は給料が同じになるという事があります。みんな平等で公平な気はするけども、頑張って働く人はやる気を失くしてしまい、あんまり働かなくなる。そうすると頑張ってた人もやる気を失って働かなくなり、生産性が全体的に落ちていく。確かに、みんな公平にという考えは理想かもしれないが、人間はそんなに合理的にはできていないので、あまり平等に締め付けるのも良くない。
昭和の末期辺りは住民税と合わせると90%ほどの税金を徴収されていたという事もあったようですが、さすがにそこまで取られたら何のために働いてるのか…と思ってしまいますよね^^; よって、消費税のような水平的な税金と、垂直的な所得税の徴収バランスがあまり崩れないようにする事が大切。
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話を戻しますが、年金は老後の最も大切な生活資金がゆえに、年金からはそんなに厳しく税金は徴収されません。読者様の中には、あれ?年金からも税金が取られるの?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、課税の対象であります。お金が発生するところは税金が関連してくると思っていたほうがいいですね。
ただし、老後の大切な資金なので一定の年金を受けている場合に課税対象となります。65歳未満の人は108万円以下の人、65歳以上の人は年間158万円以下の人は税金がかかりません。なぜかというと公的年金等控除というものがあり、その控除のお陰で税金が安くなる。皆平等に使える基礎控除が48万円ありますが(合計所得が2,400万円超える人は基礎控除が引き下げられる。2,500万円超えると基礎控除は0円になる)、そこに公的年金等控除が加わると65歳未満の人は公的年金等控除が60万円なので、基礎控除48万円+公的年金等控除60万=108万円。65歳以上の人は基礎控除48万円+公的年金等控除110万円=158万円となり税金がかからない。
ちなみにこの金額の基準を超える人は必ず税金がかかるかというと、配偶者がいたり、障害をお持ちだったり、寡婦だったり…などの個別の事情がありますので、それらを加味した控除を使うとさっきの年金額以上の年金を貰っていても課税されなかったりします。なので年金に課税される所得税に関しては、そこまで心配する必要は無いです。
なお、年金に課税される人は、課税対象者かどうかを判断して、毎年9月頃に扶養親族等申告書というハガキを送ります。この扶養親族等申告書に、扶養親族の情報を書いて提出し、来年2月からの年金からの源泉徴収税額を計算します。源泉徴収されたけど、他に使える所得控除があったから納めすぎた税金を取り戻したい!という人は、確定申告をして精算する事が出来ます。
扶養親族等申告書で使える控除は障害者控除とか扶養控除あたりが主なので、その他の所得控除(雑損控除や医療費控除、地震保険料控除みたいなもの)は使えません。よって、その他の所得控除を使って税金を還付してもらいたいという人は、確定申告(厳密には還付申告)をするしかないです。
還付申告は源泉徴収された年の翌年1月1日以降5年以内であれば、いつでも行う事が出来ます。確定申告は期間がありますが、還付申告はいつでもできる。
なお、課税対象者は必ず確定申告をしなければならないというわけではありません。公的年金収入が400万円以下、かつ公的年金以外の所得が20万円以下の条件を満たすのであれば、確定申告する必要はありません。とはいえこれは所得税の話なので、住民税の申告は必要になる場合があります(市町村に確認しましょう)。確定申告した場合は、各市区町村にその所得情報が送られるので住民税の申告は不要。
あと最後に、年金は非課税年金である遺族年金や障害年金がありますよね。例えば令和3年は、この非課税年金のみをずっと受給したという人もいるでしょう。他に健康保険の傷病手当金とか、雇用保険の失業手当だけだったとか。税金がかからない収入なので確定申告はもちろん不要ですが、所得を得ませんでしたという報告を市役所に行う必要があります。
もし市役所への報告をしないと、本当に非課税対象者だったのかは市役所ではわからないので、国民健康保険料を支払う際に高額になる事があります。なので全く所得を得てない人も気を付けないと、思わぬ出費が発生する事があるので注意です。
というわけで事例に移ります。
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1.昭和33年8月3日生まれの男性(今は63歳)
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18歳年度末の翌月である昭和52年4月から平成14年8月までの305ヶ月間は厚生年金に加入する。なお、この間の平均標準報酬月額は50万円とする。
平成14年9月から平成18年3月までの43ヶ月間はドイツの支社で働く事になった。ドイツに勤務という事はその間はドイツ年金に加入するのか…というと、5年以内の勤務の場合は社会保障協定により日本の厚生年金や健康保険に加入する事になる。海外に行く時に5年を超える派遣の場合は外国の年金や医療保険に加入する事になる。
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※ 参考
社会保障協定というのは、海外に勤務したりすると日本の社会保険だけでなく外国の社会保険にも加入する必要が出てきたりする。そうすると2重で社会保険を負担しなければならなくなる。よって、他の国と社会保障協定を結ぶ事により、2重加入を排除する事を目的としている。
また、年金については日本では最低で10年以上の加入期間が必要だが、他国にもそれぞれの必要な加入期間が設けられている。例えばドイツは最低でも5年は加入する必要があるが、もし社会保障協定を結んでないと支払った年金保険料が掛け捨てになる恐れがある。日本で6年加入して、ドイツで4年加入するとそれぞれ日本は10年を満たさないし、ドイツでは5年を満たさないからどちらも年金が貰えない事になる。
なので社会保障協定を結んだ国とは期間を通算して、年金を貰う期間を満たせるようにもしている。日本の6年とドイツの4年を組み合わせれば、日本年金は10年に到達するし、ドイツでも日本6年+ドイツ4年=10年となり、ドイツの最低5年加入を満たす事になる。これならドイツ年金を4年分は掛け捨てでなく貰える。
ちなみに通算できない国もある(イギリス、韓国、中国など)。通算が無い場合でも、日本は海外在住期間はカラ期間になるから、日本の年金は貰いやすい。
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平成14年9月から63歳前月の令和3年7月までの227ヶ月間も厚生年金に加入する。なお、平成14年9月から平成15年3月までの7ヶ月間の給与平均は42万円とし、平成15年4月から令和3年7月までの220ヶ月間の給与平均は54万円とします。
さて、63歳になるとこの男性は年金受給権が発生し、翌月の令和3年8月分から年金を貰う事が出来ます。
- 令和3年7月受給権発生の老齢厚生年金(報酬比例部分)→50万円×7.125÷1,000×305ヶ月+42万円×7.125÷1,000×7ヶ月+54万円×5.481÷1,000×227ヶ月=1,086,563円+20,948円+671,861円=1,779,372円(月額148,281円)
この時に、厚年期間20年未満の同年代の妻あり。収入は年金のみで65万円とする(所得見込みは公的年金等控除60万円を引いて5万円が所得)。夫は退職時に2,000万円の退職一時金を支給される。勤続月数は539ヶ月(44年11ヶ月。1年未満切り上げて45年)。
- 20年以上勤務の人の退職所得控除→800万円+70万円×(45年-20年)=2,550万円
なので、退職所得は2,000万円-退職所得控除2,550万円=0円
退職所得は分離課税なので、もし確定申告をする際に他の所得と合わせて税金を徴収する事は無い。
ちなみに、年金貰う際に厚生年金期間が44年(528ヶ月)以上超えてるので、長期加入者特例として報酬比例部分の年金に定額部分と配偶者が居れば配偶者加給年金が支給される。そうすると、
- 定額部分→1,628円×480ヶ月=781,440円
- 加給年金→390,500円
なので、年金総額は老齢厚生年金(報酬比例部分1,779,372円+定額部分781,440円)+配偶者加給年金390,500円=2,951,312円(月額245,942円。2ヶ月分で491,885円)となる。
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さて、この男性の年金総額を見ると、年間108万円を超える年金を貰う事が出来るので所得税がかかってくる。令和4年分扶養親族等申告書を提出したとして、令和4年からかかる源泉徴収される所得税を計算する。
まず基礎控除→2ヶ月分491,885円×25%+65,000円×2ヶ月=252,971円(2ヶ月分)
基礎控除は月額最低9万円使える(2ヶ月分で18万)が、上の計算のほうが高いので252,971円を基礎控除とする。配偶者は所得見込みが95万円以下とすれば、配偶者控除月額32,500円使える(2ヶ月分で65,000円)。障害は無し。
- 課税所得→2ヶ月分での計算491,885円-(基礎控除252,971円+配偶者控除65,000円)=173,914円
よって、源泉徴収される所得税は173,914円×5.105%=8,878円
つまり、令和4年2月支払いの年金からは、491,885円-源泉徴収税額8,878円=483,007円の偶数月の振り込みとなる。
年間に納める源泉徴収税は8,878円×6回=53,268円
ところで、この男性は介護保険料を年間7万円と国民健康保険5万円を支払っていたが、これを社会保険料控除として使いたかった。65歳前の人は社会保険料は年金からの天引きではない。よって、源泉徴収税には使えなかったので、令和5年1月になったら還付申告をしようと考えていた。一体いくら還付されるのか(源泉徴収はあらかじめ税金を納めておくためのものですが、使える控除をすべて使って精算したい人は確定申告を利用する)。
まず、65歳未満の人の公的年金等控除は年金額が130万円以下の場合は一律60万円。ただし、年金額が130万円を超えて、410万円以下の人は2,951,312円×25%+275,000円=1,012,828円が公的年金等控除。基礎控除は48万円。配偶者控除は妻の所得が48万円以下の場合で、この男性(納税者本人)の合計所得金額1,000万円以下の場合に受けられる。この男性の場合は配偶者控除38万円。
- 課税所得→2,951,312円-(公的年金等控除1,012,828円+基礎控除48万円+配偶者控除38万円+社会保険料控除12万円)=958,484円
よって、958,484円×5.105%=48,930円
なので、源泉徴収されてきた53,268円-48,930円=4,338円が還付。
※ 追記
毎年1月下旬ごろに年金の源泉徴収票が送られてきます。平成31年4月以降は、確定申告の際は源泉徴収票の添付は不要となりましたが、確定申告の際は源泉徴収票の内容を書く必要があります。なので確定申告書を作成する場合は源泉徴収票を持参しましょう。
あと、扶養親族等申告書は提出を忘れた場合は、最低でも基礎控除を使って税を計算しますが、扶養控除などは使えないのでその分の源泉徴収税額が高くなります。
それでは今日はこの辺で。また来週お会いしましょう。
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