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旨い話には裏がある。旧民主党が実現できなかった月7万円「最低保障年金」の罠

今から12年前、鳩山由紀夫元首相率いる旧民主党が「全国民一本の所得比例年金と税方式による月額7万円の最低保障年金を作る」というマニフェストを掲げ、政権交代したを覚えていますでしょうか。しかし、その年金に関するマニフェストは実現に至りませんでした。それは、いったい何故なのでしょうか? 今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』は、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、旧民主党が行おうとした新しい年金が実現不可能だった理由を詳しく解説しています。

12年前の政権交代時に旧民主党がやろうとしていた最低月7万円の最低保障年金はなぜダメだったのか

もう12年ほど前になりますが、自民党から民主党に政権が交代する政権交代が起きました。なぜ政権交代が起きたかという大きな原因の一つに年金問題がありました。

第一次安倍内閣の時である平成19年2月に5,000万件を超える年金記録が漏れている事が判明しました。消えた年金記録問題と呼ばれますが、年金制度を揺るがす大問題となり、今もまだ2,000万件近くあるのでその記録解明は現在進行中です。

その後の参院選が平成19年7月に行われた時に、自民党は議席を67から37まで落とし、民主党は32から64で大勝し衆参議院でねじれが生じました。ねじれてしまったので安倍内閣から、福田内閣、麻生内閣と1年ごとに政権が投げ出されていきました。

そして、平成21年8月の衆議院選挙で自民党はなんと300議席を119議席まで落とし、民主党は115から308議席になって鳩山内閣が誕生しました。

消えた年金記録問題が判明したあとに自民党は更に信用を失くして、民主党が全国民一本の所得比例年金と税方式による月額7万円の最低保障年金を作るというマニフェストで国民に訴えていました。

なんかこう良さそうには聞こえますけどね。しかしながら現実にはオイシイ話には裏があるので、今後も何かうまい話があったら気を付けたほうがいいです。

さて、この時に旧民主党がマニフェストで掲げていた最低保障年金を作る、最低月7万円を支給するという新しい年金案はどのようなものだったのでしょうか。結果から言うとボツになりましたけど、なんで実現しなかったのかを簡単に振り返ってみましょう。

内容としては所得比例年金と最低保障年金を組み合わせたものでした。所得比例年金は老齢の年金を支給する場合は毎月の保険料15%ほどを取って、最低保障年金は全額税金で支給するという形でした。

今の厚生年金の保険料が18.3%だから15%ほどであれば今より安くなりますよね。更に最低でも月7万円を支給してくれるなんて、今より良い年金制度案だったんじゃないの?と思われたかもですね。月7万円を支給というと、今の老齢基礎年金満額が20歳から60歳までの40年間完璧に保険料を納めたら月額65,000円よりも高い年金です。

どうして旧民主党のやろうとした新年金はダメだったのか。まず最低保障年金ですが、全額税方式なので必ず所得制限がかかります。税の割合が高くなればなるほど国の介入が強くなるので、全額税金で支払うなら所得に応じて年金が引き下げられるのは当然といえます。

内容としては年収が260万円までの人は最低保障の年金7万円を支給するけども、260万円を超えてくると年金を減らしていき、年収が690万円を超えると最低保障年金はナシ。それに必要な税金は消費税10%に引き上げた上で、更に7%追加してもらわなければならないというものでした。追加の税収は25兆円。

さらに中所得者以上の国民にとっては、所得比例年金と合わせても、現在の年金制度である老齢基礎年金とか老齢厚生年金の水準よりも下回ってしまうというものでした。

次に、所得比例年金ですが、これは職業にかかわらず所得が一緒なら同じ保険料を支払ってもらって、同じ給付とするものでした。保険料は15%くらい支払ってもらおうと。所得が一緒なら保険料も給付も一緒と公平なんですが、サラリーマンと自営業の保険料徴収時に問題があります。現在はサラリーマンの厚生年金保険料は18.3%を会社と折半して支払っていますので、実際に従業員が支払う保険料は半分の9.15%になります。

ところが自営業者はそんな折半とかやっていないので、所得比例年金の保険料を支払ってもらうとするとサラリーマンや公務員よりも高い保険料を支払わなければいけなくなります。

あと、サラリーマンの場合は確実に所得が把握されますが、自営業者の所得把握はそんなに高くありません。トーゴーサンピンという言葉があるように、所得補得率がサラリーマン:自営業:農家:政治家=10:5:3:1となっていて、サラリーマン以外はなかなか所得が把握されてません。

そんな中で所得が同じであればみんな納める保険料は同じであり、将来の年金は同じという事は不可能であります。サラリーマンであろうが自営業であろうが、国民一人一人の所得が正確に把握されて、確実に保険料が徴収される事が前提であります。そういえばマイナンバーが始まって結構経ちますが、今ですらなかなかうまくいってないですよね。

そして最後にこれが一番問題だったんですが、新年金にしてもその新年金制度から受給者が出てくるのに最低40年はかかり、新年金から受給者が出ても今現在適用されていた年金制度(今の基礎年金やら厚生年金)からの給付を続けなければならないというものでした。

年金っていうのは、制度が新しくなっても新しくなるまで適用されていた人が生きている間は従来の年金制度を続けなければならない性質があるんですよ。なぜかというと今の年金を貰ってる人がいますよね。例えば今の年金200万円貰っていました。

ところが受給中に法律を変えて新しい年金制度になり、計算式も変わりましたとします。新しい計算式になると、金額が変わってきたりしますよね。計算式が変わったので場合によっては金額を下げさせてくださいと。

まあこんな事をやるのは許されないので、従来の年金で貰う約束だった人はそのまま従来の年金を終身続けて既得権とか期待権を保護する事をします。既得権を保護するために、年金には従前の保障とかいろいろあるんですよ^^;だからどうしても複雑になる。

昭和61年4月に現在の新年金制度である基礎年金制度になりましたが、昭和61年3月までの従来の年金制度から支給されてた人は今も支給されています。およそまだ100万人以上の方が受給されています。

このように旧民主党案は実現可能性が全く無くて、中所得者以上の人は現在の年金制度より金額が低くなるし、消費税は更に2倍近く取る必要があるし何かこう問題が多すぎて国会に法案を提出する事が出来なかったわけです。今の年金制度より更に条件悪くなるのに、提出できるわけがなかったですね…

なので最低でも月7万円!というのは、聞いた感じは良さそうだったけど全然実現可能性はなかったものでありました。でも多くの人はそれに期待して政権交代に繋がっていったわけですが…。

ちなみに年金を税方式で支給したり、積立金で支給する事は大きな問題があるので、そこは9月22日の有料メルマガで配信します。

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image by: Tupungato / Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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