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町田市小6女児いじめ自殺を調査する探偵が明かした、市教委の非情な「居留守」「出禁」「無回答」

13日に文部科学省にて開かれた会見によって明るみになった、東京・町田市の小6女児が国の「GIGAスクール構想」によって配られたタブレット端末の「チャット機能」によるいじめで、2020年11月30日に自殺していた問題。マスコミ各社で大きく取り上げられた今回のいじめ自殺問題は、パスワード管理の杜撰さや「GIGAスクール構想」の賛否ばかりが話題となっていますが、実際には町田市教育委員会による「根本的な問題」があったようです。メルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、今回のいじめ被害者のご遺族からの支援要請に応じる形で調査を続けてきた過程を紹介するとともに、市教育委員会による非情な対応の数々から「いじめ自殺の根本原因」を告発しています。

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町田市小6いじめ自死問題について

町田市内の小学校に通う当時小学6年生の少女が、2020年11月30日にいじめが原因で自死した。

本件においては、2021年9月13日文部科学省でご遺族と代理人弁護士が会見を行い、広く世間に周知された。

その実、 私は2021年に入ってから、ご遺族の要請を受けて支援していた。その関係で、この記者会見ではご遺族であるお父さんの真横に座っていた。

そういった関係性であり、極めて当事者に近いことから、公開されている事実については各メディアの報道に任せ、ここでは、ご遺族が何を求めているかを正確に記し、根本的な問題を提示したい。

どんないじめであったのか?

現在発覚しているいじめは、学習用のタブレット端末のチャット機能を使って「うざい」「きもい」「死んでほしい」など罵詈雑言を浴びせていた他、「ドッキリ」と称して「縁を切る。」と突然、被害児童に言った後、「ドッキリでした。」とやるなどを繰り返した。当然、被害者はこうしたことを繰り返し行われることによって精神的な不安を常に抱える状態になった。

また、ご遺族側の調査によって「○○(被害者の名前)のころしかた」というメモが見つかっている。ここには様々な「ころしかた」がイラスト入りで記載されており、その中から、どの「ころしかた」がしたいのかも書かれていたという。

詳しくは、各メディアを通じて明らかになっているので、参考にしてもらうのがいいだろう。

当初の報道など

特に本件で注目されたのは、「GIGAスクール構想」という国の方針による「1人1台」の端末が、いじめに使われたことであった。

また、いじめが発生していた学校は、端末などが先行導入されており、文科省を含め多くの専門家が注目をしていた学校であり、当時の校長も様々な誌面に出ており、ICT教育を実践する実務者として有名であった。

しかし、その実態は、パスワードが全員「12345789」で、IDも簡単に推測できるようになっているなど、あまりに杜撰なものであった。

こうした管理は一般には到底理解できないレベルである。

萩生田文科大臣が全国の教育委員会などに管理の徹底を指示したということだが、さすがに他の学校ではここまで杜撰な管理をしているところはほぼ皆無であったことから、迷惑だと感じたり、あの先進校がこんなのだったのかと驚いたことだろう。

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ご遺族が記者会見で示した3つのこと

もちろん、9月13日の記者会見では「1人1台」端末のことに言及している。

それはそうだ。そもそも小学生の子を持つ親の中には、「ネットの世界などはまだ早い」という観点や、専用の端末を持たせてしまうと家庭の管理の上で制御が難しくなるなどの考えから、「端末を持たせない」という方針の家庭もあれば、専用端末ではなく親が使っていた古い端末を家庭内のwifi環境でのみ使わせているという家庭もある。

一方、学校の授業中にそのチャット機能を小窓で開いていじめが行われたら、保護者の管理が行き届くわけもないのである。

では、ご遺族は何を要望したのか、正確に記したい。

  1. いじめ防止対策推進法、「いじめの防止等のための基本的な方針」及び「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」に適正に則った対応と、それを担保するための設置要項を策定すること。
  2. 常設の調査委員会ではなく、本件に関する新設の第三者委員会の設置による徹底した調査を実施すること。
  3. 端末を使用する学校におけるいじめ防止対策を再点検し、徹底すること。

3つのことをまとめて簡単に言えば、国の法律とそれに基づいて作られたガイドラインを守り、正しく対応してください、ということだ。

このシンプルなことができていなかったから、結果、ご遺族は文科省にまで出向かざるを得なくなったのである。

懇切丁寧に対応したというが、面会はわずか1回

9月13日の文科省記者クラブでの記者会見から、本件は大変なニュースになった。翌日は萩生田文科大臣への質問が相次ぎコメントも出たし、文科省が町田市教委を呼び、そこに東京都教育庁の担当者も同席して、ご遺族に寄り添うようにという指導があったとニュースにもなっていた(地方の方は、町田市を神奈川県だと思っている人もいるようなので、町田市は東京都であることを確認しておく)。

一方9月17日、町田市では、文教社会常任委員会が開かれ、当然に、この問題は1つの議題として町田市教委が報告を行うことになった。

町田市はこうした委員会をネット中継しているので、私も同日、この委員会の様子を見たが、 担当の指導室長が口癖のように「遺族の意向に従った」「繰り返し丁寧に説明している」と発言していた。

私は立場上、この様子はあまりに良く知っているので詳細な言及は控えるが、まず、教育委員会の担当者はご遺族の家を訪問したことはない。この委員会で主に議員らに回答していた指導室長という人は1度も会ったことがない。これは教育センター長も同じである。

教育委員会の窓口の課長らとご遺族が会ったのは、 いま現在まで1度きりであり、それも、ご遺族の代理人弁護士が再三に渡って面会を申し出てやっと実現したことであった。

私は変わり者だとよく言われるが、そんな私でも、たった1回部下が会っただけ、自分は一度も会ってないという対応で、「丁寧な説明」などというだろうか。「繰り返し」というが、そこまで強調するほどのやり取りもないだろう。

私はかなり多くのご遺族の支援をしてきたが、正直、 ここまで無対応、無回答の教育委員会は見たことがない。

1つエピソードを記すが、町田市教委の担当窓口の面々とご遺族(両親)代理人弁護士、私で面会し終わった際のことだ。ご遺族が、亡くなった娘さんがお世話になったことがある先生を見掛けた。そこで、「生前お世話になった方なので、ぜひとも挨拶がしたい」と願い出た。

確かに椅子に座ってデスクに向かって仕事をしているのは私からも確認できた。

しかし、その回答は、

「いま席を外しています」

であったのだ。

目の前にいるのに、「居ない」と、平然と居留守をつかわれたわけだ。

当然その場で抗議となるわけだが、ご遺族が生前お世話になった先生だから挨拶をしたいというだけで、この対応だったのである。

きっと町田市教育委員会では、こういう対応が「懇切丁寧な対応」なのだろう。

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根本的な問題

ご遺族の主張はシンプルなのだ。

「法の理念に則った新設の第三者委員会をちゃんとやってください」

これに尽きるのだ。

どうしても本件はいじめの道具に学校配布の端末が使われてたことで、GIGAスクール構想推進派と反対派が空中戦を繰り広げるところが目立つが、親として「何があったか知りたい」というのは当然の思いなのだ。

もちろん独自の調査はしているし、ほぼ確実だろうという状況証拠もあるが、公として認められたり、より深いものに関しては、第三者委員会の力が必要になってくる。

町田市にはいじめ条例があり、そこには「常設の調査委員会」についても条例に定められている。

これはいじめ防止対策推進法第14条3項を根拠としており、「教育委員会の附属機関としての委員会」設置を指す。

もちろん、この附属委員会は、生命の危機などに関する重大事態のいじめに対して調査をすることができるとされている。

だから、多くの教育現場では、この委員会を第三者委員会として運用するのだが、ガイドラインを無視して運用していることがあり、遺族や被害者と大きく溝ができるケースが相次いでいるのだ。

町田市の場合、上に書いた通り、 *注対策委員会(調査委員会)について事前の話し合いなどは持たれたことがまったくない。

注:町田市長は9月22日の記者会見で現附属委員会を対策委員会、市長が設置する委員会を調査委員会であることに相当なこだわりがあったようだが、14条委員会と30条委員会という認識の区別で十分であり、これは各自治体の呼び方に過ぎないとして、現在の第三者委員会については、「調査委員会」と言います。また、どちらの委員会設置についても、ご遺族や被害者については人選から合意を得ていく必要があります。

本来は、調査委員会についての説明はしなければならない、とされている。これは、いじめ防止対策推進法を守っていくために作られた「いじめ重大事態の調査に関するガイドライン」の先頭、第1「学校の設置者及び学校の基本姿勢」に図入りで説明されている。

それによれば、

「調査を開始する前に、被害者・保護者に対して丁寧に説明を行うことで、被害者等の意向を踏まえた調査が行われることを担保」

とあり、説明事項として、

  1. 調査の目的、目標
  2. 調査主体(組織の構成、人選)
  3. 調査時期・期間(スケジュール、定期報告)
  4. 調査事項、調査対象
  5. 調査方法
  6. 調査結果の提供

とある。

つまり、どのような委員会でどのような委員が選任されており、その一人一人の専門性を含め、中立公平な調査ができるということをきちんと説明しなければならないというわけだ。

ところが、 こうした説明は何もなく、調査委員会の第1回開催前日に、ただ委員の名前と職業が書かれたFAXが1枚届いたに過ぎないのである。

こうした 任期のある常設の委員会 において、最も恐ろしいのは、いじめはどの地域でも無数に起きていて、重大事態とされる事案は複数起きているから、 固定された委員であると、被害者や加害者、放置した教職員などの委員の間に、もともと利害関係があったり、関係性が認められるケースもあるということだ。

事実として、 本件では、ご遺族側の調べで、委員に当事者との関係性が疑われる人物が認められ、代理人弁護士から委員から外すように要請がされているのだ。

こうした町田市側の失態は、そもそもガイドライン通りに委員の人選の説明からしっかりと、「丁寧な説明」をしていれば防げた話である。

いじめ防止対策推進法についての答弁でも、第三者委員会に中立公平の視点は「ご遺族・被害者側から見て」であることは明らかにされているから、説明をしないで勝手に進めしまうことは、あってはならないことなのだ。

さらに、こうした委員会で重要なのは、独立性だ。

そもそも法律で教育委員会(学校の設置者)の附属機関が認められているから、一般から見れば身も蓋もないところはあるが、 法と権利の番人である弁護士も多く関わることから、独立性が保たれる委員会も多くある。

ただし、その場合は、 ほぼ必ず独立性を確保するための「設置要綱」が存在している。

簡単に言えば、第三者委員会の決まりごとがあるということだ。

委員会の設置となれば委員の報酬などもあろうから、必ず予算がなければならない。実際、この報酬も小僧の小遣いレベルで、仕事量も責任も各委員の心を簡単に砕くほど重いという根本問題がある。 また、どこでやるのかという場所の問題もあるだろう。

結局そうしたところは、設置権限が認められた学校や、学校の設置者である教育委員会や、私立であれば学校法人などが持つということになる。

一般的にこの段階で報酬はそうしたところから支払われるわけだから、一定の利害関係はあるともみえるが、設置要綱などで独立性を担保することで、中立公平性を保つわけだ。

しかし、 本件でわかったことは、

このような設置要綱は町田市にはない

ということだ。

つまり、 中立公平性の柱がないのだ。

町田市教育委員会のこれまでの主張から、信頼すべき根拠を見出そうとしても、無い無い状態であった。それこそ、 独立性のある行政機関は公の存在であるから信じろ、こうした背景のみが彼らの行動規範になっているとしか言えないということは残念である。

町田市の市長が「新設の第三者委員会を設ける」というが

2021年9月22日、町田市の石阪丈一市長は記者会見を開き、「新設の第三者委員会を設置する」と明言した。しかし、第一報の報道では、これまでの町田市教育委員会の説明と変わりはない。

報道によれば、「弁護士や学識経験者などで構成する調査委員会を立ち上げ、遺族の意向に配慮しながら対応する」と言っている。一見、良い対応をしたと思えるかもしれないが、 全く違うのだ。

そもそも 第三者委員会を新設するということは、その委員会の人選からしっかりご遺族と話し合いをもっていかなければならないのだ。そして、ご遺族側はとってもわかりやすい文面で、何度もこれを求めているのである。

石阪市長の発言は、はじめからやり直しに見せ掛けただけで、出来上がったところからの調整に過ぎないのである。よもや、町田市教委からしか教えてもらっていないのか、きっとそんな馬鹿なことはないと思いたいし、「今回はちょっと説明が足りなかった」と言うことを期待したい。

ちなみに、この件について、私は町田市教育委員会にFAXで質問した。

予想はしていたが、「お答えできない」そうだ。

そして、もう1つ。

2020年9月にいじめが発覚、11月30日に被害者が自死してから、2021年9月22日現在まで、教育委員会担当者は1回しか面会をしていない。本当の責任者であろう指導課の室長は一度も会ったこともない(ここで面談と書かないのは、まともな意見交換をする対応ではなかったから)。 そして、9月13日の記者会見から、町田市教育委員会側がご遺族側に連絡したことは一度もないのである。ちなみに、ご遺族側からは、しっかり通知などはしている。

こうしたことからして、本当に町田市も市教育委員会も何をもって「配慮する」という言葉になるのか理解できない。

1つ町田市教育委員会にアドバイスするとすれば、本件はICT教育に関わる問題であり、パスワードなどの管理の杜撰さがすでに指摘されている。そうした面から、調査の専門性を保つのであれば、デジタル・フォレンジック(デジタルデバイスに記録された情報の回収と分析調査を行うこと)などの専門家がいなければ、適正だと普通は言えない。

それから、何か「組織的な病気」でも患っているだろうか、普通の担当者は代理人弁護士に1本でも電話くらいはするものだ。なぜなら、それが仕事だからだ。意向を踏まえるならば、きちんと話を聞かなければ始まりようもない。

最後に

萩生田文科大臣は文科省に指示し、文部科学省初等中等教育局児童生徒課が、各教育委員会などの担当課に2021年9月21日、いじめ防止対策推進法等に基づくいじめに関する対応についてと題して通達を行っている。

この 通達 には 「ガイドラインに沿って対応に当たることが求められます」と明記してあり、そのガイドラインがイラスト付きで記載されている。

そしてここにも、私が本メルマガで書いたような、ご遺族や被害者に寄り添った対応についても、イラスト付きできちんと載っている。

多くのいじめ第三者委員会にまつわる問題は、教育委員会などがご遺族や被害者に寄り添った、人として当然の対応を全くしていないことや、隠ぺいと言っても過言はない行為をしているからである。

国に関しては「こども庁」の論議もあるとは思うが、たびたび根本問題になる「いじめ防止対策推進法の改正」にもぜひとも着手してもらいたいものだ。

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編集後記

いじめの“常設”第三者委員会についての問題を理解するには「3つの要素」があります。

1つ目は、教育委員会の附属委員会であるということです。これを第三者委員会と呼ぶことになりますが、多くの事例では教育委員会の対応すらも調査対象となることがあります。こうなると結局、第三者性というのは皆無になってしまうということ。

2つ目は、独立性が重要だからこそ、明文化された「設置要綱」が必要なのに、この用意がないことが多いということ。

3つ目は、常設だといじめの当事者などの利害関係者が委員になっていたという可能性が高くなることです。

また、地域で起きる重大事態はだいたいこの上部委員会にあたる「いじめ問題連絡協議会」などが諮問機関となることが多いといえますが、調査委員会メンバーはだいたい連絡協議会と同じメンバーになっていることがあります。結局、本当に人の命が失われるような地域教育としても大変な事態に、同一メンバーでは時間も手の数も足りないというのは火を見るより明らかなのです。

私はご遺族と一緒に動いている関係で、確かにまだ世間には出ていない情報をたくさん持っていますが、これを私が出すのはルール違反だというポリシーから、 今後も全ては報道各社にお任せしようと考えています。

ただ、 私はすでにほぼ名指し状態で、町田市教育委員会から「出禁」を喰らっています。 ちょっと笑えるほどびっくりなんですが……。

今後も、ご遺族が真相にたどり着けるように、しっかりと無償で頑張りたいと思います。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
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