最近の“国際情勢”の多くが、このようなUN外での直接的な対立構造をもっていることもあり、果たして安全保障理事会は本来の働き・役割を果たすことができるのか、大きな疑問を抱くところです。
そして、興味深いことに、習近平国家主席の演説でも、バイデン大統領の演説と同じように、「気候変動やコロナ対策など、グローバルイシューに対しては、国際社会が一致団結して対応すべきで、中国政府はその役割を果たす所存だ」と述べたことでしょう。両方の演説を聞き、いろいろな機会に議論をして感じたのは、両者のスピーチのアピール合戦は、互角か、習近平国家主席の僅差での勝利だったような気がします。
ところで、今回の米中両首脳の演説内容を見て、どのようなメッセージが得られるでしょうか?個々のイシューに対する評価はさておき、全体として「国連の影響力の弱化もしくは無力化」という印象に加え、「ただの首脳・同盟国間のミーティングの一つという位置づけに格下げ」という印象を私は抱きました。
国連時代には、紛争調停官という特殊な仕事をする傍ら、事務総長報告の執筆作業というイベントが、国連年次総会前には控えており、国際情勢の趨勢に対して国連が果たす役割について張り切っていた身としては、少し残念かつ寂しくなる現状に思えます。
しかし、現在のグティエレス事務総長のリーダーシップの下、国連も一定のプレゼンスは発揮できているような気がします。例えば、9月10日に発表されたCommon Agenda for Peaceでは、今後、私たちが直面する様々なグローバルな問題に対して、どのような姿勢で臨むべきかという方向性が示されていましたし、国連創設以来、憲章にも掲げられているように、核兵器の廃絶に向けた決意が明確に述べられていたことは、非常に強いメッセージに感じました。
そして、気候変動サミットの主催もリーダーシップの現れであると感じます。「COP26(10月末からグラスゴーで開催)は非常に重要な岐路に立っており、気候変動という世界共通の、人類にとっての問題に対して、各国がいかに協力して取り組む決意を示すかが試されている」と述べたうえで、「しかし、現状は非常に厳しく、このままでは私たちはこの問題に打ち勝つことはできない」と各国にさらなるコミットメントの深堀と確実な実施を訴えかけました。
それでもコロナに苦しめられた世界各国にとって、現時点での深堀は非常に厳しいのですが、ここでも決意と方向性を示すことが出来たのは、リーダーシップの現れと評価してよいでしょう。
もちろん、ほかの事務総長レポート同様、中身は一般的な書きぶりになり、それぞれの問題に対する深堀はできませんが、国連事務総長が国際的なモラルリーダーとして果たすべき役割は果たせているのではないかとも思います。今後、Common Agenda for Peaceの中で挙げられた問題と解決への方向性を、いかに政策・対策として具体化できるかが、国際社会と国連に課せられた宿題でしょう。
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