そして『エチオピアのTigray紛争問題』については、国連安保理マターとなり、事務総長も名指しで懸念を表明する事態が続いていますが、ここでも米中ブロックの立場の対立に加え、エチオピアの周辺国とのいざこざ(ルネッサンスダム問題やスーダンへのちょっかいなどを含む)が絡み、とても解決が難しくなっています。
その被害者はもちろん国民であり、特に今回紛争の舞台になっているTigray州の住民です。エリトリア軍も加わった組織的な虐殺、収奪、性的暴行、成人男子に対する殺戮などは、大きな人道的な危機を招いています。そこにAbiy政権側の非協力的な態度も重なり、人道支援が必要とされる人たちに届いていないという惨状を認識しつつも、何一つ効果的な対策が打てない理由の一つが、エチオピアに利権を有する米中欧各国の意図でしょうか。
人権侵害に対する激しい非難をしつつも、各国間の主導権争いゆえに、Tigrayの人々の惨状が放置されています。エチオピア政府サイドに時間稼ぎを許し、それに反対するTPLFとOLAによる反攻が激化し、被害は拡大する一方です。恐らく国連の無力感が示されるとても残念なケースの筆頭かもしれません。
第2次世界大戦の悲劇に鑑みて、二度と戦争が起きないようにと願って創設された国際連合(UN)ですが、実際には創設直後から米ソ冷戦の影響に苛まれ、安全保障理事会常任理事国が有する拒否権によってその役割を阻まれてきた気がします。
そして、冷戦が終わったら、今度は国内紛争や地域紛争が一気に勃発しました。旧ユーゴスラビア内戦、コソボ紛争などもそうですし、民族浄化が進められたルワンダ内戦でも、国連は有効な対抗策を持ち合わさず、大きなジレンマに陥りました。私の国連紛争調停官のキャリアはそのような時期に始まり、多くのケースで翻弄され、国際政治について多くを身をもって学んだ気がします。
そして今、中国の著しい台頭により、両首脳は“新しい冷戦は望まない”と発言してはいますが、実際には、国連の場でも両国間の対立は激しさを増し、国連が本来果たすべきだと考えられる役割が制限されているケースが多くなってきているような気がします。
そのような世界情勢の中で、国連無用論を唱えるのは簡単ですが、グティエレス事務総長のCommon Agenda for Peaceに含められた内容のように、私にはまだUNが果たしうる役割があるような気がしています。
元国連内部にいた人としての希望を抱きつつ、皆さんにお尋ねします。皆さんの眼から見て、国連がこれから果たすべき、果たすことが出来る役割とはどのようなものがありますか?
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