いま戦ったら負ける。中国が米国との軍事衝突を避ける「4つの理由」

 

アメリカ政府としては、すぐにTPPへの復帰をすれば発言権を得ることになりますが、国内事情からそれが叶わない今、中国が最も嫌がる代替案は“台湾に加盟申請をさせること”と考えたような気がします。

しかし、個人的には、台湾の加盟については、日本やカナダ、オーストラリアとニュージーランドは一定の評価はしつつも、強引にはサポートしていないように見えます。

直接的にTPP内で強引に台湾の加盟を後押しする米国が不在であるのが一番大きな理由ですが、同時に中国の狙い・真意を測りかねているという要素もあるのだと考えます。

その“中国の真意”ですが、「アメリカの直接的な圧力を回避して、中国がTPPの加盟国間での分断を図るのか?」。それとも「中国加盟というネタを掲げて、TPP内での“真の”親中派をあぶりだそうとしているのか?」。いろいろと想像できてしまいます。

狙いが読めないので、中国の数人の情報筋に真意を確かめてみたところ、「TPPの意義は認めるが、実際には加盟できるとは考えづらい」とのことで、「狙いは、あくまでも中国自らのSphere of Interest(覇権)における存在感をアピールすること」で、「TPP当該地域における経済的な覇権国であり、中国のご機嫌を損ねたら大変なことになりますよ」というメッセージを加盟国に送りたいのではないかとのこと。特に米中の狭間で揺れ動く各国への“踏み絵”的な意味合いもあるのではないかと推測します。

そして、それは対中包囲網に穴をあけるという狙いもあるでしょう。

これは米中の直接的な軍事対決というハードな安全保障面での緊張の激化を避けるために、ソフトな経済安全保障面での戦端を開いて、圧力(ガス)を抜く狙いがあるのではないかとも思えます。

それはなぜか?

最近、特にアメリカに対して真っ向から対立する姿勢を際立たせている中国ですが、実際には、中国には今、アメリカと全面対立する余裕はないのも事実です。

それは【習近平国家主席の3期目の可否をかけた国内の政治(up to 2022)】という大きなチャレンジを抱えており、アメリカとこれ以上緊張関係を激化させて、国内における反対派を勢いづかせたくないとの意図もあるでしょう。トランプ大統領から仕掛けられた米中対立に、正面から対抗した習近平国家主席のリーダーシップを称賛する勢力と並行して、アメリカとは対立を深めるべきではないと懸念する勢力が拮抗しており、必ずしもアメリカ対応については、100%の支持を受ける一枚岩の状況にないことがあります。

二つ目は、現在、中国を襲っている深刻な電力不足という国内問題によって、事態を長引かせてしまっている習近平政権への批判が抑えられなくなっていることもあるでしょう。

三つめは、習近平国家主席が全権を掌握したと伝えられていた中国の軍部が、アメリカとの直接的な対峙に消極的で、しばらくはアメリカと直接交戦をした場合、勝つ見込みはほとんどないと、非常に及び腰になっており、これ以上の強硬姿勢を支持しない旨、伝えているようです。

そして、コロナ禍でさらに広がった国内の経済的な格差と、現在、世界経済にまで悪影響をおよぼしている中国恒大の問題も、習近平国家主席の支持基盤を脅かす材料になりかねないとみられ、現時点で、アメリカと真っ向勝負をする余裕がないというのも事実のようです。

ゆえに、公式には認めないものの、米中間の軍同士の直接対話チャンネルの再開を容認したり、「石炭火力発電所を海外に建設しない」というように、予てよりバイデン政権から求められていた要件を受け入れたりするなど、柔軟な姿勢を見せつつ、国内の嵐が過ぎ去るのをじっと待っているようにも見えます。

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