オリンピック3大会連続出場、世界陸上では日本人初の銅メダル獲得という快挙を成し遂げた元陸上選手・為末大さん。コーチをつけず、一人で競技生活を続けてきたその強い精神力はどこからきているのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、為末さんが語った哲学を紹介しています。
弱点の後ろには長所が潜んでいる──為末大が掴んだ哲学
陸上競技の400メートルハードルでオリンピック3大会連続出場を果たし、世界陸上では短距離種目で日本人初の銅メダルを獲得した為末大さん。
その競技人生から得た哲学を『致知』最新号の11月号「二十代をどう生きるか」にてお話しくださっています。内容の一部をご紹介します。
───────────────────
私はコーチをつけずに競技生活を続けてきたため、自分がいまやっている練習が正しいのか否か、誰も保証してくれる人はいませんでした。常にそれを自分自身で検証しながら挑戦を継続していくことは容易ではありませんでした。
自分の身一つで行う陸上競技は、敗因もすべて自分に行き着きます。誰にも頼れない立場で挑戦したことで、私はその自覚を一層強く育むことができたように思います。
自分と徹底的に向き合っていくと、いくら潰しても消えない欠点に突き当たります。そしてある時ハッと、そういう自分をこのまま生かしていくしか道はないんだと、心が転換する瞬間が訪れるのです。
私は100メートル走に取り組んでいた頃、タイムを少しでも縮めるため、歩幅を狭くして足を速く動かす練習を繰り返しましたが、なかなか思うように成果が出ませんでした。ところがハードルに転向すると、歩幅が広い私は逆に有利になったのです。
弱点の後ろには長所が潜んでいるものです。しかし、こうでなければならないという先入観が強過ぎると、その長所になかなか気づけません。二十代は、自分の短所に悩むことも多い時期だと思いますが、その後ろにある大切な長所に気づくためにも、自分の思い込みに気づき、それがどこから来ているかを確認することが重要です。
以前、若い選手から、自分はとても神経質で、試合前には不安で仕方なくなるという悩みを打ち明けられたことがありました。私が、「それは神経質ではなく、用意周到ということじゃないの?」と疑問を投げかけると、気持ちがスッと楽になったようでした。その選手は、アスリートは剛胆でなければならないという思い込みに囚われていました。そうした自分の決めつけから解放されることで、新しい可能性が開けてくることもあるのです。
image by: Shutterstock.com