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軍事アナリストが憂慮。「有事」を煽る朝日エース記者の勉強不足

先日掲載の「マスコミは「台湾有事」の空騒ぎを止めよ。軍事アナリストが警告する最悪シナリオ」などで、中国の軍事的な動きを取り上げ危機を煽るメディアに対し、しっかりとした検証の上で分析する必要性を訴える軍事アナリストの小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』でも、兵力の多寡だけで論じ「ミリタリー・バランス」の要諦を理解していない朝日新聞のエース記者の解説が余りにつたないと苦言を呈し、自身の影響力を自覚し研鑽を積むことを求めています。

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エース記者は影響力を自覚せよ

10月14日朝のテレビ朝日の情報番組『モーニングショー』で、かなりの時間を割いて中国についての特集を流していました。よく整理されていて、自分の専門でない分野については勉強になったところもあり、有難いと思いました。しかし、安全保障についてはひどかった。思わず次のようにツイートしてしまいました。

「今朝のTV朝日の情報番組。中台の軍事バランスから中国の台湾侵攻や封鎖の可能性を語る新聞記者。軍事バランスを語るのなら数的な比較ではなく、彼我の関係を意志と能力から語らなければならない。そのうえで日本の防衛力整備と日米同盟の強化に言及しなければ、物知りだがAIには程遠い旧式PCのようだ」

とにかく、いまにも中国が台湾などに牙をむきそうな話になっていて、その根拠として防衛白書に出てくるような数字が示されているのです。その中国軍が台湾周辺を封鎖すると日本への物流ルートが遮断され、深刻な影響が出るような話も出ていました。

軍事バランスというと、どちらの国の兵力が多いか少ないかだけで考える傾向がありますが、英国国際戦略研究所の年次報告書『ミリタリー・バランス』を見てわかるように、各国の兵力の中身、保有する兵器、国防予算、経済力までが網羅されています。さらに、その国の同盟関係、友好関係を視野に入れて初めて、軍事バランスを語ることができるのです。

その新聞記者の解説を聞いていて、今年3月にデービッドソン米インド太平洋軍司令官が上院軍事委員会で行い、日本国内に台湾有事と中国への警戒感をまき散らした「脅威は今後10年間で、実際には6年で明白になる」という発言に影響され、同調するものだと感じました。

しかし、そのデービッドソン海軍大将の発言は6月17日に米軍トップのミリー統合参謀本部議長が上院歳出委員会で行った次の言葉によって否定されています。

「中国が台湾全体を掌握する軍事作戦を遂行するだけの本当の能力を持つまでには、まだ道のりは長い」

「(中国による台湾の武力統一が)近い将来、起きる可能性は低い」

「中国には現時点で(武力統一するという)意図や動機もほとんどないし、理由もない」

ミリー統合参謀本部議長の発言は、これまでにもお話ししてきたような軍事のリアリズムに基づくもので、デービッドソン海軍大将の発言は海軍に予算を誘導するためのものだと指摘されているものです。

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整理しておくなら、中国は2049年の建国100周年に米国に追いつき、追い越すという国家目標の実現に向けて、途中で転んだりつまずいたりする訳にはいきませんから、いわば安全運転中の状態なのです。居丈高な戦狼外交を前面に打ち出しているのは、その裏返しの面があるのです。

そして、軍事力がハイテク化するほどに重要性を増していくデータ中継衛星などの軍事インフラの整備が遅れており、いくら空母、ステルス戦闘機、対艦ミサイル、極超音速滑空兵器などを出してきても、使えない状態にあります。中国共産党の内部文書が「近代戦を戦えない」と繰り返し述べているそのままの状態にあるのです。

台湾有事にしても、台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力に欠け、台湾に上陸侵攻して占領するために必要な陸上戦力約100万人を輸送する船舶もなく、一度に1万人規模の部隊を投入できるだけにすぎません。

テレビ朝日で解説していた新聞記者は、以上のようなリアリズムに基づく軍事問題の見方や海上輸送に必要な計算式の存在など知らないことは明らかでした。

経歴をみると中国人民大学に留学し、ハーバード大学中国研究所の客員研究員を経て中国総局とアメリカ総局に勤務し、2011年には中国の安全保障政策や情報政策に関する報道によってボーン・上田記念国際記者賞を受賞しています。朝日新聞のエース記者の一人です。安全保障だけでなく中国全体について豊富な知識を備えているし、ルックスはいい。喋りもうまい。このままいくとニュースキャスターの有力候補とみなされていることも明らかです。影響力は小さくありません。

だからこそ、知っていることを立て板に水で羅列するのではなく、もう一歩踏み込んだ勉強をしてジャーナリストとしての使命を果たしてもらいたいと思うのです。(小川和久)

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image by:TK Kurikawa / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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