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首相が官邸にいる必要はない。危機管理のプロが説く「真の緊急対応」

災害や近隣国の軍事行動など、緊急に対応が必要な事案が発生したときに、官邸に首相や官房長官がいないと野党の政治家やメディアは蜂の巣をつついたように騒ぐことがしばしばあります。しかし、例えばテロが発生したときなど「官邸に戻るのが最悪の場合もある」と説くのは、軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、国のトップがいつでもどこでも緊急事態に対応するために必要な機能や準備がどんなものかを具体的に解説。そうした準備ができていないことこそが問題と、岸田首相に課題として突きつけています。

軍事の最新情報から危機管理問題までを鋭く斬り込む、軍事アナリスト・小川和久さん主宰のメルマガ『NEWSを疑え!』の詳細はコチラから

 

官邸に戻るのが最悪の場合もある

北朝鮮のミサイル発射が続いたり、次々と自然災害も起きたりするなか、首相官邸の危機管理に関心が集まっています。

「熊本県の阿蘇山が噴火した20日、岸田文雄首相(自民党総裁)は予定通りに兵庫、広島両県内で衆院選の演説を行い、首相官邸では松野博一官房長官が対応した。19日の北朝鮮のミサイル発射時は、首相、松野氏の『不在』を野党が批判したこともあり、危機管理に神経をとがらせている。松野氏は今後、衆院選の応援に入る際は首都圏を中心にする方針だ。(後略)」(10月20日付朝日新聞)

実を言えば、危機管理を国際水準で眺めるとき、緊急事態が発生した場合でも首相は必ずしも首相官邸に戻る必要はありません。例えば2001年9月11日の同時多発テロの時、当時のブッシュ大統領は米国南部を視察中でしたが、同日夜まで所在が不明となりました。大統領専用機エアフォースワンで空軍基地を転々とし、そこから大統領として指揮をとっていたのです。

このときホワイトハウスに戻ったりすれば、テロリストの標的になったかも知れませんから、これは当然の措置です。これは日本の場合でも同じです。日本が大規模テロや武力攻撃に見舞われたとき、首相は官邸から可及的速やかに安全な場所に移動する必要があります。首相が地方に出ているときも同様です。首相が緊急事態に指揮をとる場所の準備も必要です。野党やマスコミはそうした点を忘れています。

ここで必要なことは、首相官邸にいるのと同じような指揮通信の機能が首相に随伴していることです。例えば、秘書官が提げているアタッシェケース大の装置を開けば、4~6面のパネルが展開し、盗聴防止装置つきの通信装置によって世界各国の首脳の何人かと同時に意思疎通でき、それぞれのパネルには必要な情報が表示されるようになっている、といったイメージです。

また、首相が官邸に戻ったり、安全地帯に移動したりするに当たり、自衛隊のヘリとビジネスジェットは同行しなければなりません。首相が福島県内を視察中は福島空港にビジネスジェットが待機し、車で数分の河川敷などにはヘリが場所を変えながらついていきます。このような形であれば、何か起きたときにも首相は車で数分の場所に居るヘリで福島空港に飛び、そこから羽田空港にビジネスジェットで急行し、羽田から首相官邸屋上ヘリポートまでは再びヘリで移動する。福島県内なら、1時間以内に首相官邸に戻ることができるでしょう。

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新幹線を使うのと大差ないじゃないかなどと言うなかれ。ヘリやビジネスジェットの機内では指揮通信装置を開き、外国首脳との協議など必要な作業をしながら戻ってくるのです。それに新幹線は好きな時間に乗車することができないことを忘れないでください。

残念ながら、日本の首相にはそのような指揮通信機能は備わっていません。しかし、これは入札などせずに防衛省と一部の防衛産業などに試作させれば、デザインはともかく、それなりの機能のものが短期間に入手できるはずです。ヘリは陸海空自衛隊のものを、ビジネスジェットは航空自衛隊のU-4多用途支援機(ガルフストリームIV)が、使おうと思えば可能な状態にあります。

あとは緊急避難用の場所の確保ですが、これもなんとかできないと、日本は国家ではないと言われそうです。岸田首相が実現してみせるようだと、それなりの長期政権も夢ではないかも。(小川和久)

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image by: slyellow / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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