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中国が覇権を奪い日本が置き去りにされるEVバッテリー戦争の深刻度

ガソリン車全廃の流れを受け、各国企業が開発にしのぎを削る電気自動車。その心臓部であるバッテリーの技術革新を巡っても、日米中韓のメーカー間で覇権戦争が勃発しています。今回のメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』では著者の大澤先生が、その熾烈な争いを特集した香港サウスチャイナモーニングポスト紙の記事を翻訳し紹介。日進月歩のバッテリー開発の現状を詳しく解説しています。

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世界のEV電気自動車のバッテリーの覇権戦争

中国、日本、米国、韓国でEV電気自動車バッテリーの覇権戦争が起きています。

香港サウスチャイナモーニングポストが3回にわたって特集していましたので、その一部をご紹介しましょう。

【中国の電気自動車用電池メーカーは、高価な金属に頼らない新技術の開発を競っている】

 

1月、中国の新興EVメーカーNIO(上海蔚来汽車)は、世界最長の航続距離を誇るセダンを発売する計画を発表し1回の充電で1,000kmの走行を可能にすると述べました。

 

この 画期的なバッテリーのメーカーは、福建省に本社を置くCATL社であるようです。

 

NIOの社長は、テスラ、BMW、メルセデス、アウディなどの従来のプレミアムブランドに挑戦することを目指していることを伝えました。

 

「電池産業が急成長しているおかげで、電池のコストは下がっている。同じコストでガソリンエンジンメーカーよりも優れた車を生み出すことができると確信しています」。

 

電気自動車用バッテリーのコストは、2023年には1kWhあたり100米ドル、2030年には73米ドルまで低下するという。

 

1kWhあたり100米ドルという価格は、補助金を受けていない電気自動車が、石油を大量に消費する自動車とコスト競争力を持つための閾値と考えられています。

 

現在、CATLは約30%の市場シェアを誇り、LG Energy Solutionの25%を抑えて世界最大のEV用バッテリーメーカーとなっています。

 

CATL、LG Energy Solution、BYD、パナソニック、サムスンSDI、SK Innovationのトップ6の電気自動車用バッテリーメーカーは世界の87%を供給しているといいます。

 

現在、電気自動車に使用されているのはリチウムイオン電池です。

 

リチウムイオン電池の主な種類は、NCM(リチウム-ニッケル-コバルト-マンガン)、NCA(ニッケル-コバルト-アルミニウム)、LFP(リチウム-鉄-リン酸)の3つ。

 

長い航続距離を実現したい場合、コバルトを使うNCMまたはNCA電池が有利です。しかしコバルトは燃性が高く安全性が問題。その一方で燃えにくく安価なLFP電池は、航続距離が短くなります。

 

またコバルトは68%の供給をコンゴ民主共和国が占める偏在の問題があります。

 

パナソニックも日本国内でコバルトを使ったNCM技術のリチウムイオン電池「18650」を生産しており、一部のテスラにも搭載されています。

 

中国本土では、LFP電池が広くEV組立メーカーに採用されています。LFP電池は10%以上安いという利点があります。

 

テスラの最高経営責任者であるイーロン・マスクは、7月下旬に、より安価なLFP電池への長期的な移行を進めていることを明らかにしました。

 

国際エネルギー機関(IEA)によると、2030年には世界中で1億4,500万台のEVが走行すると予想されており、2020年の1,000万台から飛躍的に増加すると見込まれています。

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【解説】

以上、現在の電気自動車のバッテリーとして使われているリチウム電池にも大きく3種類あり、資源と安全性の関係から脱コバルトの方向に向かっていることがわかります。

もちろん、日本のパナソニックも脱コバルトのリチウムイオン電池の開発を進めています。

しかしながら中国はさらにその先に行こうとしています。

CATLは、リチウムイオン電池に代わる新しいナトリウムイオン電池を開発しています。

 

CATLの創業者兼会長は、この新技術により、試作品の電池パックは1kgあたり160Whのエネルギー貯蔵容量を実現し、次世代製品の密度は1kgあたり200Whを超えると予想しています。

 

7月下旬に行われた説明会で、会長は「当社には5,000人以上の研究スタッフがいて、新技術の開発に専念しています」と述べました。

 

その試作品の航続距離は、すでにLFP電池(コバルトを使わないリチウムイオン電池)に匹敵するものとなっています。

 

CATLは中国政府の支援も受けることになりそうです。

 

工業情報化省は8月下旬、二酸化炭素の排出量を2060年までに排出量をゼロにするという国家目標の達成に向けた全体的な取り組みの一環として、商業化を促進するための政策支援を行うと発表しました。

【解説】

現在、日本が技術的な優位をもつリチウムイオン電池に代わるものとしてナトリウムイオン電池を中国が国家をあげて開発するとの記事でした。

リチウムイオン電池に必要なリチウムおよびコバルト資源の偏在性・希少性と電気自動車市場の急拡大にともなう需要増加を考えれば、ナトリウムイオン電池の開発は確かな方向性なのでしょう。

大和証券キャピタル・マーケッツの公益事業・再生可能エネルギー調査部は、「ナトリウムイオン電池の商業的な大規模導入は、今後2~3年以内には非常に見込みにくい」と述べています。

しかし10年後はわかりません。

そんな中、米国からはテスラ自身がバッテリーの開発も行うとの発表がありました。

バッテリーを供給しているパナソニックや韓国企業はもちろん、本記事の中国CATLも大きなショックを受けたでしょう。

日本経済をささえてきた自動車メーカーおよびその基幹要素技術の将来。

安心してみていられるものではありません。

(メルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』 10月31日号より一部抜粋)

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image by: Shutterstock.com

大澤 裕この著者の記事一覧

・株式会社ピンポイント・マーケティング・ジャパン 代表取締役社長  ・情報経営イノーベーション専門職大学 客員教授 ・法政大学大学院イノーベーションマネジメント研究科 兼任講師 慶應義塾大学を卒業後、米国バンカーストラスト銀行にて日本企業の海外進出支援業務に従事。カーネギー・メロン大学でMBAを取得後、家業の建築資材会社の販売網を構築するべくアメリカに子会社を設立。2000年、ピンポイント・マーケティング・ジャパンを設立。海外のエージェントとディストリビューターを使った販路網構築・動機づけの専門家として活動を行っている。2015年「中小企業が『海外で製品を売りたい』と思ったら最初に読む本」を、2017年「海外出張/カタログ・ウェブサイト/展示会で 売れる英語」をダイヤモンド社から上梓。

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