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あり得ない。中国による「台湾の軍事的制圧」などほぼ不可能なワケ

「台湾有事」を懸念し危機を煽るような報道に加え、元自衛隊将官OBまでもがその危険性を訴えるに至り、「軍事アナリストが仰天。前統合幕僚長「台湾有事」言及の認識不足」で、「近い将来『有事』が起きる可能性は低い」との米軍トップのミリー陸軍大将の発言を尊重すべきとした軍事アナリストの小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、中国軍が台湾を武力制圧しようとする際の上陸作戦をより具体的に検証。海で囲まれた台湾を制圧するには「上陸適地」の問題で、どれほど困難を極める作戦となるかを伝えます。その上で、「有事」を懸念するよりは台湾内部からの崩壊を狙うハイブリッド戦にこそ注意を向けるべきと訴えています。

※本記事は有料メルマガ『NEWSを疑え!』2021年11月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:小川和久(おがわ・かずひさ)
1945年12月、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。著書は『フテンマ戦記』『アメリカ式 銃撃テロ対策ハンドブック』『日米同盟のリアリズム』『戦争が大嫌いな人のための正しく学ぶ安保法制』『危機管理の死角 狙われる企業、安全な企業』『日本人が知らない集団的自衛権』『中国の戦争力』『日本の「戦争力」』『日本は「国境」を守れるか』『危機と戦うテロ・災害・戦争にどう立ち向かうか』ほか多数。

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上陸適地を忘れた台湾有事論

台湾有事について、中国側には上陸部隊を輸送する船舶が決定的に足りないことを繰り返し指摘してきましたが、自衛隊の将官OBでも忘れているか、まったく知識のない人が少なくないようです。

渡洋上陸作戦が成り立つかどうかは、必要な規模の上陸部隊を戦車などの装備品、燃料、弾薬、食料とともに輸送できるかどうかで判断することになりますが、その海上輸送の計算式は陸上自衛隊の指揮幕僚課程CGSでは必ず教育されたものです。ちなみに、私よりひとまわり若い方面総監OBに尋ねたところ、1989年当時にCGSで習ったとのことです。

船の問題もそうなのですが、同じように忘れられているのが上陸適地の問題です。かりに必要なだけの船腹量を備えていたとしても、その輸送船団に乗った陸上部隊をきちんと上陸させることができなければ台湾の武力統一など夢のまた夢です。

台湾の場合、中国の陸上部隊は台湾側の砲兵の射程圏外、沿岸から70キロほどの海域で輸送船団から上陸用舟艇やホバークラフトに移乗して海岸を目指すことになります。この段階では、対艦戦闘能力を突出させた台湾の海軍、空軍の攻撃によって中国の陸上部隊は既に相当な損害を受けていることは想像に難くありません。

当然ながら、海岸に近づくほどに台湾側の攻撃にさらされます。上空からの攻撃も、中国の戦闘機部隊が航空優勢(制空権)を握らない限り、避けられません。

中国側は来援する米軍の攻撃にも耐えなければなりません。台湾を国家として承認しているかどうかといった政治的な要素に関係なく、台湾を自国の国益として位置づけている米国が来援を躊躇うことはないのです。その点は中国も理解しています。

これは渡洋上陸作戦では想定内の状況ですから、中国側もその損耗を前提に陸上部隊の規模を決めることになります。台湾への渡洋上陸作戦に100万人規模の陸上兵力が必要とされる根拠はそこにあります。

そこで上陸適地です。台湾側の反撃や米軍の攻撃に堪えて上陸しようとするとき、中国軍を待っているのは容易に上陸できない海岸線ばかりだとしたら、この段階で狙い撃ちの標的にされてしまうのです。

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人員が3000人ほどの機械化歩兵の部隊を上陸させるには、岩礁などの障害物のない幅2キロの海岸線が必要とされます。そのような海岸線は、台湾本島の1139キロの海岸線の約10パーセント120キロほどと限られています。ざっと計算すると3000人規模の部隊を60カ所から上陸させられますが、それだけで18万人。果たして、そこを突破口にして後続部隊を送り込み、台湾本土を制圧することができるでしょうか。

台湾側は上陸適地に強固な陣地を構え、陣地に対する背後からの破壊工作などに対しても部隊を急行させて排除できるという有利な条件を備えています。

このようなことを考えると、米国のミリー統合参謀本部議長が指摘したように、中期的に見ても中国が本格的な上陸侵攻を考えているとは想像しにくいのです。むろん、それでも中国は上陸侵攻が可能な能力の整備を着々と進めるでしょうから、台湾、米国、そして日本の連携のもとに強固な防衛体制を構築し、中国に武力行使が可能だと思わせないことがなによりも肝心なのは言うまでもありません。

中国は、中国寄りの世論を台湾国内に醸成し、内乱などの混乱に乗じて傀儡政権を樹立するなど、いわゆるハイブリッド戦に力を注ぎ、熟した柿が落ちるような形で台湾を手に入れようとしているというのは、台湾政府の認識でもあります。日本も気を緩める訳にはいきません。(小川和久)

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◎テクノ・アイ(Techno Eye)
 ・F-35Bの地中海墜落で英米が回収を急ぐ理由
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎編集後記
 ・台湾有事、米報告書の読み方(小川和久)

◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
 ◇◆明治7年、日本は台湾に出兵した
 ◆日本資本主義の父・渋沢栄一
 ◆きっかけは漂流民大量殺害事件
 ◆台湾出兵で明治の日本が得たもの
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
 ・インドは「2070年CO2排出実質ゼロ」を達成する
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
 ・意味不明な松野官房長官の核先制不使用への反対論(西恭之)
◎編集後記
 ・頑張れ、宇宙作戦隊!

◎テクノ・アイ(Techno Eye)
 ・進む米国の極超音速滑空兵器対策
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎編集後記
 ・上陸適地を忘れた台湾有事論(小川和久)

◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
 ◇◆千葉県警に女性本部長誕生!日本警察のいま
 ◆能力も人柄も素晴らしい田中俊恵警視監
 ◆犯罪の国際化に対応できているか
 ◆テロ・サイバーに大きな課題
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
 ・移民・難民を使うベラルーシのハイブリッド戦
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
 ・台湾侵攻に100万人が必要な理由(西恭之)
◎編集後記
 ・海洋国家の自覚なしに海洋権益は守れない

◎テクノ・アイ(Techno Eye)
 ・米国防総省は中国が核燃料サイクルを軍事転用すると想定
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎編集後記
 ・政治家の発言でわかる防衛省・自衛隊のレベル(小川和久)

◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
 ◇◆アフガン退避失敗!!海外安全問題を考える
 ◆〝決心〟できなかった日本政府
 ◆またも飛ばなかった政府のビジネスジェット
 ◆中国はリビアで4万人以上を逃がした
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
 ・説得力に欠ける米政府のコロナ起源報告書
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
 ・米空母は中国との差を維持できるか(西恭之)
◎編集後記
 ・台湾有事への米海軍の見積もりは疑問

◎テクノ・アイ(Techno Eye)
 ・米空軍AWACS後継機はE-7か?
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◎編集後記
 ・セッティング・ナショナル・プライオリティーズ(小川和久)

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2021年10月配信分
  • 『NEWSを疑え!』第1000号(2021年10月28日号)(10/28)

◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
 ◇◆国会にも欲しい米議会のスタッフ機能
 ◆個人スタッフは下院十数人・上院30人以上
 ◆〝回転ドア〟が生み出すダイナミズム
 ◆GAOに代表される強力な補助機関
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
 ・トランプが米情報機関との戦いに敗れた
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
 ・スウェーデンの要衝で米軍が共同訓練(西恭之)
◎編集後記
 ・危険だからアフガンから退避するのに…

  • 『NEWSを疑え!』第999号(2021年10月25日特別号)(10/25)

◎テクノ・アイ(Techno Eye)
 ・米陸軍が無人戦闘車と部隊対抗訓練
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎編集後記
 ・官邸に戻るのが最悪の場合もある(小川和久)

  • 『NEWSを疑え!』第998号(2021年10月21日号)(10/21)

◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
 ◇◆台湾有事のリアリティ
 ◆中国には上陸作戦能力が決定的に不足
 ◆致命的な軍事インフラの立ち後れ
 ◆中国が仕掛けるハイブリッド戦
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
 ・食料・農業がランサムウェアに狙われている
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
 ・パウエル・ドクトリンの光と陰(西恭之)
◎編集後記
 ・極超音速滑空体は軍縮交渉のテーマになる?

  • 『NEWSを疑え!』第997号(2021年10月18日特別号)(10/18)

◎テクノ・アイ(Techno Eye)
 ・南側の死角から米国を攻撃する中国の新ミサイル
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎編集後記
 ・エース記者は影響力を自覚せよ(小川和久)

  • 『NEWSを疑え!』第996号(2021年10月14日号)(10/14)

◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
 ◇◆知っていますか、アレクサンドロス大王
 ◆アフガニスタン侵攻は前330年
 ◆10年の遠征で巨大帝国を建設
 ◆ペルシアの公道が東征を可能に
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
 ・提出された「台湾侵攻防止法案」は不要?
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
 ・米司令官による中国空軍力の過大見積もり(西恭之)
◎編集後記
 ・金門・馬祖への砲撃の教訓

  • 『NEWSを疑え!』第995号(2021年10月11日特別号)(10/11)

◎テクノ・アイ(Techno Eye)
 ・虎の子のシーウルフ級原潜が南シナ海で水中衝突
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎編集後記
 ・「台湾有事」で空騒ぎするなかれ(小川和久)

  • 『NEWSを疑え!』第994号(2021年10月7日号)(10/7)

◎ストラテジック・アイ(Strategic Eye)
 ◇◆日本の離島防衛とフォークランドの教訓
 ◆それは民間人の上陸から始まった
 ◆垂直離着陸機ハリアーの活躍
 ◆尖閣諸島ではF-35Bを投入
◎セキュリティ・アイ(Security Eye)
 ・この冬、世界の石油・ガス供給が逼迫する
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎ミリタリー・アイ(Military Eye)
 ・豪州の原潜調達は英国製が有力(西恭之)
◎編集後記
 ・暴力の連鎖を断つということ

  • 『NEWSを疑え!』第993号(2021年10月4日特別号)(10/4)

◎テクノ・アイ(Techno Eye)
 ・ハバナ症候群で意図的にミスリードした米メディア
 (静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授・西恭之)
◎編集後記
 ・プレゼンに出る「戦えない自衛隊」 (小川和久)

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image by:ChenHao_Kuo / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

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