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露呈した“極右”の正体。安倍元首相と維新が煽る「ゴリ押し改憲」の横暴

10月に行われた衆院選で大躍進を遂げ、にわかに発言力を増した日本維新の会。事実、松井代表や吉村副代表は選挙直後から憲法改正を悲願とする安倍元首相の援護射撃に余念がなく、自民党内にもそんな「煽り」に呼応するかのような動きも見られています。このような流れについて異を唱えるのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんは自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で今回、憲法改正が招きかねない事態を改めて挙げるとともに、宮沢元首相のかつての発言を引き、「憲法改正の不必要性」を再確認。その上で、維新に後押しされる安倍元首相に忖度し改憲の方向に引きずられる岸田首相の無定見ぶりを批判的に記しています。

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安倍元首相とつるんで維新が煽る憲法改正発議

岸田首相はいつから改憲派になったのだろうか。「党是である憲法改正に向け、精力的に取り組んでいきます」。衆院選投開票の翌日、11月1日、自民党本部における記者会見でそう語った。

むろん、憲法改正は党の政策に掲げられている。総裁として、言及するのは何ら不思議ではない。だが、どこまで本気なのかは、この時点でははっきりしなかった。

その翌日、すかさず声を上げたのは、大幅議席増に意気あがる日本維新の会の代表、松井一郎・大阪市長だった。

「立憲と共産のボイコットで審査会の議論が進んでいないわけでしょ。ボイコットする人を待ってても議論は進まない。きちっと採決のスケジュールを決める。岸田さんが本気ならそれをやると思うけどね。僕は、来年の参院選までに改正案を固めて同時に国民投票を実施すべきだと思います」

憲法改正を発議するには、改憲原案を提出し、衆参両院の本会議で、それぞれ全議員の3分の2以上の賛成を得なければならない。

その改憲原案を審議するのが憲法審査会で、慣例により全会一致が原則になっている。この国の最高法規の改正を審議するのである。厳しいのは当然なのだが、松井氏は何をそう急ぐのか、立憲や共産など放っておいて、さっさと採決までのスケジュールを決めるよう、けしかけたのだ。

副代表の吉村洋文大阪府知事も9日、追い打ちをかけた。

「党是で改憲、改憲と言っているが『やるやる詐欺』だろう」。

この間、国民民主党にも動きがあった。玉木雄一郎代表は7日、吉村知事とテレビ番組で対談し、改憲促進で意気投合。9日には両党の幹事長が会い、衆参両院の憲法審査会を毎週開催するよう求める方針で一致した。

提案型野党に衣装替えした国民と維新の議席を合わせれば50を超え、予算をともなう法案も共同提出できるため、両党は急速に距離を縮めている。

維新と国民に煽られたためか、岸田首相は自民党「憲法改正推進本部」の看板を同19日、「憲法改正実現本部」に付け替えて意気込みを示した。

世論調査では、改憲賛成が増える傾向にある。来夏に参議院選挙をひかえ、憲法改正を主導しているように見せるアピール合戦を各党が繰り広げているかのようだ。

今回の衆院選で、改憲勢力の伸張が明瞭になった。獲得議席は自民262、維新41、国民11で、計314。この3党だけで、改憲発議に必要な3分の2を上まわる。改憲に慎重ながら与党に違いない公明党の32議席を加えると、楽勝の数字だ。参議院でも、これら4党を合わせると3分の2をこえている。

祖父、岸信介氏の遺志を継ぎ、憲法改正を悲願としてきた安倍晋三元首相にとって、安倍応援団でもある維新が予想外に躍進した今回の選挙結果は、またとないサプライズプレゼントといっていい。維新と呼応しあって、岸田首相にプレッシャーをかけることができるのだ。

安倍氏は11日、自民党最大派閥「清和会」の会長に就任し、「改憲議論の先頭に立とう」と呼びかけたが、こうした動きもその一つだろう。

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安倍氏の政治活動を支え続けている「日本会議」など“生長の家原理主義”と呼ばれる人々も、このチャンスに色めき立っている。

安倍首相のもとの改憲には反対と唱えていた野党をかわすには、ハト派イメージの強い岸田首相の手で進めるほうが好都合かもしれないのだ。

改憲案を発議し、国民投票に持ち込むことができれば、自民党のペースだ。資金力にモノを言わせて、国民を洗脳するCMを垂れ流し続けるに違いない。

自民党は改正の条文イメージとして、自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を提示している。もし自衛隊が憲法に明記されたら、自衛隊に強い権限が与えられ、憲法に記されていない防衛省などの統制が効かなくなるおそれがある。

緊急事態条項は、戦争や大災害などが起こり、政府が平常の統治では対応できないと判断した場合、憲法を一時停止し、総理大臣に権力を集中させたり、人権を制限するなどの非常措置をとることができる権限を定めるものだ。明治憲法では、天皇の「緊急勅令」、「非常大権」のほか、行政権・司法権を軍部に移行する「戒厳」などの緊急事態条項が盛り込まれていた。それらが濫用されたことにより、国家が破滅への道に転げ落ちたのだ。

それにしても、不思議で仕方がない。岸田氏の派閥「宏池会」はハト派の伝統があり、岸田氏自身も憲法改正に積極的なイメージはなかった。宏池会前会長、古賀誠氏も「改憲実現に前のめりになるのは、本来の宏池会の理念から大きく外れている」と釘を刺している。

そもそも憲法改正が自民党の「党是」というのも、あやしい。結党時の「政綱」には「平和主義、民主主義、基本的人権尊重の原則を堅持しつつ、現行憲法の自主的改正をはかり」とある。しかし、最上位文書である「綱領」に「憲法改正」の文字はない。

昭和39年3月5日の参議院予算委員会で、憲法改正は立党の精神なのかと問われた池田勇人首相は「わが党の憲法に対する態度は、本年の大会で確認したとおり、憲法調査会の報告を待ち国民とともに考えていくということです」と答えるにとどまり、立党の精神とは認めなかった。

歴代首相は「憲法改正」を封印し、平和、自由、民主の観点から現行憲法を賛美する傾向が強かった。

たとえば、田中角栄首相の所信表明演説(1972年10月28日)。

「わが国は、平和憲法のもとに、一貫して平和国家としてのあり方を堅持し、国際社会との協調融和のなかで、発展の道を求めてまいりました」

タカ派の中曽根康弘首相でさえ施政方針演説(83年1月24日)でこう述べた。

「わが国の戦後の発展は、何よりも新憲法のもたらした民主主義と自由主義によって、日本国民の自由闊達な進取の個性が開放され、経済社会のあらゆる面に発揮されたことによるものであります」

国会の議事録を見る限り、憲法改正が自民党の「党是」と明言した総理大臣は小泉純一郎氏が最初であり、その小泉氏とて改憲に熱心だったとはいえない。

つまるところ、「党是」だから実行すると主張した総理大臣は安倍晋三氏が唯一の人である。

安倍氏はさきの自民党総裁選において、決選投票で岸田支持に回ったが、その条件として憲法改正の推進を突きつけていたのではないだろうか。岸田首相としても、宏池会のリベラル路線を嫌う党内保守派をなだめすかして政権を安定させるためには、改憲ポーズをとるに限ると思っているかもしれない。

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もちろん、自衛隊明記など9条の改変がそうたやすくできるとは思えない。だいいち、連立与党の公明党は「戦後、憲法9条のもとで専守防衛が果たした役割はたいへんに大きい」「多くの国民は現在の自衛隊の活動を理解し支持しており、違憲の存在とはみていない」と、きわめて常識的な見解を示している。

維新、国民の動きに公明が警戒感を強める一方で、自民が維新を頼りにしているのは明らかだ。茂木幹事長は今月9日夜、維新の馬場幹事長と会い、「国民投票法を何としても一度は国民の手に委ねたい」と“改憲共闘”を申し入れている。

自民党幹部の間からは「維新、国民を巻き込めば、与党だけで議論を進めていると批判されずに済む。今が改憲のチャンスだ」「維新、国民と話をまとめれば公明は改憲の議論に乗らざるを得ない」(読売新聞オンライン)との声が漏れているとか。

安倍元首相が去年の9月に退陣した後、憲法改正の旗を振ってきたのが維新である。維新は、賛意を得やすい憲法裁判所の設置を目玉としているが、憲法9条についても「正面から改正議論を行う」とし、自衛隊明記に前向きな姿勢だ。

維新は改革政党だと自称しているが、森友問題にもつながった愛国心教育で安倍元首相と共感し合う松井代表ら、極端に保守的な思想信条の持ち主が多い。明治憲法に郷愁を抱き、進駐軍に押しつけられたと言い募って平和憲法の姿を変えようとしている極右勢力と何ら変わるところがないのだ。

かつて、読売新聞グループの総帥、渡邊恒雄氏が、宮沢喜一元首相に憲法改正について聞いたとき、宮沢元首相はこう語ったという。「いまの憲法で何一つ不自由がないのに、なぜ変える必要があるんですか」。実際、その通りだと思う。

宮沢元首相は岸田首相にとって宏池会の大先輩であり、遠縁にあたる。もし存命であれば、安倍元首相に忖度して右方向に引っ張られている無定見な首相の姿に眉を顰めていることだろう。

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image by: Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

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