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「ここ、おかしい!」のネガティブ・フィードバックが必要な理由

何か問題が発生したときに原因を探ってみると、ほんの些細なミスを見過ごし、引き継いだ者がミスに気づいても黙殺していくうちに大変なことになっていたというのはよくあること。夏目漱石門下の一人、寺田寅彦が「遅れるバスはますます遅れる」と表現したこのような事象は、「ポジティブ・フィードバック」と呼ばれるのだとか。メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんは、コロナで傷ついた2年間のうちに、致し方なくおかしな状態が続く今、「ここ、おかしいです!」と言える勇気、“胆力”が必要になると訴えています。

寅彦のバスのこと

失敗には必ず原因がある。当たり前のことである。しかしながら、その原因が分かった上で猶、無視されることも少なくない。見なかったことにするのだ。

例えば、ある事業において、第一次従事者がある失敗に気付く。それを報告・訂正すれば時間的にも経済的にもそれなりのコストがかかってしまう。そこで、これくらいのことは誰しもがやっていることだから看過レベルとしてそのままに放擲しておく。

第二次従事者はその事実を知らされていないから、後日自ら気付くころには訂正コストは結構なものとなり、加えて「自分たちは渡されたものを言われた通りにやっただけ」という言い訳も一応は成り立つから、やはりそのまま放擲する。

第三次従事者くらいになると「あれ、これおかしいな」くらいには気付くレベルとなっていても、今さら事を荒立ててもどうにもならぬこと、とやはり放擲する。

この式で進んで行くと、最終従事者あるいは消費者の手に届く頃にはにっちもさっちも行かぬくらいの大事になってしまい、巷間を騒がすような事態となる。損失も問題発覚の第一段階当初とは比べものにならぬくらい莫大になる。新聞、テレビに拠るまでもなく本当によくあることである。

こういった次の段階へと引き継がれるたびに第一段階のミスが少しずつひどくなってしまう行程の在り様をポジティブ・フィードバックと言う。悪いことなのだからネガティブだろう、と言いたくなるかもしれないがここはポジティブでいい。第一段階のミスが打ち消されず(=否定されず)に、さらに助長される(=肯定される)ような体での引き継ぎなのでポジティブ・フィードバックなのである。

知る限りにおいて、このポジティブ・フィードバックについて最も早くそして上手に説明し得たのは寺田寅彦ではないかと思う。寺田寅彦。夏目漱石の門下生にして物理学者。バラエティに富んだ漱石山房の中でも、一際異彩を放つこの理学博士は、この現象を「遅れるバスはますます遅れる」という言辞を以て表現した。

こういうことである。何かの事情でバスが遅れる。バスがいつもより遅れると次のバス停ではいつも以上の乗客がたまるから、乗り込みにはいつも以上の時間がかかる。元々遅れていたバスが乗車に時間がかかったためにますます遅れ、次のバス停にはさらにいつも以上の乗客がたまる。これを繰り返し繰り返しして「遅れるバスがますます遅れる」ことになってしまうのである。

発注者、元請け、下請け、孫請け、といった具合に現代社会においては引き継ぎ無しのワンストップというのはなかなかに難しい。だからこそネガティブ・フィードバックが大切なのである。僅か1度のズレでも1m先と100m先では2点間の開きの距離が全然違う。誤差は小さいうち、そして何より、自分に近いうちに解決するべきなのだ。

ネガティブ・フィードバックとは即ち、自らが問題の起始点となる勇気を持つということである。その起始点たる自分の責任において「ここ、おかしいです!」と主張する胆力を持つということなのである。

各方面が2年というコロナ禍に傷つけられた今だからこそ、このネガティブ・フィードバックという考え方が必要なのではないだろうか。これは引き継ぎというものが存在するあらゆるところにおいて言えることである。今後どれだけの「ここ、おかしいです!」を聞くことができるか、一国民として注意していきたいものである。

image by: Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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