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米国が破った約束。プーチンがウクライナ国境に軍を展開する意図

12月7日にオンライン形式で行われた米ロ首脳会談でもバイデン大統領が強い警告を口にするなど、緊張が高まっているウクライナ情勢。国際社会から批判を浴びつつも、同国との国境付近に軍を展開するプーチン大統領の意図はどこにあるのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、ソビエト崩壊から現在に至るまでのロシアと欧米諸国の関係性を分析しつつ、プーチン大統領が「大軍をもって脅迫している相手」について考察しています。

ウクライナ国境にロシア軍が集結、プーチンの動機は?

ウクライナとの国境付近に、ロシア軍が集結しています。「AFP=時事」12月4日。

米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)は3日、米情報機関の報告書の内容として、ロシアが来年早々にも最大17万5,000人を動員したウクライナ侵攻を計画していると報じた。

 

同紙によると、ロシア軍は4か所に集結しており、50の戦術部隊が配備されたほか、新たに戦車なども運び込まれた。

 

また匿名の米当局者の話として、ロシア側の計画は「推定17万5,000人の兵士から成る100の大隊の広域行動が含まれる」ものだと報じた。

これ、日欧米の報道だけ見ていると、「プーチンの動機」がわかりません。「プーチンは、クレイジーだから」「おそロシヤ」で終わってしまう。しかし、プーチン側にも彼なりのロジックは存在しているのです。何でしょうか?

プーチンにいわせると、現在の欧米とロシアの対立の根源は、

「アメリカが約束を破り、NATOを東方に拡大していること」

どういうことでしょうか?

プーチンから見た「アメリカの裏切り」

冷戦時代欧州は、アメリカの支配下にある西欧と、ソ連の支配下にある東欧に分断されていました。西欧と東欧の分岐点は、ドイツ「ベルリンの壁」です。当時、ドイツは「西ドイツ」と「東ドイツ」に分断されていたのです。

1980年代後半になると、ゴルバチョフはアメリカとの和解に動きます。1989年、ベルリンの壁崩壊から、東欧民主化革命が起こりました。しかし、ゴルバチョフは、この動きを静観します。さらに1990年になると、「東西ドイツを再統一したい」という動きが加速化していきました。アメリカは、東ドイツの実質的支配国だったソ連の指導者ゴルバチョフに許可を求めます。ゴルバチョフは、一つだけ条件をつけました。それは、

「NATOを統一ドイツより東に拡大しないこと」

アメリカは、約束しました。そして、東西ドイツ統一は、ソ連の抵抗なく進められたのです。

しかし、アメリカは約束を破りました。1999年、東欧に位置し、かつてソ連の実質支配下にあったポーランド、チェコ、ハンガリーがNATOに加盟。2004年には、スロバキア、ルーマニア、ブルガリア、スロベニアが加盟。ちなみに、この時は、すでにプーチンがロシア大統領です。

そして、2004年には、プーチンを大激怒させる出来事が怒っています。それは、バルト三国、つまりリトアニア、エストニア、ラトビアがNATOに加盟したこと。

東欧は、「実質ソ連の支配下」にあったといっても、名目上は他の国々です。しかし、バルト三国は、「ソ連構成共和国」だった。つまり、プーチンから見ると、「自国の一部が、反ロシア軍事同盟に入ってしまった!」ということなのです。

「アメリカが、東西ドイツ統一時の約束を破り、NATOを東方に拡大しつづけていることに、プーチンは激怒している」

プーチンからいわせると、これが、欧米とロシア関係がよくならない根源的理由なのです。これ、どうなのでしょう?

私は、全然親プーチンではないですが、彼の主張は理解できます。

NATO加盟国は、30か国。そして、NATOは、「対ソ連軍事同盟」だった。ソ連崩壊後は、「対ロシア軍事同盟」になっている。少しロシア大統領の立場に立ってみてください。「30か国の対ロシア軍事同盟」が存在している。そして、その世界最大最強の軍事同盟は、「さらに拡大しようとしている」のです。

これ、日本だったらどんな状況でしょう。中国が、韓国、北朝鮮、全東南アジア諸国と共に「反日本軍事同盟」をつくったと想像してみてください。どれほどの脅威でしょうか?

その後の欧米とロシア

その後の欧米とロシアの関係を見てみましょう。

プーチンは、ロシアの西隣の旧ソ連国ウクライナがNATOに加盟することを、「レッドラインだ」と呼んでいます。いえ、NATOに加盟しなくても、「ウクライナにNATOの軍事インフラが設置されること」も「レッドラインだ」と主張しています。その理由は、「そうなれば、5分でロシアを攻撃できるようになる」と。理解はできます。

では欧米とロシアの間に何が起こっているのでしょうか?

2014年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシア派ヤヌコビッチ政権が崩壊しました。2014年3月、プーチンは、ウクライナからクリミアを奪いました。2014年4月、ウクライナ東部でロシア系住民が多いルガンスク、ドネツク州が独立を宣言。親欧米ウクライナ新政府は、もちろん独立を容認せず、内戦が勃発します。これは、新政府を支援する欧米と、東部親ロシア派を支援するロシアの代理戦争です。

この内戦は2015年2月の「ミンスク合意2」で一応停戦しました。しかし、ルガンスク、ドネツク州は、ロシアの支援によって「事実上の独立」を保ったままです。

2014年、親欧米のポロシェンコが大統領になりました。2019年、お笑い芸人のゼレンスキーが大統領になります。彼は当初、「ロシアとの対話」を主張していました。しかし、私たち日本人はよく理解できますが、「プーチンとの対話は疲れる」のです。というのも、条件を提示してくるだけで、自分が妥協することは決してないからです。ゼレンスキーは、「プーチンとの対話は無理」と理解し、最近は、EU、NATOに接近しています。

ロシアの隣国ウクライナがNATOに入る。これは、ロシアにとって「レッドライン」で「悪夢」です。だから、大軍を集結させて、脅迫している。

そして脅迫しているのは、ウクライナではありません。脅迫すればするほど、ウクライナはNATOに走る。しかし、欧州の国々はどうでしょうか?ウクライナがNATOに入れば、欧州は関係ないウクライナを守るためにロシアと戦争になるかもしれない。だから、ロシア軍が集結すると欧州の国々は、「ウクライナをNATOに入れるのは、リスクが大きすぎる」となる。

アメリカはどうでしょうか?バイデン政権は、中国との戦いに集中するためにアフガン撤退を急ぎました。そう、中国と戦うバイデンは、プーチンと戦う時間も金も惜しいのです。だから、バイデンには、プーチンと和解したい動機があります。

プーチンの条件は、「ウクライナをNATOに加盟させない」こと、「ウクライナにNATOの軍事インフラを置かないこと」などでしょう。そして「中国問題で忙しいバイデンは、妥協するかもしれない」というのが、プーチンの読みなのです。

(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2021年12月7日号より一部抜粋)

image by: Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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