【裏事情】イスラム国すらピンハネする原油ビジネス

 

「イスラム国」をピンハネする悪い奴ら

『NEWSを疑え!』第364号(2015年1月22日号)

2014年7月以後の原油価格下落によって、石油輸出国・地域のなかでもっとも経済的に打撃を受けたのは、シリアとイラクにまたがる「イスラム国」であることは間違いない。

米陸軍士官学校「テロとの闘いセンター」(CTC)のジェフ・ポーター助教は1月13日、石油収入が減った「イスラム国」は、新たな油田の占拠を狙うとともに、身代金目的の誘拐や恐喝をさらに行うようになる、という分析を発表した。今回の日本人2人を楯にとった身代金要求は、その分析を裏づけた面がある。

ポーター助教は、原油価格下落と米軍の空爆が始まる前の「イスラム国」の原油生産量とその収入について、「日量16万バーレル、毎日最大600万ドル」、調査会社IHSも「日量5万‐6万バーレル、毎日200万ドル」と推定している。ちなみに、イラクは2013年に340万バーレル、シリアは40万バーレルの原油を生産した。

ポーター助教とIHSの推定は、原油の国際価格が1バーレル100ドル以上だった時期でも、そのうち約39ドルしか「イスラム国」の収入にならなかったという点でも一致している。

それというのも、「イスラム国」は原油の正当な所有者として国際的に承認されておらず、トルコなどの中間業者に密貿易を依頼する弱い立場ということから、原油の国際価格の4割弱の収入しか得られないと見積もられているのだ。

また、「イスラム国」は歴史が短いので、原油価格が下落した場合に財政を安定させるための基金を積み立てていない。ロシア、サウジアラビア、イランなどと異なり、原油価格下落の打撃に対して無防備な状態なのだ。

仮に、「イスラム国」が存続している間に原油価格が再び上がっても、「イスラム国」の主な石油施設は空爆で破壊されており、輸出量と収入が元に戻ることはあり得ない。

ポーター助教は、「『イスラム国』は、石油収入が減ったからといって軍事費を減らすことはできないが、他の支出を減らしてバランスをとるにしても、別に新しい収入源を求めるにしても、いずれも住民の支持を減らしてしまう可能性が大きい」と指摘している。

「イスラム国」は、イスラム的な社会福祉を提供し、国家の機能として電気や水道を住民に供給していると主張してきた。その面の支出を減らすことになれば、「イスラム国」が理想郷だという宣伝が虚偽だったことになり、住民の支持が減るというのだ。

「イスラム国」の財産税・所得税の税率はコーランに基づいており、税収が必要だからといって上げるわけにはいかない。ポーター助教によると、「イスラム国」支配地域では輸入品に対する関税を上げることには宗教的制約がないものの、輸入品の価格はすでに高騰しており、さらに税率を上げることになると住民の反発を招くという。

それゆえ、「イスラム国」は新たな油田の占拠をめざすとともに、恐喝や身代金目的の誘拐で、石油収入の減少を埋め合わせようとするというのが、ポーター助教の見方である。

「イスラム国」による日本人人質2人の身代金の要求は、日本の政府と国民の離間が目的だとする見方が少なくないが、「イスラム国」財政の窮状を考えると、実は身代金を目当てにしているというのが正しい見方かもしれない。

静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之

 

『NEWSを疑え!』第365号(2015年1月22日号)

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。
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