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新潟のドン「裏金2~3千万撒け」で露呈した自民党“金権選挙”のウラ実態

自民党の泉田裕彦衆院議員の告発により発覚した、先の衆院選における裏金騒動。「要求した」とされる星野伊佐夫新潟県議はその違法性を真っ向から否定し、泉田氏の新潟5区支部長の交代を要求するなど、事態は泥仕合の様相を呈しています。自民党と言えば2019年の参院選をめぐる河井克行・案里夫妻の大型買収事件が記憶に新しいところですが、同じ「犯罪」が繰り返されようとしていたのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、現在判明している新潟の裏金騒動の経緯を詳細に振り返るとともに、そこから浮かび上がる自民党の「選挙に関する相場観」を明らかにしています。

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“変人”と“ドン”の泥仕合で露呈した自民党金権選挙の一断面

うまくいっている時は、互いの利益でつながっていた人間関係も、カネがらみで、いったんこじれると泥仕合になる。

泉田裕彦衆院議員が、選挙前に2,000万~3,000万円の裏金を撒くよう星野伊佐夫新潟県議に要求されたと言い、星野県議が「事実無根」と否定している件。

泉田氏は自民党新潟県連に星野氏の除名を要求、星野氏は新潟5区支部長である泉田氏の解任を党県連に申し入れるなど、対立は激しさを増すばかりだ。

かつての田中角栄後援会「越山会」幹部で“新潟のドン”といわれた星野氏がスカウトし政治家に育てたのが泉田氏だ。愛憎は紙一重というが、この世の浅ましさを凝縮したような争いごとの白黒に興味はない。

筆者の関心はただ一つ。河井克行、案里夫妻が広島で派手にやらかしたような買収劇が、自民党の選挙では常態なのかどうかだ。ひょっとしたら、あの衆院選における自民党の圧勝も、カネの威力で成し遂げられたのかもしれない。

ことの発端は、泉田氏が11月29日に投稿した以下のツイートである。

今回の衆議院総選挙で、2~3千万円の裏金要求をされました。「払わなければ選挙に落ちるぞ」という文脈でした。広島で事件があったばかりでよくやると思いましたが、違法行為はお断りしました。そうしたら、選挙は大変でした。。。

泉田氏は、このツイートへの取材が殺到したため、急きょ記者会見を開き、裏金を要求したのが星野県議であることと、録音データが存在することを明らかにした。

泉田氏は10月31日に投開票された衆院選に出馬、小選挙区(新潟5区)では落選し、比例で復活した。

この選挙で泉田氏が不利な情勢にあるのは明らかだった。元長岡市長の森民夫氏が無所属で立候補し、保守分裂の様相だったうえ、野党が一本化して元新潟県知事の米山隆一氏を擁立したからだ。自民党の世論調査も苦戦を予想させた。

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そんななかで、問題の日がやってきた。今年9月4日のことだ。泉田氏は星野県議に呼ばれて、その自宅を訪問した。

録音データには、星野氏と泉田氏の声がおさめられていた。星野氏は泉田氏を諭すように囁き続ける。

「それで泉田さん、勝とうさ、どう思うね」
「もしさ、比例でひっかからなかったら終わりだよ」
「とにかく必要経費を早くまこう。もう余裕がない。選挙が始まってからなんてバカはいない。今だ、今でも遅いくらい」
「2,000万や3,000万出すのにもったいながったら人生終わるよ」

2,000~3,000万円をばらまけば、選挙に勝てると言っているように聞こえる。

泉田氏が「だからあの違法行為にならないようにしないといけないので」と拒否反応を示すと、こう言った。

「そんなものはね、いいですか、はっきり言うよ。言葉の問題だけであって実際はそんなもの気にしている候補者なんか1人もいないからね」

選挙に勝つためなら候補者は法律違反など気にしてはいけないと説く。いったい誰にカネを撒けというのだろうか。

泉田氏は「先生、ちゃんと寄付できるときに言ってくれればいいのに、どうしたらいいんですかね」とため息をついた。選挙間近で寄付したら公職選挙法にひっかかる恐れがある。

泉田氏はそれまでに長岡支部には200万円を寄付しているという。一方、星野氏は「泉田氏から1銭ももらっていない」と主張している。

泉田氏が立候補した衆院新潟5区には長岡市、小千谷市、魚沼市などが含まれる。むろん、その地域の県議、市議がしっかり動いてくれなければ当選は覚束ない。泉田氏はそのための必要経費として200万円を振り込んだが、どうやら星野氏の言う必要経費はそれとは違う種類のカネのようである。

星野氏 「だからさ、この話はもう早く言えば秘書の耳にも入れてはならない。あんた1人の腹、だーれにも言っちゃならないこれは、この話は」

泉田氏 「でもまかないとだめなんでしょ」

星野氏 「まくというのは、ばらまくんじゃねぇちゅうて。実力者、地区地区の(個人名)」「信用できる人に、あれしてもらえば。必要経費ということでね、領収書もらっておいてください」

秘書にさえ言ってはならないカネを地区の実力者に配れと言う。これを泉田氏は「裏金」と言って拒否したが、星野氏は「必要経費で、政治活動費。表の金だ」と強弁する。星野氏の言い分に納得できる人がいるだろうか。

星野氏の言う通り「必要経費」だとしても、なぜそれほどの金額がかかるのか、誰がそれを必要としているのか、大いに疑問だ。

これについて星野氏はこう説明している。「演説会や集会の会場費、郵便局に払う切手代、何かを印刷した時の印刷代などの活動費。これを各支部に払うのが当たり前で、うちの長岡支部は1円も受け取っていない。市議団から役員全員に確認したけども1,000円札1枚も受け取っていない」。

それなら別段、秘書に内緒にして腹におさめておく必要などないはずだ。

新潟5区の当選者、米山隆一氏はかつて自民党公認で衆院選に出馬したことがある。当時、米山氏は自民党新潟5区支部長で、その頃も星野氏が長岡支部長だった。つまり今の泉田氏が置かれた立場と同じだ。その米山氏は「5区支部、長岡支部に党本部から振り込まれる資金は全て星野氏が握っていた」と言い、次のように指摘した。

「直前に2~3,000万円出せと言われたら、合法的に使うのは極めて困難な金額だ」。

つまり、買収資金としか考えられないということだろう。

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一方、元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏は、泉田氏の姿勢に批判的だ。12月2日のフジテレビ系『めざまし8』で、自分の経験をもとにこう解説した。

「国会議員と地方議員、必ずもめる。国会議員が当選するのに、地方議員が一生懸命活動をするのに、国会議員は当選すると地方議員への敬意を忘れちゃう」
「国会議員はすごくお金がくる。それを独り占めしているなら当然地方議員から文句は出る」

橋下氏は2008年の大阪府知事選に出馬するさい、自民党に寄付を求められ、1,000万円を振り込んだという。泉田氏が提供した200万円は少なすぎるということか。

そのためだろうか、10月8日の泉田選挙事務所開所式では、地元議員の不満が噴出した。挨拶に立った宮崎悦男県議のこの発言。

「私も泉田先生にかなり厳しい言葉を言うことは多々ある。もっと地域を歩いてくれよ。現場主義を貫いてくれよ」。

泉田氏との間の深い溝を感じさせる。

泉田氏は新潟県知事を3期つとめ、2016年の知事選にも四選をめざして出馬すると思われたが、県財政の悪化を背景に、地元紙の批判キャンペーンに見舞われ、出馬断念に追い込まれた。地元紙の背後に「原子力ムラ」の存在が見え隠れした。

泉田知事は福島第一原発事故のあと、東京電力の杜撰な防災対策を批判し、一貫して柏崎刈羽原発の再稼働に抵抗する姿勢を示し続けていた。

しかし、その泉田氏も、「寄らば大樹の陰」の呪縛から逃れられる人ではなかった。2017年9月の衆院選。民進党が擁立する動きを見せていたが、星野氏と当時の二階俊博幹事長を頼って自民党から出馬し、当選した。

もとをただせば、通産省の官僚だった泉田氏が岐阜県庁に出向していた時期、たまたま星野氏の目に留まって、新潟県知事選に担ぎ出されたのが政界入りのきっかけだ。素人に選挙の手ほどきをしてくれた星野氏は、いわば恩人であり、恩師である。

だが、日本的なムラ社会と協調せず、霞が関や永田町で変人扱いされ、地元との関係強化に熱心ではない泉田氏に対し、星野氏ら地元議員らの不満はたまっていった。

県議や市議に影響力のある大ボスは、その集票力を武器に、知事や国会議員を擁立し、当選させる。その力に頼らなければ選挙に勝てないことを肌身で感じる知事や国会議員は、大ボスの言いなりになるものだ。ところが、「変人」の誉れ高い泉田氏の場合は、そううまくいかなかったというわけだ。

どうやら、自民党の国政選挙において、地方議員はタダでは動いてくれないらしい。「候補者たるもの、各支部にカネを入れるのは当たり前」というのが常識のようなのである。

しかし、そんな相場観が根っこにあったからこそ、参選広島の大規模買収事件のようなことが起こったのではないだろうか。

そもそも、カネで地方議員を動かし、票を集めようという了見が間違いのもとだ。そんなことだから、全国どこの選挙も疑われる。先の衆院選で、苦戦を伝えられていた自民党が土壇場で戦況をひっくり返したことについても、金力が働いたのではないかと怪しまれる。根本的に選挙運動のやり方を変えたらどうか。

河井事件を踏まえた中国新聞社の調査によると、広島県内の地方議員の9割が国会議員からの寄付金を「必要ない」と、きわめて真っ当な回答をしている。人間、痛い目にあわなければ分からないということだろうか。

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image by: Twitter(@泉田裕彦

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