米軍の動き次第では沖縄本島が戦場に
しかし、有事の際に日本へ退避を試みるのは日本人だけでなく、台湾に住む外国人や台湾人も相当数が流れてくる可能性が高い。台湾からの退避を地理的に考えれば、南部の高雄からフィリピン・ルソン島などを目指す人々もいるかも知れないが、距離的も最も近く、友好関係やインフラ整備を考慮すると多くの人が日本を目指すことになろう。
よって、退避してくる規模は数百や数千という数字ではなく、数十万、数百万という数字を想定する方が現実的だ。だが、天気が良ければ台湾が見える与那国島の人口は2,000人にも満たず、島の面積を考えても受け入れ的に限界がある。ホテルや宿など観光施設を代用するといってもそれはすぐに埋まり、与那国島に避難できない人々は以東の西表島や石垣島などを目指すことになろうが、八重山諸島の限界も考える必要があろう。
一方、米軍が台湾有事に関与するとなれば、それによって沖縄本島が戦場になる恐れがある。嘉手納や普天間に駐留する米軍が台湾有事の際の最前線となれば、中国軍が在沖米軍を狙い、台湾有事は自然に日本有事となる。そうなれば、与那国島周辺で中国海軍、海警局の活動がいっそう活発化し、海上封鎖など八重山諸島への安全な退避ができなくなるだろう。
以上のように考えれば、台湾有事の際の邦人退避は困難を極める。重要なのは、官民を問わず情報を着実に収集・分析し、平時の時から退避できる体制を構築、強化することだ。しかし、2万人の日本人を平時の時に全員退避されるという目標は非現実的で、有事の際にその人数を最小化しておくという政策を強化することが重要となる。
台湾情勢で最も懸念されるシナリオは、中国軍と台湾軍の戦闘機が衝突するなど偶発的事態が生じ、それによって軍事的緊張が一気に高まり、衝突や攻撃の連鎖が生じることだ。短期間のうちにリスクが肥大化するという潜在的脅威がある以上、来年以降、台湾問題においては邦人退避という問題がいっそう議論されるべきだろう。
image by: 防衛省 海上自衛隊 - Home | Facebook