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東京のコロナ重症者たった1桁。それでも「まん防」出す政権の政治的思惑

オミクロン株の感染急拡大を受け、11都県へのまん延防止等重点措置の適用に向け最終調整に入った政府。第5波までと比べ圧倒的に重症者数も少なく致死率も低いと言われるオミクロン株に対して、「まん防」の発出は果たして適切と言えるのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、「これは政治」とし、そう断言できる理由を詳述。その見え見えの「台本」の筋書きを白日の下に晒しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年1月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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1都10県(?)のマンボウ適用要請という異常

マンボウというのは、「まん延防止等特別措置」の略称だそうですが、そもそも「蔓延」という漢語を使いながら「漢字の読めない人にも配慮」してひらがな表記にするというのは、有権者をバカにしているとしか言いようがありません。選挙でよく見る「すずき花子」とかいうやつで、ビジュアル効果をサブリミナルに使う悪質な世論操作とも思えます。

そのマンボウですが、こうなったら「慢性感染予防対策依存症+選挙恐怖症弱体政権維持の特別措置」という名称にしてその略語だとしたほうが良さそうです。

とにかく、小池百合子さんは病床使用率が21.1%だとか言っていますが、冗談ではありません。都の基準での重症者は「5名」だけで、重症病床の利用率は「1%」です。それどころか、都の新規感染者の数字は低下傾向にあります。そんな中で「マンボウ」というのは、人命優先などといった美しい話ではないと思います。

これは政治です。

この間の「水際対策」もそうですが、岸田政権というのは、前任の菅政権、安倍政権の「失敗」を教訓として、「とにかく強めで早めの規制」をかけて来ました。その結果として、鎖国をすればするほど内閣支持率が上がるという「手品」を実現してしまったのです。

この「手品」の前には大きな「幸運」がありました。それは、菅前総理の辞任、自民党総裁選、そして総選挙という一連の政治スケジュールが、「ワクチン接種率向上による感染激減」というトレンドに重なったのです。その結果として、大敗するはずの総選挙結果を「微減」にとどめることができ、自民党単独での過半数という奇跡を実現したのでした。

これは全くの「幸運」であり、岸田政権の成果ではありません。正確に言えば菅内閣の成果であり、菅=河野ラインの残した政治的遺産です。

岸田総理という人は、この「手品」つまり意味合いが薄くても、特にオミクロンの市中感染が始まって水際の意味が薄くなった後でも、「厳し目に実施すると世論が評価してくれる」という手法を意識的にやっています。その上で、「幸運」つまり前回の総選挙の勝因もしっかり分析していることと思います。

問題は、この後の「恐らく3週間のマンボウ」では、この「手品」と「幸運」を掛け合わせた「筋書きのあるドラマ」を仕掛けてくるということです。

南アの例、そして欧州の事例、更には私の住むニュージャージー州と、その隣のニューヨーク州の実例を踏まえていうと、オミクロン株というのは、感染力がデルタの3倍から4倍というのは実感として事実のようです。そこで、次のような現象が起きます。

1)市中感染が始まると、猛烈な勢いで拡大します。ニュージャージーの場合には12月中旬にオミクロンが出てくると、1日あたりの新規陽性者が3,000人台から2週間で一気に3万人まで10倍になりました。

2)ピークは一瞬で、その後は拡大と同じ速いペースで減少します。ニュージャージーの場合は、1月7日がピークで1日3万3,000人となり、「RT(拡大再生産=1人が感染させる人数)」も1.67という恐ろしい値になっていました。ところが、そこから僅か1週間経過した現在、本稿時点の16日には新規陽性者は1万4,000で、RTは1.09と激減しています。

この急速な収束ですが、「ワクチン2回+ブースター」の免疫の壁、そして感染して治癒した人の免疫の壁、これに加えて「感染を自覚しなかった」人の免疫の壁、この3つの壁が「集団免疫レベル」を急速に達成することによって起きる現象と考えられます。

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日本、例えば東京の場合は人口比での感染数はアメリカほどではないものの、既に東京ではピークアウトの兆候が出ていることからも、急拡大の後には急速な減少が起きる可能性は濃厚です。日本の場合は、アメリカより「ワクチン接種率が高いし、接種タイミングが新しい」ことで、ブースターを待たずして減少に向かう一方で、高齢者についてはブースターが後から追いかけるので余計に強固な壁ができる可能性があります。

ということは、一つの可能性としては、

という経過をたどるというシナリオが成り立ちます。実は、オミクロンの特性としてそうなるし、この期間も「重症化率は極めて低く、未接種で基礎疾患の事例がほとんど」ということ、そして「重症者用のベッドの占有率は極めて低レベル」という状態は変わらないと思われます。

ですが、ここからが大切なのですが、「マンボウ」を出して、その後で劇的に感染が下がると「何となくマンボウの効果のように見える」わけです。更に、「その結果としてマンボウを少し早めに解除できる」と、政権がやっていることが「カッコよく」見えるに違いありません。

これが「手品」と「幸運」を掛け合わせた「筋書きのあるドラマ」というわけです。そうすると、内閣支持率は更に盤石なものとなり、夏の参院選へ向けての政権としての不安解消にはなるというわけです。

なんとも言えない見え見えの「台本」とも言えるのですが、一つこのシナリオに意味があるとしたら、それは地方(今回のマンボウ対象県を除く)です。

地方の各県はオミクロンの市中感染が遅れています。ですから、一旦感染がピークになってその後劇的に下がるというのは、恐らく2週間から3週間遅れとなると思います。ですが、1都10県でマンボウをやって、そこから地方への拡大をスローダウンさせると、ブースターが高齢者に「間に合う」ことで地方におけるオミクロンの拡大は「軽微で済ませる」ことができるかもしれません。

その点で言えば、全く効果がないというのは言い過ぎなのですが、その点を別にすれば今回のマンボウというのは、非常に巧妙に計算された「筋書きのあるドラマ」であり、98%が政治的パフォーマンスだと思います。そのために、経済活動を制限し、再びサービス産業などを苦境へと追い詰めるだけの意味は非常に薄いのではないでしょうか。

改めて確認ですが、現時点(マンボウ申請時)の東京の重症者は5人で、重症ベット占有率は1%です。

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image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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