先日掲載の「『中国当局に情報を抜かれる』北京五輪の出場選手に通達が出た異常事態」では、北京冬季五輪に参加する選手たちに降りかかりかねない「災い」についてお伝えしましたが、それ以上の不利益を被る可能性が大きくなってきました。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、北京五輪の組織委が発表した処罰と、選手たちが開催中に口にしてはいけない「タブー事項」を紹介。さらにこの大会について、「世界の中国に対する認識を大きく転換させる契機になりうる」としてその理由を記しています。
【関連】「中国当局に情報を抜かれる」北京五輪の出場選手に通達が出た異常事態
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2022年1月26日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
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【中国】北京冬季五輪では選手までもが踏み絵を踏まされる可能性
オーストラリアではテニスの全豪オープンが開催されていますが、この大会で、「彭帥さんはどこに」と書かれたTシャツや横断幕を掲げたグループが大会関係者によって制止されるという事態が起こり、大きな批判が起こっていました。
そのTシャツの実物の写真は、自由時報が報じています。白地に大きく「Where is Peng Shuai?」という文字が書かれています。大会側は「政治的な声明も掲示してはいけない」という理由から、このTシャツを脱ぐように求めたそうです。
これに対して、テニス界のレジェンドであるマルチナ・ナブラチロワ氏も、「情けない」と大会側の対応を批判していました。また、その他の選手やジャーナリストなどからも、大会が中国に忖度しているのではないかという批判が続出しました。
● 「情けない」。“彭帥さんはどこ”Tシャツ着用禁止の全豪オープンに、テニス界のレジェンドが嘆き
その結果、大会側は平穏にしている限り、Tシャツの着用を認めると方針転換しました。もともとWTA(女子テニス協会)も彭帥氏の安否を懸念し、中国でのテニス大会の中止を決定していたこともあり、今回の方針転換につながったのではないかと思います。
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これで神経を尖らせているのは、北京政府でしょう。北京冬季五輪で「Where is Peng Shuai?」のTシャツを来てくる選手が出てくるかもしれないからです。彭帥氏の問題のみならず、香港やウイグルの人権問題などについて物申す選手が出てくる可能性もあります。
そのため、1月19日に北京冬季五輪の大会組織委員会は、選手が中国の人権問題などに言及した場合、処罰する方針を明らかにしています。CNNの報道によれば、大会組織委員会の国際関係部局の副責任者ヤン・シュウ氏は、「オリンピック精神に反した行動や発言、特に中国の法律や規制に違反するものは、いかなるものも特定の処罰の対象となる」と警告したそうです。
● 【北京冬季五輪】 選手が人権問題で発言なら処罰も 組織委が警告
この警告以前、国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチも、中国のような監視国家では何をされるかわからないので、選手たちは人権問題について発言しないほうがいいと注意を促していました。大会組織委員会が処罰方針を表明したことで、北京五輪では人権問題を口に出せば、選手資格を剥奪されたり、最悪の場合は逮捕すらありうることとなったのです。
前回のメルマガでは、欧米各国が、北京冬季五輪で参加選手たちのスマートフォンやパソコンから情報が抜かれる危険性について警告していることを論じました。IOCは中国政府と交渉し、五輪に参加する外国人選手団や取材陣が選手村や競技場で自由にインターネットサービスが利用できるよう、約束を取り付けたと言われています。
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しかし、もしも選手団や報道陣が北京からSNSで中国の人権問題などについて発信した場合にはどうなるのでしょうか。大会組織委員会の警告によれば、もちろんそれも中国の法律に反したことになるでしょう。
先述したように、ヒューマン・ライツ・ウォッチは外国人選手団に対して、「人権問題について発言しないほうがいい」と注意を促しましたが、それだけでは危険です。中国では表立って発言してはいけないことが数多くあるからです。たとえば、台湾を国家として扱ったり、台湾独立に賛同したりすれば、逮捕される可能性があります。これは中国の反国家分裂法に違反しています。チベットやウイグルの独立についても同様です。
1989年の天安門事件のことを論じることもタブーです。中国の民主化を求めたことで「国家政権転覆煽動罪」に処せられ獄死した劉暁波氏のことを持ち出すのも危険でしょう。言うまでもなく、習近平政権の批判も「国家政権転覆煽動罪」に処せられる可能性があるので厳禁です。
中国に民主化を求めたり、民主主義のすばらしさを喧伝することも、処罰の対象となる危険性があります。香港の民主化運動に賛同や連帯の意思を示すのもリスクが高いといえるでしょう。
つまり、外国人選手団は言わば独裁国家の人質になるということなのです。中国共産党および習近平政権は、結果はどうあれ、北京冬季五輪の成功を大々的に喧伝するはずです。習近平の3期目を決める秋の共産党大会に向けて、失敗は許されないからです。
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オリンピックでの政治的発言は許さないとしながらも、もっとも政治利用しているのが中国共産党と習近平なのです。そのため、自分たちに都合の悪い発言は徹底的に弾圧し、成功をアピールする。「アスリートたちは、中国のオリンピック運営を絶賛していた」と喧伝することは、すでに決まっていることなのです。
北京冬季五輪は、ナチスドイツによる1936年のベルリン五輪によくなぞらえられます。しかし、当時のベルリン五輪でも、これほど外国人選手の発言に慎重さが求められることはなかったのではないかと思います。
外国人アスリートからすれば、本来はスポーツを通して人々に感動を与える存在であるはずが、中国の独裁プロパガンダや人権弾圧の正当化に加担することになり、非常に複雑な心境なのではないかと思います。
北京五輪のスポンサー企業は、広報活動に苦労しているようです。五輪を積極的に後援する姿勢を見せれば、人権問題を軽視していると国際的な批判を受けるリスクがあるからです。一方で、中国でのビジネスを考えれば、中国政府の顔色を伺わないといけないことになります。これのどこが「平和の祭典」なのでしょうか。
● 北京五輪スポンサー企業の苦悩 「米中の顔色をうかがわなくては」=韓国報道
そして、そのような葛藤は、参加選手も同様です。自由な発言をすれば資格剥奪どころか中国に逮捕される可能性がありますし、中国を礼賛すれば人権軽視と批判されます。まあ、積極的に中国を礼賛する選手は少ないとは思いますが。
私は、この北京冬季五輪において、思想や発言の自由を巡って、大きく揉めるだろうと思っています。すべてのアスリートの口を塞ぐことは不可能です。それでも資格剥奪や逮捕監禁をすれば、中国は「西側諸国とはまったく相容れない存在」であることが明らかになります。一方で、もしも自由な発言を放置すれば、中国共産党の絶対無謬性が傷つくことになりかねません。
そういう意味では、北京冬季五輪は、世界の中国に対する認識を大きく転換させる契機になる可能性があります。
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