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自公の選挙協力にヒビ割れ。創価学会が自民党にかけた脅しの内容

連立政権を組む自民と公明両党の間に、夏の参院選における選挙協力をめぐり、隙間風と呼ぶにはいささか強い風が吹いています。協力の基本である相互推薦に煮えきらない姿勢を取り続ける自民に対し公明サイドは激しい反発を見せていますが、7月10日に予定されている投開票に向け事態はどのような推移をたどるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、「狡猾な知恵が働いて関係修復に至る」と見るものの、問題の根は深いとしてそう判断する理由を明示。さらにまともとは言えない自公接近の経緯の詳細を紹介するとともに、今夏参院選後の両党の関係性を考察しています。

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ひび割れした自公選挙協力。このさい政教分離の観点から見直しを

今夏の参議院選挙でどのように協力し合うかをめぐり、自民党と公明党の間がぎくしゃくしているようだ。

自公選挙協力の軸は相互推薦だが、茂木自民党幹事長は兵庫選挙区などで、公明党推薦の結論を出せずにいる。業を煮やした公明党は、ついに選挙協力をしないと言い出した。

とかく人望のなさを云々される茂木自民党幹事長のこと。上手く信頼関係を築けず、公明党幹部がつむじを曲げてしまったのだろうか。

野合の最たるものが、両党の関係だ。憲法改正一つとっても、政治理念はまるで違う。両党を結びつけているのは不純な動機だ。自民党は今や公明党の支持母体、創価学会票なくしては選挙に勝てない。一方の公明党は、すっかり定位置となった国交相など大臣の座を確保し、政権の旨みをなめつくしたい欲ボケの魔物が棲みついている。

だからこそ、いずれは双方が歩み寄り、狡猾な知恵が働いて関係修復に至るのだろうが、今の“ひび割れ状態”は、連立継続にとって、根の深い問題をはらんでいるといえよう。

問題が表面化したのは今年1月14日のことだ。公明党の石井啓一幹事長が定例会見で、選挙協力が難航していることを明かした。

「現状、自民党の中で5選挙区についての理解がなかなか進んでいない」

5選挙区とは、改選数4人の埼玉、神奈川、愛知と、改選数3人の兵庫、福岡である。これらの選挙区で自民党が公明党の候補者を推薦。その代わり、公明候補のいない1人区では公明党が自民党候補を推薦する。これを相互推薦と称し、これまでの参議院選では、前年末に自公の間で協定が交わされていた。

ところが今回はスムーズにことが運ばない。公明党は5選挙区での推薦をいつも通り昨年末までに決めるよう自民党の茂木幹事長に要請していたが、いっこうに回答がない。

衆院選を終えたばかりとあって、公明党は準備を急いでいる。集票部隊である創価学会会員が態勢を立て直し、フル回転するには時間が必要だ。公明党の事情とは、たいていの場合、創価学会がらみなのだ。

茂木幹事長がグズグズしている最大の原因は、兵庫選挙区の事情だ。

同選挙区の参院選で、自民党は2016年にトップ当選したのに、19年は3位だった。しかも次点の立憲候補に激しく追い上げられた。一方、自民党の推薦を受けた公明候補は維新に次ぐ2位に食い込んで悠々と勝利を手にした。

当時の安倍首相や菅官房長官が公明候補の応援に駆けつけたのも大きかった。自民党の力で公明党に想像以上の票を集め、その分、自民党候補が苦しんだわけである。

このため、自民党兵庫県連には公明党との選挙協力を嫌がる空気が強い。関西で勢いを増す維新がさらに票を伸ばす可能性が高いうえ、前回僅差まで迫った立憲も侮れない。

「19年参院選のような選挙協力をして、もし自民党候補が落選したら」という不安は茂木幹事長にもあるだろう。なにしろ、兵庫選挙区に出馬予定の末松信介氏は現職の文部科学大臣であり、16年の選挙ではトップ当選しているのだ。

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茂木幹事長の対応にしびれを切らした公明党は強い態度に出た。山口那津男代表が、1月15日に開かれた各都道府県本部代表らとのオンライン会議で、夏の参院選は自民党との相互推薦による選挙協力を実施しないと言明したのである。

自民側が相互推薦のデメリットを懸念するなら、公明側にも言い分があろう。相互推薦を本格導入した2016年以降、国政選挙における比例獲得票が目立って減り続けている。

学会員の高齢化による集票力の鈍化という面もあるが、自公協力で選挙区に重点を置かざるを得ず、比例票の掘り起しまで手が回らないのが実情のようだ。

創価学会も自民党に異例のプレッシャーをかけた。

公明党の支持母体の創価学会は27日、夏の参院選の候補者への支援に関する基本方針を発表した。人物本位を支援基準とする原則を徹底し「党派を問わず見極める」と明記した。(日経新聞)

自民候補なら無条件に支援が得られると思うなよ、という脅しだ。

茂木幹事長は1月31日の記者会見で「自公は連立与党なので、協力を進められるようにしていきたい」と語り、相互推薦へ向けて努力する姿勢を示したが、党内にはいぜん危機感が漂っている。石破茂元幹事長は1月17日の日テレ「深層NEWS」に出演し、こう語った。

「これは(影響が)出ますね。ものすごく出ますね。…自民党にとって是正し得るものなのかどうか。是正しえないのであれば、推薦してもらえない選挙区はけっこうしんどいことになる。選挙まで半年もない。体制をかなり立て直さないと厳しいことになる。あまりなめてはいけない」

現執行部に苦言を呈したかたちだ。週1回開かれていた自公の幹事長、国体委員長会談が岸田政権誕生以降は途絶えていたことも、両党幹部間の信頼関係に疑問を抱かせる。

自民党はこのさい、自公連立を見直したらどうなのだろうか。創価学会という特定の宗教団体に選挙戦を依存する政党が政権を担うというのは、そもそも憲法の「政教分離」原則に反している。

自公接近の経緯からして、まともではない。もとをただせば、1996年3月、当時の公明党代表、藤井富雄都議らが、ある暴力団組長と密会しているビデオテープを野中広務幹事長代理が入手した時までさかのぼる。

のちに野中氏と結んで自公連立のキーマンとなる藤井氏は、学会本部への右翼・暴力団の街宣車を排除するため、元警視総監の仲介で暴力団組長に会ったという。

当時の自・社・さ連立政権は、住専の不良債権処理に6,850億円もの税金を投入する予算案を提出していた。住専に巨額の融資を続けた農林中金や県信連など、農協系金融機関を救済するのが目的だった。

それに反対する新進党は国会にピケを張って抵抗した。この局面を打開するため、野中氏はビデオテープの存在をちらつかせ、新進党の旧公明党議員に住専問題で妥協するよう迫ったのだ。

これをきっかけに野中氏は、創価学会中枢に近づき、新進党の切り崩しにまんまと成功。97年12月、新進党は解党、6つの政党に分裂した。野中氏は公明・創価学会とのパイプを武器に、党内の実力者にのしあがっていく。

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98年7月の参院選で、自民党が惨敗し橋本内閣が総辞職。小渕恵三氏が首相の座に就くと、野中氏が官房長官に指名された。総裁選に敗れた梶山静六氏は側近にこう言ったという。

「お前ら見てろよ。小渕内閣は必ず公明と組むぞ。窓口には野中がなる。あいつがみんなを牛耳るんだ。公明票がなければ当選しないから、みんな野中に頭を下げなきゃならなくなる」(魚住昭「野中広務・差別と権力」より)

99年10月、公明党は連立政権に参加し、梶山氏の予言は現実となった。「自公連立政権の存在は、日本に政治の安定をもたらした」と公明党の山口代表は胸を張るが、裏を返せば、権力の堕落と腐敗を招く温床でもあったのではないか。

たとえ今回の選挙協力が最終的には首尾よく運ぶとしても、同じような問題が今後も起こってくるに違いない。「身を切る改革」を掲げ、関西から全国に地盤を拡大しようとしている日本維新の会のほうが、「平和」「福祉」の公明党よりよほど自民党の政策に近い。その伸長しだいでは、ますます自公関係は微妙になっていくだろう。

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image by: BjornBecker / Shutterstock.com

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