ふじみ野「猟銃立てこもり事件」が奪った、貴重な“機会”と尊い心

 

私の場合は医療行為ではなく、福祉サービス上の支援行為もしくは任意の取組としての訪問支援。通所型の福祉サービスは、当事者が家から出て社会に出て活動することを前提にしており、訪問とは家から出られない要因があることで成り立つから、精神疾患にしても症状に改善が必要な場合が多い。

この「重い」症状の方々の訪問支援は崖っぷちにいる人との真剣な対面でもあるのだ。私も精神疾患の方の自宅におうかがいしてコミュニケーションをとることで信頼をベースにした関係性を構築でき、その後の支援がスムーズになる。私個人は積極的に行っているものの、それには時間と手間、そしてエネルギーを要することなので、勤務外の時間でやることが多い。

つまり、業務上で実践することは通所する方への対応などで追われた中では難しい。家に行くことでのリスクもある。だから、組織の管理者である私として支援するものは関係機関と話し合いを行い、福祉サービスを受給していない当事者で支援を求めている人へは、個人的な活動として訪問を行っている。

訪問支援が必要な困難な状況の当事者とその人の家で対話することで見えてくるものは多い。「困難」は言葉にはしにくい。言葉での説明だけでは実感がわかないことも多いから、感じることから始まる。同時に当事者と初めてコミュニケーションが成り立つことも多い。その感覚を持って当事者に向かおうとする心に支援の本質があると私は信じている。

冒頭の亡くなった医師は、その本質を知ったからこそ地域で8割もの訪問医療をし、仲間からも患者からも信頼を得ていたのだろう。彼の尊い命は、その尊い心とともに亡くなってしまったと呆然とした気持ちになる。支援や医療が必要な人に訪問し、会って、感じて、つながっていくことの尊さをかみしめたい。

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