岸田首相「新しい資本主義」は怪しさ満点。国会答弁で判った日本国宰相の大誤解

 

また自社株買いというのは、これは確定した利益ではなく長期的に考えて、株として社会から「お金を借りている」状態から、その金を返していくという行動です。どういうことかというと、その時、たまたま資金に余裕ができたとしたら、株という名の借金を減らしておいて、1株あたりの利益を高めて株価を上げる、そうすれば将来に必要な場合には資金が調達できるし、株価を高く維持できるので買収などの危険が減るという話です。

勿論、企業が悪徳な商法で暴利を貪って、その儲けた株を配当したり、あるいは自社株買いにだけ注ぎ込むのは確かに経済の倫理に反します。ですが、儲かっているのなら賃金を上げるべきだとか、自社株を買う金があったらイノベーションに投資すればいいというのは暴論です。

カーリングと一緒です。必要なガードをしないで、最初にどんどん真ん中に置いても、結局は出されてしまって終わりということです。とにかく、現代の自由経済というのは国境のない一体化したグローバルな投資環境の中で勝っていかねばなりません。配当をしなければ株価が叩かれるので配当し、更に自社株買いで一株あたりの価値を高める努力をしないといけません。

株価が下がれば、無価値な会社は信用力を失って潰れるし、価値のある、例えば資産があったり、技術力があるのに正当な株価を形成できない企業は、国際的なM&Aのターゲットになって買われてしまいます。ですから、企業は「お金持ちに迎合するため」に配当したり自社株買いをしたりするわけではないのです。

前原質問について、その主旨が「配当するな」とか「自社株買いするな」ということではなく、とにかく「資金調達をせよ」という意味だとしましょう。株式市場は「資金調達をするところ」だと威勢の良いことを言っているわけで、だったら「どうして資金調達が低いのか」ということを考えてみるべきです。

理由は大きく3つあります。

1つはそもそも国内に「株に投資するようなリスクの取れる資金がない」からです。個人金融資産の過半は高齢者が握っており、従ってホライゾン(自分が引き出して使う時期までの時間)は短いし、リスクを嫌うからです。

2つ目は、そもそも資金が必要でも英語のできる財務の人材がいないので海外から金を引っ張ってくることができないし、仮に人材がいても「この先の日本経済はどんどん弱くなり、円安ドル高になる」と思うと、海外から資金調達をする勇気は出ないということがあります。

3つ目は、カネを引っ張って最先端のイノベーションをしようにも、原子力やリニアなどの先端技術は世論が嫌うし、新薬も治験が難しいので難しいし、バイオも嫌われるし、コンピュータは人材がいないし全体が遅れているなど、すでに国全体で新規事業に取り組む風土が失われているということがあります。

そうした構造的な問題に取り組むのが先で、とにかく「資金調達より配当が多い」などというのは暴論以外の何物でもないと思います。しかも「海外流出」がどうのというのですから最悪です。

問題はこれに対する岸田総理の答弁で、もう一度掲げますが、総理は、

「資本主義というものは関与するステークホルダーそれぞれに資するものでなければ持続可能なものにならないという観点から考えた場合に、株主還元という形で成長の果実等が流出しているということについてはしっかりと受け止め、この現状について考えていくことは重要であると認識している」

などと迎合した答弁をおこなっていました。前原質問のメチャクチャな論理を否定しなかったのです。

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